第18話 「お願い」と、「出発」
お待たせしました、第1章最終話です。
スキル「魔導具作成」を用いて、初めて魔導具を作った春風。
その時に作った「見習い賢者のマジックスマートフォン」をジッと眺めていると、
「ん? どうしたの春風君?」
と、アマテラスがそう尋ねてきたので、
「いえ、これの名前なんですけど、長いから『マジスマ』と呼ぶことにしようかなと……」
と、春風はアマテラスに向かってそう答えた。どうやら出来上がったその魔導具の名前が長いので、何と呼ぼうかと悩んでいたようだ。それを理解すると、
「……うん、それでいいと思う」
と、アマテラスはグッと親指を立てながら、笑顔でそう言った。
そんな訳で、「見習い賢者のマジックスマートフォン」……以下、「マジスマ」を手に、
「それじゃあ次は……」
と、春風が他のスキルを確かめようとしたその時、
「あー、春風君」
と、今度はオーディンがそう話しかけてきたので、
「ん? 何ですか?」
と、春風がそう返事すると、
「色々と試してみたい気持ちはわかるけど、そろそろエルードに行ってほしいんだよね」
と、オーディンは申し訳なさそうな笑みを浮かべながらそう言ったので、
「あ、そうでした!」
と、春風はハッとなって「すみません!」と謝罪しながら、持っていたマジスマをポケットにしまった。
その後、
「さて春風君。向こうに着いたら、君にやってほしいことが幾つかあるんだ」
と、オーディンがそう言ったので、それを聞いた春風はゴクリと唾を飲むと、
「まずは先に召喚された者達、つまり君の担任教師とクラスメイト達、そして、君の大切な人達の無事の確認だ。今のエルードという世界どうなっているのかわからないからね」
と、オーディンはそう説明した。
その説明を聞いて、
(そうだよね。あれから結構時間経ってると思うし、みんな無事だといいんだけど……)
と、春風は不安そうな表情になったが、
「春風君」
と、オーディンに声をかけられたので、春風はハッとなって、
「大丈夫です。話の続きをお願いします」
と、真っ直ぐオーディンを見ながらそう言った。
その言葉を聞いて、オーディンは「わかった」と言って続きを話し始める。
「次に、出来ればでいいから、向こうがどういう状況になっているのか情報を集めてほしいんだ。何せ、こっちはあの子達と連絡が取れない状況だからね」
と、そう話したオーディンの言葉に、
「わかりました。どれくらい集められるかわかりませんけど、やります」
と、春風はそう返事した。
その言葉を聞いて、オーディンが「ありがとう」とお礼を言うと、また、話の続きを始める。
「それじゃあ、次に君にしてほしいのは、僕達との『連絡手段』に確保だ」
「連絡……ですか? 一体、俺はどうしたら?」
と、オーディンの言葉を聞いて、春風が恐る恐るそう尋ねると、
「大丈夫。今の君は僕の『分身』。故に、その体には『神』の力が宿ってると言ってもいい。だから、向こうの世界の神々を見つけたら、後は彼らに触れるだけでいいんだ。そうすることによって、僕達と連絡を取り合うことが出来るという訳さ」
と、オーディンは説明するようにそう答えたので、
「なるほど。そういうことでしたら、わかりました」
と、春風は納得したと言わんばかりの表情でそう言った。
その後、
「あの、以上でしょうか?」
と、春風が再び恐る恐るそう尋ねると、
「あ、待って。あと1つあるんだけど、これは僕からの個人的な『お願い』と言えばいいのかな」
と、オーディンは申し訳なさそうな表情でそう答えたので、
(え、何だろう。『神様』が俺に『お願い』なんて……?)
