第181話 イヴリーヌの「提案」
今回は、いつもより少し長めの話になります。
それから暫くして、ルーセンティア王国王城内、謁見の間。
そこには、国王ウィルフレッドと王妃マーガレット、2人の娘である王女クラリッサとその妹イヴリーヌ、そして、爽子ら勇者達と、
「むむ、『調査』ですと?」
「そうだ、ジェフリー教主」
五神教会現・教主のジェフリーがいて、今、ウィルフレッドがそんなジェフリーに向かって、
「どうも『中立都市フロントラル』の周辺で、『邪神眷属が出現している』という不穏な噂があってな、それを我々で調査することになった。それで、その調査に勇者達の中から数人ほど同行させてほしいのだが、構わないだろうか?」
と、尋ねていた。
そう、これがイヴリーヌが出した「提案」だった。
普通に「勇者達をフロントラルに行かせてほしい」と言えば、ジェフリーをはじめとした五神教会側は「何か裏があるのでは?」と疑い始め、そこからやがて「目的は雪村春風に会う為なのでは?」という結論に至ってしまう。そうなってしまえば、春風に対していい感情を抱いてない者達(当然、ジェフリーも含まれる)は間違いなく猛反対するだろう。
しかし、世界中で封印から目覚めた「邪神」とその眷属が暴れ回っているという話が広まっている今なら、その話が事実であるのか調査しつつ、あわよくば勇者達を成長させる為という名目が出来るという訳だ。
ただ、「少々強引すぎるのでは?」という疑問も含まれているので、提案したイヴリーヌは勿論、ウィルフレッドら王族達や爽子ら勇者達も、上手くいくか不安になってはいたが。
まぁとにかく、ウィルフレッドの話を聞いて、ジェフリーは「うーむ」と考え込むと、
「ウィルフレッド陛下、幾つか質問してもよろしいでしょうか?」
と、ウィルフレッドに向かってそう言ったので、それにウィルフレッドが「構わない」と返事すると、
「陛下のお話はわかりましたが、何故、『勇者』達を同行させるのですか?」
と、ジェフリーは目を細めながらそう尋ねてきた。
その質問に対して、ウィルフレッドが「うむ」と声をもらすと、
「爽子殿達がこの世界に召喚されてからもう1週間を過ぎた。であれば、そろそろ彼女達に、『外の世界』を見てもらおうと思ってな。ああ、勿論、何があるかわからないから、まずは少人数で行ってもらう形にはなるがな」
と、ウィルフレッドは堂々とした態度でそう答えた。
その答えを聞いて、ジェフリーが「そうですか……」と呟くと、
「それで、一体どの方を同行させるおつもりなのですか?」
と、チラッと爽子達を見ながら再びそう尋ねてきたので、
「うむ、こちらで厳正に話し合った末、同行させる者は……」
と、ウィルフレッドがそう返事すると、
「まずは海神歩夢殿、天上美羽殿、暁鉄雄殿、野守恵樹殿、そして、夕下詩織殿の5人だ」
と、爽子達……正確には、歩夢、美羽、鉄雄、恵樹、詩織の5人を見ながらそう答え、視線を向けられた5人も、ウィルフレッド、ジェフリーの順にペコリと頭を下げた。
それを見て、
「ほうほう、なるほど……」
と、ジェフリーがそう呟くと、
「陛下、質問を続けてもよろしいでしょうか?」
と、ウィルフレッドに向かってそう言ったので、
「ああ、構わない。何だろうか?」
と、ウィルフレッドがそう返事すると、
「今陛下が仰った5人もですが、今の勇者様方はレベルがまだ1のままです。そんな状態で『外の世界』に連れ出すなど、少々危険過ぎるのではないですか? もう少しこちらで訓練を積んでからでも遅くはない筈では?」
と、ジェフリーはかなり真剣な表情でそう尋ねてきたので、その質問を聞いて爽子達がゴクリと唾を飲む中、
「確かに、ジェフリー教主の言うことは尤もだ。しかし、だからといって爽子殿達をこのままここに留めておくことが、彼女達の、否、この世界の為だろうか? 己の目で『外の世界』を見て、『現実』を知ることこそが、彼女達自身の成長に繋がるのではないのか?」
と、ウィルフレッドは真っ直ぐジェフリーを見ながらそう尋ね返した。
まさかの質問返しを受けて、ジェフリーは「う……」と呻いたが、それでも引かずに、
「確かに、勇者様方に成長してほしいのは私も賛成です」
と呟くと、
「ですが、様々な危険が蔓延る『外の世界』に連れ出して、もし勇者様方に万が一のことが起きれば、陛下に責任は取れるのですか?」
と、ギロリとウィルフレッドを睨みながらそう尋ねた。
そんなジェフリーの姿を見て、爽子達がタラリと汗を流すと、
「そのようなことは起こさせはしません!」
と、それまで黙っていたイヴリーヌが声をあげたので、
「む? イヴリーヌ様、今のはどういう意味でしょうか?」
と、ジェフリーがイヴリーヌに視線を向けながらそう尋ねると、
「申し訳ありませんがジェフリー教主様。今回の調査は、わたくし、イヴリーヌ・ヘレナ・ルーセンティアが代表として行くことになりました」
と、イヴリーヌは胸を張って真っ直ぐジェフリーを見つめながらそう答えたので、それを聞いたジェフリーが「何ですと!?」と言って再びウィルフレッドに視線を向けると、
「ああ、事実だ。今回の調査は、我が娘イヴリーヌが代表となっている。勿論、調査メンバーとして数人の騎士達も同行する」
と、ウィルフレッドはコクリと頷きながらそう言ったので、ジェフリーは若干「納得出来ん!」と言わんばかりの表情をしつつも、
「そ、そうでしたか……」
と呟いて、
「では、イヴリーヌ様。それですと、あなた様が『勇者様方を守る』ということでよろしいのでしょうか?」
と、今度はイヴリーヌに向かって真剣な表情でそう尋ねてきたので、
「はい、そうです。歩夢様達は、わたくしがお守りします。決して、ジェフリー教主様が仰ったような『万が一の事態』など起こさせはしません」
と、イヴリーヌはジェフリーに向かってはっきりとそう言い切った。
その言葉を聞いて、ジェフリーは目を細めた後、「ふぅ」とひと息入れて、
「わかりましたウィルフレッド陛下、そしてイヴリーヌ様。ですが、1つ『条件』があります」
と、ウィルフレッドとイヴリーヌに向かってそう言ってきたので、
「条件とは?」
と、ウィルフレッドが首を傾げながらそう尋ねると、
「その調査には、我々五神教会からも何人か同行させてもらいます。もし、嫌というのであれば、勇者様方の同行を反対とさせてもらいます」
と、ジェフリーはそう答えたので、それにウィルフレッドとイヴリーヌは顔を見合わせた後、お互いコクリと頷いて、
「わかった。その条件をのもう」
と、ウィルフレッドがジェフリーに向かってそう言った。
その言葉を聞いて、ジェフリーが「そうですか」と呟くと、
「わかりました。それでは、勇者様方の調査への同行を認めましょう」
と、ウィルフレッドに向かってコクリと頷きながらそう言った。
その言葉を聞いて、爽子ら勇者達は表情を明るくし、
「ジェフリー教主、感謝する」
と、ウィルフレッドはジェフリーに向かってペコリと頭を下げながら、
(よかった。これで、問題の1つはクリアだな)
と、心の中でそう呟いた。




