第173話 みんなで「記録」を見る・9
今回は、いつもより長めの話になります。
映像のフレデリックの号令で始まった、映像の春風とアデレードの戦い。
水音達を含めた多くの人達に見守られながら、2人は両手に持った武器を振るった。
映像のアデレードの手には、春風達と仕事をしていた時と同じ2振りの小振りの剣……否、刀身の形が同じなので、「双剣」と呼んだ方がいいだろう。
対する映像の春風の手にはというと、右手には仕事をしていた時に振るっていた反りのある片刃の剣。そして左手には、先程黒い扇と風の魔力を用いて作った、緑色の刀身を持つ小振りの剣だ。
そんな映像の春風の武器を見て、
(やっぱり、あれって……)
と、水音が心の中でそう呟くと、
「な、なぁ桜庭」
と、進が声をかけてきたので、
「ん? 何?」
と、水音がそれに反応すると、
「雪村の右手に持ってるのって……」
と、進が春風の右手に持ってる剣を見ながらそう言ってきた。
その言葉が聞こえたのか、
「お? どうかしたのか?」
と、ヴィンセントが小声でそう尋ねると、進は「ふえ!?」とビクッとなったが、
「あぁ、いえ! 雪村の右手に持ってる剣なんですが……」
と、再び春風の右手に持ってる剣を見ながらそう答えたので、ヴィンセントは「ちょっと失礼」と言って映像を一時停止すると、
「ああ、あの剣か? 片刃なだけじゃなく反りがあって細身で、確かに珍しい形の刀身をしてるなって思うが……」
と、ヴィンセントも春風の右手に持ってる剣を見つめながらそう言った。
すると、
「……多分ですけど、春風が持ってる剣、『日本刀』だと思います」
と、水音がそう口を開いたので、
「ニホントウ? 何だそれは?」
と、今度はエレクトラがそう尋ねると、
「僕らと春風の祖国『日本』に古くから伝わる武器で、剣のように『叩き斬る』のではなく、『斬り裂く』ことに重きを置いたものです」
と、水音は映像の春風が持つ剣……否、日本刀(?)を見つめながらそう答えたので、
「むむ、『叩き斬る』じゃなく『斬り裂く』……か。ちょっとその辺りのことはよくわからねぇが、とにかく、あいつが持ってるのはお前達の故郷の武器に似てるってことでいいんだな?」
と、ヴィンセントは首を傾げながらそう尋ねた。
その質問に対して、
「ええ。2番目の記録映像の時は、春風の魔物との戦い振りに見惚れて触れることが出来なかったのですが、こうして改めて見て、春風はいつ何処であれを手に入れたんだろうって思って……」
と、水音が少し暗い表情でそう答えると、
「ふむ、なるほどなぁ……」
と、ヴィンセントはそう呟いて、一時停止を解除した。
そして、再び繰り広げられる2人の戦い。
日本刀(?)と緑色の刀身を持つ剣対双剣。即ち、「二刀流」対「二刀流」。
お互い武器をぶつけ合いつつも、軽やかに動きながら戦うその姿を見て、
「綺麗……」
「ああ。まるで『戦い』じゃなくて『ダンス』を見てるみたいだな」
「う、うん……」
と、祭、絆、祈はそう感想を言った。
確かに3人の言う通り、目の前で繰り広げられている2人の戦いは、まさに大きな舞台の上でダンスを踊っているかのように見えていて、それが周囲の人達だけじゃなく、水音達の目を釘付けにしていた。
ただ、
「しかし、父上……」
「ああ。僅かだが、アデレードが押しているな」
と、レオナルドとヴィンセントがそう呟いたように、一見互角に戦っているかのように見えるが、どちらかと言うと映像のアデレードの方が押しているように見えているのだ。
そして、
(うん。確かにヴィンセント陛下の言う通り、春風の方が押されてる)
レオナルド、ヴィンセントと同じように水音もそう思っていた。
そんな感じで水音達が見つめる中……。
ーーどう? 私、結構強いでしょ?
