第164話 水音達、「報告」を受ける・3
「こいつはな、ストロザイア帝国が開発した『映像記録用魔導具』だ」
そう言って、水音達の前に3つの手の平サイズの小さな木箱を見せたヴィンセント。
そんなヴィンセントに対して、水音達が「は?」と目をパチクリとさせていると、
「あ、あの……映像記録用って、一体どういう意味でしょうか?」
と、祈が「はい」と手を上げながら、恐る恐るそう尋ねてきたので、
「簡単に説明するとな、魔力を流すことによって使用者が見たものを『映像』として記録し、保存する為のものだ」
と、ヴィンセントは真面目な表情でそう説明した。
その説明を聞いて、
「えぇ!? こんな小さい木箱にそんな機能が!?」
と、今度は水音が大きく目を見開きながらそう尋ねてきたので、それにヴィンセントが「ああ」と頷くと、
「見た目は小さいうえにまだこいつは試作の段階だから、保存できる容量や時間も限られてるが、その代わり性能はかなりいいと俺が保証するぜ」
と、ニヤッとしながらそう答えた。
その答えに水音だけでなく進達までもが「おお!」と感心したが、その後すぐに、
「あ、あの……3つもありますけど……違いとか、あるんですか?」
と、祭が3つの木箱……もとい、映像記録用魔導具を見つめながらそう口を開いたので、ヴィンセントも「ああ、それはなぁ……」と口を開くと、
「こいつは見た目は同じだが、よく見ると数字が刻まれてるだろ?」
と、映像記録用魔導具を指差しながらそう言ってきた。
その言葉を聞いた水音は、「え、どれどれ……」と言わんばかりにその映像記録用魔導具をジッと見つめると、確かにそれらの表面には、「1」、「2」、「3」と数字が刻まれているのが見えたので、
『あ、本当だ』
と、水音達は一斉にそう声に出した。
それを聞いて、ヴィンセントが「ふふ」と笑うと、
「で、順番なんだが、まず『1』にはさっき言ったように雪村春風とヴァレリーの『手合わせ』が記録されていて、『2』にはその日、雪村春風の『初仕事』が記録されている」
と、「1」、「2」と刻まれた映像記録用魔導具を指差しながらそう言った。
その言葉に水音達が「へぇ」と声をもらすと、
「……ん?」
と、水音が何かに気付いたかのようにそう声に出して、
「あの、春風の『初仕事』って?」
と、ヴィンセントに向かってそう尋ねた。
その質問にヴィンセントが「ん?」と反応すると、
「ああ、その日雪村春風は『初めての仕事』としてフロントラルの外の森で薬草採取をすることになったんだ。で、その仕事にはレナ・ヒューズだけでなく我が娘アデレードが同行することになったんだ」
と、水音達に向かってそう説明した。
それを聞いた水音達は「おお!」と感心すると、
「えっと……それじゃあ、『3』には何が記録されてるんですか?」
と、今度は耕が「ん?」と首を傾げながらそう尋ねてきたので、それを聞いたヴィンセントは、
「うぅ!」
と、何故か答え難そうな表情になったが、少しの間「うーん」と唸った後、「はぁ」と溜め息を吐いて、
「実は『3』にはな……雪村春風とアデレードの戦いが記録されている」
と、暗い表情でそう答えた。
その答えを聞いて、水音達は「へぇ……」と声をもらすと、
『……って、えぇ!? 何で!? 何でぇ!?』
と、一斉に目を大きく見開きながら、驚きに満ちた叫びをあげた。
いや、水音達だけではない、キャロラインも「まぁ!」と手で口を覆いながら驚き、エレクトラも「な、何故!?」と水音達と同じように目を大きく見開いた。
ただ、レオナルドだけは冷静なようで、
「父上、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
と、落ち着いた表情でヴィンセントに向かってそう尋ねると、それにヴィンセントが「ああ」と頷いて、
「どうもアデレードの奴、雪村春風のヴァレリーとの戦い振りやハンターとしての初めての仕事振りを見て、『自分も戦ってみたい』という衝動に駆られたみたいでな」
と、暗い表情のままそう答えると、最後に「ははは」と苦笑いした。
その答えを聞いて、
『おいおい、冗談でしょ?』
と、水音ら勇者達は「何じゃそりゃ?」と言わんばかりの表情でそう言い、
「なるほど、そういう訳ですか」
と、レオナルドが納得の表情を浮かべながらそう呟くと、
「あらあら。あの子がそこまで思うなんて、雪村春風というのは一体どんな子なのかしら?」
と、キャロラインも『少し興味がわきました』と言わんばかりの表情でそう言ってきたので、
「そうだな。ここで言い合っても何も進まねぇだろうし、早速見させてもらいますかね」
と、ヴィンセントも「やれやれ……」と首を左右に振りながらそう言うと、「1」と刻まれた映像記録用魔導具を手に取った。
そして、
「じゃ、映像を出すぞ」
と、ヴィンセントが真剣な表情でそう言ったので、それに水音達や皇族達がコクリと頷くと、ヴィンセントは「1」と刻まれた映像記録用魔導具に自身の魔力を流した。
次の瞬間、木箱の形をしていた映像記録用魔導具の蓋らしきものがパカッと開き、そこから眩い光が放たれたので、
(うわ! ま、眩しい!)
と、水音は思わず両腕で顔を覆った。
その後、光が弱まったのを感じたので、水音は恐る恐る両腕を顔から退けると、そこは先程まで自身がいた執務室ではなかったので、
「え!? な、何ここ!?」
と、水音は驚きに満ちた叫びをあげながら、自身の周囲をキョロキョロし出した。勿論、それは進達も同様で、彼らも水音と同じように、突然景色が変わったことに驚いて、周囲をキョロキョロしていた。
まぁそれはさておき、どうやらそこは広い部屋の中のようで、周りを見回した水音がふととある方向に視線を向けると、そこには少年バトルものの漫画やアニメとかに出てくる「闘技台」を思わせるかのような、石造りの大きな台があった。
そして、その石造りの台の上にいる2人の人物の片方、青いマントを羽織った黒髪の少女を見て、
「は……春風!?」
と、水音はまた大きく目を見開きながら、驚き満ちた声をあげた。




