第174話 「記録」を見終えて……
「雪村春風」に関する最後の記録映像が終わると、周囲の景色が元の執務室内へと戻った。
3種類の映像を見終えて、
『……』
と、誰もが沈黙している中、ヴィンセントが「ふぅ」とひと息入れながら、3つ目の映像記録用魔導具をコトリと机の上に置くと、
「さて、勇者諸君……」
と、チラッと水音ら勇者達に視線を向けながらそう口を開いたので、それに水音達がピクッと反応すると、
「今見た3種類の記録映像について、諸君らの感想を聞きたい」
と、ヴィンセントは真剣な表情でそう言ってきた。
その質問を聞いて、
「……そうですね。僕がまず言えるのは、『春風が無事でよかった』ってところですね」
と、水音が安心したかのような表情でそう言うと、
「……へへ、そうだな」
「うん。こうして無事なところ見れて、本当によかったよ」
「そうだよねぇ。ただ、私達より強くなってたのにびっくりしたけど」
「あ、それアタシも思った」
「わ、私も……」
と、進、耕、祭、絆、祈も、水音に続くようにそう口を開いた。よく見ると、全員、水音と同じように安心した表情を浮かべていたので、それを見たヴィンセントは、
(ああ。コイツら全員、雪村春風が生きてくれたことが嬉しいんだなぁ)
と、心の中でそう呟くと、最後に「ふ……」と笑うと、
「それにしても、エレクトラに続いてアデレードまで敗北とは、ちょっと親としては複雑なんだよなぁ。なぁ、キャロライン」
と、キャロラインに向かってそう言うと、
「うーん。私としてはぁ、エレンちゃんは自業自得なんだから仕方ないとしてぇ……」
と、キャロラインは何処か意地の悪そうな笑みを浮かべながらそう返事したので、
「ちょ、母様!?」
と、それを聞いたエレクトラは「酷いです!」と言わんばかりにショックを受けていたが、
「問題はアデレードですね。雪村春風に敗北したことでどう転ぶか……」
と、それをスルーするかのようにレオナルドが「うーん」と考える仕草をしながらそう口を開いた。
その言葉が聞こえたのか、
「え? 『どう転ぶか』って、どういう意味ですか?」
と、気になった水音がそう尋ねると、その質問を聞いたヴィンセントが、
「あー。それはなぁ……」
と、タラリと汗を流しながら答え難そうな表情を浮かべたので、水音だけでなく進達までもが「ん?」と首を傾げると、キャロラインは「うふふ」と笑って、
「実はアーデちゃん、結構強いんだけど、自分より強いものに痛めつけられるのが大好きなのよ」
と、水音達に向かってそう言った。
それを聞いた瞬間、
『え、それって……』
と、水音達はそう呟くと、
(ドMってことですかぁ!?)
と、皆、一斉に心の中でそう叫んだ。
その瞬間、
「……ハッ! ヴィンセント陛下!」
と、水音が何かに気付いたかのような表情でヴィンセントに声をかけたので、
「何だい水音?」
と、ヴィンセントがそう返事すると、
「まさかとは思いますが……そのアデレード様という方、『もっと春風に痛めつけられたい』なんて考えてたりしてませんか?」
と、水音がかなり真剣な表情でそう尋ねてきた。
その質問を聞いて、進達も「ま、まさか!?」と言わんばかりに戦慄していると、ヴィンセントは「ふ……」と笑って、
「しっかり考えてたわ。というか、もうその望み、本人に言った後のようで」
と、グッと親指を立てながらそう答えたので、
「「「うわぁあああああああ!」」」
「「「いやぁあああああああ!」」」
と、水音ら勇者達は一斉に悲鳴をあげた。
その一方で、
「あらあら、アーデちゃんったら……」
「全く、我が妹ながら……」
「姉様ぁ……」
と、キャロライン、レオナルド、エレクトラは呆れた感じでそう呟いていたが、よく見ると皆、クスッと笑っていたので、
『そこぉ! 和やかムード出さないでください!』
と、水音ら勇者達はキャロライン達に向かってそうツッコミを入れた。
その後、
「まぁ、それはいいとして……」
と、ヴィンセントが真面目な表情でそう口を開いたので、それに水音達が「よくない!」とツッコミを入れたが、それを無視して、
「報告を受けた後にな、アデレードにも『雪村春風をうちに迎えたい』と相談したら、『大賛成!』と即答されちまってなぁ」
と、ヴィンセントが再びグッと親指を立てながらそう言ったので、それを聞いたキャロラインが、
「まぁ本当にぃ!? 私も大賛成だわぁ! 是非あの子をうちに招き入れたいわぁ!」
と、パァッと表情を明るくすると、
「そうですか。となると、問題はオードリー市長とフレデリック総本部長、そして、ヴァレリー殿とタイラー殿をどう説得すればいいかですね?」
と、レオナルドが真面目な表情でそう尋ねた。
その質問を聞いて、水音が「え、ちょっと……!」と何か言おうとしたが、それを無視して、
「くっくっく、そのことに関しちゃ問題ねぇよ。その為に……」
と、ヴィンセントがそう答えると、ニヤッとしながら水音に視線を向けたので、それに水音が「え?」と反応すると、
「「ああ、なるほど!」」
と、キャロラインとレオナルドも水音に視線を向けて、ポンと相槌を打った。
そんな2人の様子を見て、水音が「え? え?」と戸惑っていると、
「という訳だ水音!」
と、ヴィンセントがガシッと水音の両肩を掴んで、
「お前、強くなれ! そして……雪村春風に『決闘』を申し込め!」
と、ニヤッとしながらそう言ってきたので、
『は、はいぃ!?』
と、水音だけでなく進達までもが驚きに満ちた叫びをあげたが、そんな彼らを無視して、
「うふふ。となるとぉ、現時点でのあの子のレベルはぁ、確か10を超えてるって話ですからぁ、そうですねぇ……」
と、キャロラインはそう言って少し考え込むと、「うん!」と小さく頷いて、
「50でどうかしらぁ?」
と、尋ねるようにそう言った。
それを聞いて、
『ご、50!?』
と、水音達が大きく目を見開きながら驚くと、
「わかりました。では、彼の訓練のメニューの作成や装備の調達は私がしましょう」
と、何故かレオナルドがノリノリの様子でそう言ってきたので、
「頼んだぞレオナルド!」
と、ヴィンセントがまたグッと親指を立てながらレオナルドに向かってそう言った。因みに、レオナルドもヴィンセントに向かってグッと親指を立てていた。
そんなヴィンセントら皇族達に向かって、
『ですからぁ! ちょっと待ってくださーーーーーい!』
と、水音ら勇者達は一斉にそう悲鳴をあげた。