と、映像のアデレードがニヤッとしながらそう尋ねてきたので……。
ーーそうですね。確かに、アーデさんは強いですよ。レベルはきっと俺よりも上でしょうし、戦闘技術だってあなたの方が高いと、今日一緒に仕事をしてそう感じました。そんなあなたと比べたら……いえ、比べるのもおこがましいでしょうが、俺なんて全然駄目だと思います。
と、映像の春風は落ち着いた口調でそう答えた。
その答えを聞いて、
(いやいやいや! 十分強いだろ!?)
(僕達なんか、未だに戦闘経験なしのレベル1なんだけど!)
(今アンタと戦ったら、私ら絶対負けるって!)
(真剣勝負だったら、魔物と同じように首を斬り落とされる未来しか浮かばないぞ!)
と、進、耕、祭、絆はダラダラと滝のように汗を流しながら、心の中でそう呟いた。因みに祈はというと、進達と同じように汗を流しながら、顔を真っ青にしていた。
そして、水音はというと、
(そうだ。僕達のもとからこの数日間で、春風は確実に力をつけている。それに比べて、僕は……)
と、悔しそうに下唇を噛み締めて、グッと左右の拳を握り締めながら、心の中でそう呟いた。
そんな水音の心境を察したのか、
(どうやらいい刺激になってるみてぇだな)
と、ヴィンセントは水音を見つめながらニヤッとした。
すると……。
ーーですので……。
と、映像の春風がそう口を開いたので、それに水音達が「ん?」と反応すると……。
ーー足りない部分は、「勝利への執念」で補います。
と、映像の春風が真っ直ぐ映像のアデレードを見つめながらそう言ったので、
『そこは『知恵』とか『勇気』じゃないの!?』
と、水音達はギョッと大きく目を見開きながらそうツッコミを入れて、
「ぶはっはっはぁ! 『執念』とはおもしれぇこと言うじゃねぇか!」
と、ヴィンセントは大声で笑いながらそう言った。
その後……。
ーー『アクセラレート』。火の型。
と、映像の春風がそう呟くと、映像のアデレードに向かって猛攻撃を繰り出した。
それに対して、映像のアデレードも必死で抵抗したが、春風の何度目かの攻撃によって双剣の片方を失った。
そんな彼女に向かって、映像の春風は更に攻撃を加えようとしたが……。
ーーまだまだぁ!
と、映像のアデレードは残ったもう片方の剣を握り締めると、それを映像の春風の武器目掛けて力強く振るった。
その結果、映像の春風は日本刀(?)と緑色の刀身を持つ剣は吹っ飛ばされて無防備な状態になってしまったので、
「は、春風ぁ!」
と、水音は悲鳴をあげたが……。
ーーなんのこれしきぃ!
と、映像の春風はその場に踏み止まり、映像のアデレードに向かって飛び掛かると、彼女を羽交い締めにしたので、
「うう! な、何と諦めの悪い……!」
「なるほどな。これが、『勝利への執念』ってやつか」
と、それを見たレオナルドとヴィンセントはそう感心した。
その後、映像の春風に「負けを認めるか」と選択を求められて……。
ーー私は……ヴァレリーさんとは違う!
と、アデレードはそう答えると、強引に映像の春風から離れて、彼にもう一度攻撃を入れようとしたが、それさえも春風の銀の籠手によって防御されてしまった。
その瞬間、映像のアデレードに隙が生まれたので、それを見逃さなかった映像の春風はすぐに立ち上がると……。
ーーせぇい!
と、映像のアデレードを背負うようにぶん投げて、彼女を小闘技台に思いっきり叩きつけた。
その結果……。
ーーカハァ!
と、映像のアデレードはそう声をもらすと、そのまま意識を失った。
それを見て……。
ーー勝者、春風!
と、映像のフレデリックが声高々にそう宣言し、周囲から「ウォオオ!」と歓声が上がると、そこで映像が終わったのか、周囲の景色が変わり、元の執務室へと戻った。




