第176話 その頃、ルーセンティア王国では……・2
「雪村春風殿が、『中立都市フロントラル』に現れた」
と、爽子達に向かってそう言ったウィルフレッド。そんな彼の言葉に、周囲から「えぇ!?」と驚きの声が上がった後、
「そ、それは、本当ですかウィルフレッド陛下!?」
と、大きく目を見開いた状態の爽子が、ウィルフレッドに詰め寄るようにそう尋ねた。
いや、爽子だけではない。
「ほ、本当に……本当にフーちゃんがそこに現れたんですか!?」
「それって、冗談じゃないんですよね!? 冗談じゃないんですよね!?」
と、爽子の生徒である2人の少女、歩夢と美羽も、ウィルフレッドに詰め寄りながらそう尋ねてきた。
それにウィルフレッドは「ぬお!」と驚きつつも、
「ああ、間違いないそうだ。ちゃんと説明するから、3人とも、どうか落ち着いてほしい」
と、スッと手を上げて「どーどー……」と爽子、歩夢、美羽を制しながら答えて、それを聞いた3人はハッとすると、
「「「す、すみませんでした!」」」
と、恥ずかしそうに顔を赤くしながら、ウィルフレッドから2、3歩下がった。
それを見て、ウィルフレッドが気持ちを切り替えようと「コホン」と咳き込むと、
「あの、お父様……」
と、クラリッサが口を開いたので、
「む? どうしたクラリッサ?」
と、ウィルフレッドがそう返事すると、
「その、彼はそこで何をしていたのでしょうか?」
と、クラリッサがそう尋ねてきたので、
「うむ。アデレード殿の報告によると、春風殿はフロントラルに入って一晩過ごした翌日に、『ハンターギルド総本部』で、『ハンター』として登録したそうだ」
と、ウィルフレッドはクラリッサを見つめながらそう答えた。
すると、
「あの、私からも質問してよろしいでしょうか?」
と、今度は落ち着いた表情の爽子が「はい」と手を上げながらそう言ったので、それにウィルフレッドが「むむ?」と反応すると、
「その、フロントラルという場所に現れたのは、雪村1人だけですか?」
と、爽子が恐る恐るといった感じでそう尋ねてきたので、
「ああ。『ハンター』として登録した際、彼の傍には『レナ・ヒューズ』もいたと、アデレード殿から報告があった」
と、ウィルフレッドがそう答えると、
「「っ! レナ・ヒューズ!」」
と、その答えを聞いた歩夢と美羽がそれぞれ拳をグッと握り締めた。よく見ると、2人の表情から微かだが「怒り」が滲み出ていたので、
(ああ。2人とも、『レナ・ヒューズ』に対して『怒り』を抱いてるのだろうなぁ)
と、ウィルフレッドは心の中でそう結論づけた。
その後、ウィルフレッドは再び「コホン」と咳き込むと、
「まぁそんな感じで、春風殿は『ハンター』として登録した訳だ。ただ、彼は自身が『異世界人』であることを隠したかったのだが……」
『ん?』
「なんと登録して早々、ギルド総本部長のフレデリック殿にバレてしまったそうだ」
と、真剣な表情でそう言ったので、その言葉を聞いた瞬間、
『ええぇ!?』
と、爽子とその生徒達からそう声があがり、更に、
「そしてその流れで、フロントラルの現・市長であるオードリー・クロフォード殿にもバレてしまったという」
と、ウィルフレッドが続けてそう言ったので、その言葉を聞いた瞬間、
『駄目じゃん!』
と、また爽子と生徒達からそんな声が上がった。
その後、ハッとなった爽子は「いかんいかん!」と首を左右にブンブンと振ると、
「あ、あの……それ、かなり良くない流れなのでは……?」
と、ウィルフレッドに向かって恐る恐るそう尋ねた。
その質問に対して、ウィルフレッドは「うむ……」と声をもらすと、
「春風殿は、自身が異世界人であることがバレた当初、『自分とレナ・ヒューズをルーセンティア王国に引き渡すのか、それともこの場で始末するつもりか?」と尋ねたそうだ」
と、真剣な表情のままそう答えたので、それを聞いた生徒達の一部はショックでどよめき出した。
しかし、
「だが、安心してほしい。フレデリック殿とオードリー殿は癖の強い人物ではあるが、春風殿が異世界人だからといって彼を同行するつもりはないそうだ」
と、ウィルフレッドがそう言うと、爽子と生徒達はホッと胸を撫で下ろした。
その後、
「おお、そういえばすっかり忘れていた!」
と、ウィルフレッドが何かを思い出したかのような表情を浮かべたので、それに爽子達が「え?」と反応すると、
「実はアデレード殿からの報告の後、彼女からとあるものが送られてきたのだ」
と、ウィルフレッドはそう言って、自身の懐から3つの小さな木箱を取り出した。
その木箱を見て、
「あの、それは一体……?」
と、爽子がそう尋ねると、
「ストロザイア帝国で開発された『映像記録用魔導具』で、これには『ハンター』となった春風殿の、一連の行動が『映像』として記録、保存されている」
と、ウィルフレッドは木箱を見せながらそう説明したので、
『おぉ!』
と、爽子と生徒達だけでなくマーガレット、クラリッサ、イヴリーヌからもそう声があがった。
その後、
「あの、お父様! 保存された映像は、見ることが出来るのですか!?」
と、それまで黙って話を聞いていたイヴリーヌが、何故か少し興奮した様子でそう尋ねてきたので、
「ああ、勿論だ。私がこれに魔力を流せば、保存された映像を見ることが出来る」
と、ウィルフレッドはイヴリーヌを見ながらそう答えた。
それを聞いて、爽子と生徒達から『おおおぉ!』と声があがったので、
「ふふふ、勇者諸君……見てみるか?」
と、ウィルフレッドは意地の悪そうな笑みを浮かべながら、爽子達に向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、爽子達が「え?」と少し悲しそうな表情を浮かべたが、
「あなた?」
と、もの凄いプレッシャーを放つ笑顔のマーガレットに声をかけられたので、
「む……す、すまない」
と、ウィルフレッドはそう謝罪すると、また「コホン」と咳き込んで、
「安心してほしい、皆にも勿論見せるからな」
と、爽子達に向かってそう言うと、
『ありがとうございます!』
と、爽子と生徒達はそうお礼を言った。
そして、それを聞いた後、
「では、まずはこれから起動しよう」
と、ウィルフレッドはそう言って3つの木箱……否、映像記録用魔導具のうち、『1』と刻まれたものを手に取ると、それに自身の魔力を込め始めた。




