第166話 みんなで「記録」を見る・2
それから水音達は、春風とヴァレリーの「手合わせ」の記録映像を見た。
記録映像内の2人は、どちらも木剣を手に睨み合っていて、最初はその木剣同士の激しい打ち合いが起きるのかと水音達はそう思っていたが、
ーーまだ続けますか?
ーー……いや、やめておくよ。
最終的には春風はヴァレリーの首を絞める手前で「決着」という形になって、
「な、なんか……雪村がすげぇんだけど……」
と、あまりの出来事に進がポカンとした表情でそう口を開き、それに続くように、
「う、うん。てっきり木剣を使って『居合斬り』っぽいことをするんじゃないかなって思ったけど……」
「まさか、柄の部分でお腹に突きって……」
と、耕と祭もタラリと汗を流しながらそう言い、
「そしてその後は蹴りで相手のバランスを崩し、隙が出来たところで場所を移動した後、首目掛けて木剣を振り下ろす……か」
「ええ。木剣でも十分危険ですが、もしあれが本物の剣でしたら、ヴァレリーさんは間違いなく首を斬り落とされてたでしょうね」
と、ヴィンセントとレオナルドは春風の戦い方を冷静に分析していた。
ただ、
「お、おのれ雪村春風ぁ! 可愛い顔してうちのリーダーになんてことを!」
と、エレクトラは映像の春風に向かって怒りをあらわにし、
「きゃあああ! あの子、可愛いだけじゃなくて強いのね!」
と、キャロラインは映像の春風の戦い振りを見て目をキラキラとさせていた。
因みに、現在映像はヴィンセントによって再び一時停止している状態である。
さて、そんな様々な反応をする者達を他所に、
(春風……)
と、水音は映像の春風を見て複雑そうな表情を浮かべていると、
(……ん? 時雨さん?)
と、不意に様子がおかしい祈が視界に入ったので、
「時雨さん」
と、「おや?」と思った水音は、祈に向かってそう声をかけた。
その声を聞いて、
「え? あ、な、何ですか桜庭君?」
と、祈は明らかに怯えているかのような様子でそう返事をしたので、水音はその返事を聞いて「え、えっと……」と少し戸惑ったが、
「い、いや、時雨さん何回も様子がおかしかったから、どうしたのかなって思って……」
と、どうにか真面目な表情でそう言った。
その言葉を聞いて、近くで聞いていた進達も「ん?」と水音と祈に視線を向けると、その視線を受けた祈も、水音と同じように「えっと……」と戸惑いつつも、
「さっきの、あのヴァレリーって女の人の首に、木剣を振り下ろした時の雪村君の顔が、凄く怖かったって思ってて……」
と、先程見た春風とヴァレリーの戦いの映像についてそう答えた。
その答えを聞いて、
「え? 『怖かった』って?」
と、絆が祈にそう尋ねると、
「あ、あのね、木剣を振り下ろした時の雪村の目が、凄く冷たい感じがしてて、それが……ちょっと怖かったなって……」
と、祈は恐る恐るといった感じでそう答えたので、
「……何だと?」
と、その答えに反応したヴィンセントが、すぐに手に持っている映像記録用魔導具に魔力を流した。
次の瞬間、目の前で起きた春風とヴァレリーの手合わせの映像が、まるで時が巻き戻っているかのように逆の動きをし出した。
そして、場面が映像の春風がヴァレリーの首目掛けて木剣を振り下ろそうとしている時まで戻ると、ヴィンセントはそこでまた一時停止した。
その後、ヴィンセントとレオナルドが「どれどれ……」と映像の春風の顔をジッと見つめると、
「う! こりゃあなんつー冷たい目してやがる」
「ええ。まるで、『敵は容赦なく殺す』と言わんばかりの目ですね」
と、2人してそう感想を言いながら、ドン引きするかのように1歩後ろに下がった。
ただ、その際ヴィンセントらと一緒になって春風を見たキャロラインが、
「……あら。でも、これはこれでありかも……」
と呟いていたが。
まぁ、それはさておき、そんな冷たい目をした映像の春風を見て、
「ああ、この目は……」
と、水音がそう呟いたので、
「ん? 何か知ってるのか?」
と、それを聞いたヴィンセントがそう尋ねると、
「僕と春風が師匠と一緒に旅をしていた時にたまに見ることがありまして、主に先程レオナルド様が仰っていたように、『敵』とみなした相手に対して見せる目なんです。こうなった時の春風は、老若男女問わず本当に容赦がなくて……ああ、でも『殺す』まではしてませんよ! あくまでも、容赦なく叩きのめすって感じですから!」
と、水音は力強く弁明しながらそう答えた。
それを聞いて、ヴィンセントだけでなく進達までもが「そ、そうなんだ」とタラリと汗を流しながらそう返事すると、
「そ、それに! これだけが春風の全てって訳じゃないですから! 彼は彼で、ちゃんといい所もありますから!」
と、水音は更に必死になって弁明を続け、
「だ、だから時雨さん! 大丈夫! 春風はそこまで怖い奴じゃないですから!」
と、最後に祈に向かってそう言った。
そんなあまりにも必死な様子の水音を見て、
「……はは、そうか。お前がそう言うなら、そうなんだろうな」
と、ヴィンセントは「やれやれ」と言わんばかりに小さく笑いながらそう言い、それを聞いた他の人達も「ははは」と小さく笑ったので、水音は「漸く信じてくれた」と呟きながら、ホッと胸を撫で下ろした。
その後、
「じゃ、続きを見るぞ」
と、ヴィンセントはそう言うと、映像を決着がついた部分にまで戻して、みんなで続きを見始めた。
ーーお前、『雪村春風』だろ? 異世界人の。
と、映像のヴァレリーが春風に向かってそう尋ねてきたので、
(あ、なるほど。このタイミングか……)
と、水音はその映像を見ながら、納得の表情を浮かべた。
そして、その質問をきっかけに映像のレナや総本部長のフレデリックも会話に加わり、その映像を見て、
「な、何か雲行きが怪しくなってないか?」
と、進がそう尋ねてきたので、それに水音だけでなくヴィンセントまでもが、
「ああ、そうみたいだな」
と、返事する中……。
ーーもし、俺が『そうだ』と答えたら、あなたは俺とレナをどうするつもりですか?
ーーどう……とは?
という映像の春風とヴァレリーのやり取りを見て、
(あ、あれ? 何か嫌な予感が……)
と、水音がタラリと汗を流していると……。
ーー俺達を捕らえて、ルーセンティア王国に引き渡しますか? それとも……この場で始末しますか?
と、映像のヴァレリーとフレデリックに向かってそう尋ねた映像の春風。
その顔はヴァレリーとの「手合わせ」で見せたものと同じ冷たい目をしていたので、
「……」
と、それを見た水音が無言で周りを見回すと、
『……』
全員、映像の春風を見て顔を真っ青にしていたので、
「だ、大丈夫です! 大丈夫ですからぁ!」
と、水音は再び必死に弁明し出した。
勿論その際、
(もう! 春風の奴ぅ!)
と、水音は心の中でそう悲鳴をあげていた。