と、春風は首を傾げながらそう疑問に思った後、
「あの、俺に何をしてほしいんですか?」
と、オーディンに向かってまた恐る恐るそう尋ねた。
その質問を聞いて、オーディンは「うぅ」と唸りながら、なんとも気まずそうな表情で、
「え、えっとね……」
と、「個人的なお願い」を話した。
それは、今の春風にとってはあまりにも受け入れられないもので、その「お願い」を聞いた後、
「……は?」
と、なんとも嫌そうな表情でそう声をもらしたので、
「ま、まぁそうだよね」
と、オーディンは苦笑いしながらそう言うと、すぐに真剣な表情になって、
「春風君、君の気持ちはわかるよ。でも……」
と、オーディンは春風に向かって真剣な表情で、その「お願い」の理由を説明した。
その説明が終わると、
「……俺に、出来るでしょうか?」
と、春風が不安そうな表情でそう尋ねてきたので、
「大丈夫。君なら、きっと出来るさ」
と、オーディンは穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
その言葉を聞いて、春風は表情を曇らせたが、すぐに「いかんいかん!」と言わんばかりに首をブンブンと横に振ると、
「わかりましたオーディン様。あなたの『お願い』、お引き受けします」
と、また真っ直ぐオーディンを見ながらそう言ったので、
「ありがとう、春風君」
と、オーディンは再び春風に向かってお礼を言った。
その後、
「おーい! 向こうに行く為の準備が出来たぞぉ!」
と、ゼウスが叫ぶようにそう言ったので、
「じゃあ、行こっか春風君」
「はい、オーディン様」
と、春風とオーディンはすぐにゼウス達のもとへと向かった。
そして、春風がゼウス達の傍に立つと、
「あ、そうだ!」
と、春風は何かを思い出したかのようにハッとなったので、
「ど、どうしたの春風君!?」
と、驚いたアマテラスがそう尋ねると、
「すみませんが、『地球』が消滅するまでの『期限』ってありますか?」
と、春風はアマテラスに向かってそう尋ね返した。
その質問を聞いて、アマテラスだけでなく他の神々までもが「あ!」と口を開けると、
「ああ、そういえばまだ言ってなかったわね。私達『地球の神々』も出来るだけ頑張るけど……長くても、あと1年ね」
と、アマテラスは春風に向かってそう答えたので、
「『1年』ですか……」
と、春風は再び表情を曇らせたので、
「怖いか、春風?」
と、ゼウスが心配そうな表情でそう尋ねてきた。
その質問を聞いて、
「はい。勿論不安ですし、もし失敗したらと思うと、すごく怖いです」
と、春風は正直そう答えたので、ゼウスをはじめとした地球の神々は皆、
(まぁ、そうだよね)
と、納得の表情を浮かべていると、
「ですが……」
『ん?』
「もう、そんなこと言ってられません。俺には、二度と失いたくない『大切なもの』がありますから」
と、春風は真剣な表情でそう言ったので、
「はは、そうかい」
と、ゼウスは感動のあまり泣きそうになりながら言った。それは、他の神々も同様だった。
そして、神々が全員キリッとした表情になると、
「それじゃあ、今からあなたを、エルードに送るね」
と、アマテラスがそう言ったので、
「はい、お願いします」
と、春風はコクリと頷きながらそう返事した。
それを聞いた後、アマテラスは「じゃあ……」と言って春風の頭にポンと手を置いた。
すると、春風を中心に真っ赤な光の「円」が描かれて、その瞬間、春風の体が空中に浮かんだ。
そして、
(これで、エルードに行けるんだ)
と、春風はそう考えると、
「行ってきます!」
と、アマテラス達に向かって元気よくそう言ったので、それを聞いたアマテラス達も、
『行ってらっしゃい!』
と、春風に向かって元気よくそう言った。
その後、春風は真っ白な空の彼方へと消えたので、それを見た後、
「頼んだよ、春風君」
と、オーディンはボソリとそう呟いた。
どうも、ハヤテです。
という訳で、以上で「プロローグの延長」とも言える第1章が終了し、次回からはいよいよ異世界「エルード」を舞台とした物語の開始となります。
お楽しみに。