第163話 水音達、「報告」を受ける・2
「雪村春風が『異世界人』だというのがバレた」
『な、何だってぇえええええええっ!?』
ヴィンセントの言葉に、驚きに満ちた叫びをあげた水音達。
だが、その後すぐに、
「……って、流れで思わず叫んじゃいましたけど、それってそんなに厄介なことなんですか?」
と、冷静な表情になった水音がそう尋ねてきたので、
「順を追って説明しよう」
と、ヴィンセントは真剣な表情でそう答えると、説明をはじめた。
「まず雪村春風についてだが、アデレードからの報告によると、フロントラルに来た当初は自分が『異世界人』だということを隠すつもりだったそうだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、事情を知らない者達に、『自分は異世界人です』と言っても信じてもらえないだろうとということで、『レナ・ヒューズの知り合いの息子で、精神を鍛える為に修行の旅に出ろと師匠に言われた』という設定でフロントラルに来たそうだ」
と、水音達に向かってそう説明したヴィンセント。その説明を聞いて、
『え、えぇ? 何その設定……』
と、誰もが「マジで?」と言わんばかりの表情になっていたが、
(でも、そうだよな。確かに『異世界人』なんて言っても、信じてもらえる保証なんてないし……)
と、水音は心の中でそう呟きながら、納得の表情を浮かべていた。
その後、
「で、それから雪村春風は、ハンターギルド総本部でハンターとして登録したんだが……」
と、ヴィンセントがそう口を開いたので、その言葉に水音達が「ん?」と反応すると、
「そこへ、エレクトラからの報告を受けたヴァレリーが現れて、どういう話の流れか雪村春風は彼女と手合わせすることになってしまったんだ」
と、ヴィンセントは「やれやれ」と言わんばかりに表情を暗くしながらそう言った。
その言葉に水音達はポカンとした表情になると、
「え!? 『手合わせ』って、戦ったってことですか!?」
「何でそんなことに!?」
と、すぐにハッとなってヴィンセントに向かってそう問い詰めると、
「ていうか……」
『ヴァレリーって誰ですか!?』
と、最後は勇者全員が同時にそう尋ねた。
水音達のあまりの剣幕に、
「お、落ち着いてくれ、ちゃんと説明するから……」
と、ヴィンセントが戸惑っていると、
「ヴァレリー・マルティネス。私が所属している、フロントラルを代表する2大レギオンの1つ、『紅蓮の猛牛』のリーダーだ。女性だが高い戦闘力と優れたリーダーとしての資質を併せ持っている」
と、エレクトラが「ヴァレリー」という人物についてそう説明したので、それを聞いた水音達は、
『おお、凄い!』
と、感心した。
その様子を見て、ヴィンセントは「ふぅ……」とひと息入れると、
「そうだ。で、さっきも言ったが、その女性リーダーのヴァレリーは、何を思ったのか雪村春風に手合わせを申し込んでな、それで2人が戦うことになったんだ。で、その結果……」
と、ヴァレリーと春風の戦いについて説明を始めたので、それに水音達がゴクリと唾を飲むと、
「見事、雪村春風の勝利に終わり、ヴァレリーに実力を認められた訳だ。ああ因みに、『異世界人』だとバレたのがこのタイミングだ」
と、ヴィンセントはニヤリとしながらそう言ったので、
『おお! す、凄い!』
と、水音達は目を大きく見開きながら再び感心した。
ところが、
「……そう、確かに凄いことなんだがなぁ」
と、ヴィンセントはすぐに再び表情を暗くしたので、
「え? 何かあったんですか?」
と、水音がそう尋ねると、
「実は、ヴァレリーと雪村春風の戦いから、『異世界人』だとバレた現場に、ハンターギルド総本部の総本部長フレデリック・ブライアントと、アデレードが所属しているもう1つのフロントラルを代表する2大レギオンの1つ、『黄金の両手』のリーダーのタイラー・ポッターが居合わせていたんだわ」
と、ヴィンセントはそう答えると、最後に「はぁ」と溜め息を吐いた。
その答えを聞いて、水音が「え、それってどういう……?」と尋ねようとしたが、それを遮るかのように、
「父上。それはつまり、その雪村春風が『異世界人』だとバレた話は……」
と、「むむ!」となったレオナルドがそう口を開いたので、
「ああ。あいつらにバレたってんなら、自動的にオードリー市長にも話が届いただろうなぁ……」
と、ヴィンセントは暗い表情のままそう返事した。
その返事を聞いて、
「え、誰ですか? その『オードリー市長』って……」
と、今度は祭が首を傾げながらそう尋ねてきたので、
「オードリー・クロフォード。フロントラルの『市長』を勤めている女性で、現在フロントラルは、実質的にこのオードリー市長と、先程父上の話に出てきた『ハンターギルド総本部』のフレデリック総本部長、そしてフロントラルを代表する2大レギオン、アデレードが所属している『黄金の両手』リーダーのタイラーと、エレクトラが所属している『紅蓮の猛牛』リーダーのヴァレリーの4人によって治められていると言ってもいい状態なんだ」
と、ヴィンセントではなくレオナルドが祭の質問にそう答えた。
その答えに「そ、そうだったんですか」と祭が納得していると、
「そうなんだよ! あの腹黒4人衆め! 俺が何か手に入れようとすると悉く邪魔してきやがって! 言い方は悪いが、もしあいつらが雪村春風の『本当の価値』を知ったら、絶対自分達の懐に抱え込むに決まってる! そしてそうなっちまったら、幾ら『皇帝』の俺でも手が出せねぇんだよぉ!」
と、ヴィンセントは頭を抱えながらそう叫んできたので、水音達は思わずその姿にギョッとなると、
「しかもだ! 雪村春風との手合わせの後、ヴァレリーとタイラーめ、雪村春風を自分達のレギオンにスカウトしやがったんだ! まぁ、その時は本人は『嫌だ』って断ってたが、いつまでもそんな状況が続く訳ねぇ、何かをキッカケに心変わりしてスカウトを受けるかもしれねぇ!」
と、ヴィンセントが自身の頭をボリボリと掻きながら更にそう叫んだので、
「え、えぇ? そ、それは……」
と、水音がドン引きしつつもそう口を開くと、
「ふーん、雪村春風ねぇ。あのヴァレちゃんとタイちゃんがそこまでするなんて、一体どんな子なのかしらねぇ」
と、それまで黙って話を聞いていたキャロラインが、ヴァレリーとタイラーという人物を「ニックネーム」らしき呼び名で呼びながらそう言ったので、
「確かに、私も少し興味がありますね」
と、レオナルドも「うーん」と唸りながらそう言った。
その言葉に、ヴィンセントが「む……」と反応すると、
「ああ、それなら大丈夫だ。実は報告を聞いた後、アデレードからプレゼントが贈られてきたんだわ」
と、表情を真面目なものに変えながらそう言って、自身の懐に手を入れると、
「こいつだ」
と、そこから3つの小さな木箱を取り出して、それを水音や勇者達だけでなく、キャロラインら皇族達にも見せた。
それを見て、
「あ、あの……何ですかこれは?」
と、水音が恐る恐るそう尋ねると、
「こいつはな、ストロザイア帝国が開発した『映像記録用魔導具』だ」
と、ヴィンセントはその小さな木箱を見せながらそう答えた。
謝罪)
大変申し訳ありません。誠に勝手ながら、前回投稿した話の内容を一部加筆修正させてもらいました。
本当にすみません。




