第156話 「市長」と「仲間」
本日2本目の投稿です。
「はじめまして、私はオードリー・クロフォード。この『フロントラル』の市長を勤めてます。以後よろしくね」
と、春風に向かってそう自己紹介した、ここ「中立都市フロントラル」の「市長」を名乗る女性、オードリー・クロフォードーー以下、オードリー。
そんな彼女の言葉に、
(まさか、『市長』さんの登場とは……)
と、春風は開いた口が塞がらなかった。
無理もないだろう。何せ今日1日だけで様々な出会いがあったというのに、更にこうして「市長」にも出会うことになったのだから。
ともあれ、いつまで呆けてる訳にもいかないと考えた春風は、
「レナ、もしかして知ってたの?」
と、春風は小声でレナに向かってそう尋ねると、
「う、うん。ハンターの仕事中にちょこっと会ったくらいだけど……」
と、レナは「ふぅ……」と汗を拭う仕草をしながら、春風と同じように小声でそう答えた。
その答えを聞いて、春風は「そうなんだ」と呟くと、すぐに真面目な表情になって、
「これは失礼しました。自分は今日ハンターとして登録しました、春風と申します。よろしくお願いします」
と、オードリーに向かって丁寧な姿勢と口調でそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、周囲から「おお!」と歓声があがる中、
「まぁ、これはご丁寧に! そして、あなたが春風さんだったのですね!?」
と、オードリーが春風を見て目を大きく見開きながらそう言ってきたので、
「え? あの、市長さん……は、自分を知ってるのですか?」
と、春風が首を傾げながらそう尋ねると、
「ええ。実は今日、仕事中にフレデリック総本部長から、『今日春風という面白い子がハンターとして登録した』っていう話が来たのですよ。で、詳しい話を聞いて、是非会ってみたいと思って、今日の分の仕事が終わったからこうして会いに来た、という訳ですよ」
と、オードリーは「うふふ」と朗らかな笑みを浮かべながらそう答えたので、
(そ、総本部長さん……)
と、春風は無言でフレデリックをジト目で見つめた。勿論、その視線を受けたフレデリックは、プイッとそっぽを向いて口笛を吹いた。
そんなフレデリックを見て、春風は「はぁ」と溜め息を吐いた後、すぐにフレデリックの傍にいるエリック、ステラ、イアンの3人をチラッと見た。
その視線を受けて、エリックら3人は「ん?」と首を傾げたが、彼らを無視して春風はオードリーに近づくと、
「あの、ちょっとお聞きしたいのですが、自分のことは何処まで聞いたのですか?」
と、周りに聞こえないように注意しながら、小声でオードリーに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、オードリーは最初「え?」と首を傾げたが、すぐに「ああ!」と何かを察したかのようにハッとなると、春風に顔を近づけて、
「あなたがヴァレリーさんを相手にいい勝負をしたところから、あなたが『異世界』の人間だってところまでですよ」
と、春風と同じように小声でそう答えたので、その答えに春風は「うっ!」と呻いた後、
「す、すみません。出来ればそのことは黙っていただけると嬉しいのですが」
と、春風は再びオードリーに向かって小声でそう言った。
その言葉にオードリーは「うふふ」と小さく笑うと、
「ええ、勿論ですよ。私自身、他人の秘密を面白半分に暴露する趣味はありませんから」
と、春風に向かって小声でそう言ったので、春風は「ありがとうございます」と小さな声でお礼を言った。
その様子を見てエリック達が再び首を傾げると、
「まぁ、それはさておき。このフロントラルはどうですか春風さん?」
と、オードリーは両腕を少し広げながら、春風に向かってそう尋ねてきたので、
「そうですね。まだ、ここに来て間もないですが、とてもいいところだと思ってます」
と、春風は穏やかな笑みを浮かべながらそう答えた。
その答えを聞いて、オードリーは「うふふ。そうですか」と笑いながら返事すると、
「それで春風さん。何やら小闘技場から出てきたみたいですが、今日は仕事はいいのですか?」
と、春風に向かってそう尋ねてきたので、
「ああ、それでしたら今日の仕事は終わりまして、これから報酬を受け取るところなんです。小闘技場から出てきたことにつきましては、その……個人的な用事……といったところでして」
と、春風は若干気まずそうにしながらも、真っ直ぐオードリーを見てそう答えた。
その答えを聞いて、
「ああ、そうだったのですね。ごめんなさい、引き留めてしまって」
と、オードリーが申し訳なさそうにそう謝罪してきたので、
「いえ、そんな気にしないでください」
と、春風は静かにスッと右手を上げながら、オードリーに向かって「気にするな」と励ました。
その後、
「もしよかったら、ご一緒してもいいでしょうか?」
と、オードリーがそう言ってきたので、春風は「え?」少し警戒したが、すぐに「いかんいかん」と首を横に振って、
「ええ、構いません。一緒に行きましょう」
と、オードリーに向かってそう返事した。
その返事を聞いて、
「うふふ、ありがとう」
と、オードリーはそうお礼を言った後、春風達と共にその場から歩き出した。
そして、報酬受け取りの窓口に着いた春風は、
「こちらが報酬になります」
と、受け取り窓口の職員から、早速今日の仕事の報酬を受け取った。
そして、報酬を手に取って、
(おお、これが初めての報酬か……)
と、春風が少し感動していた、まさにその時、
「エリック! ステラ! イアン!」
と、エリック達の名前を呼ぶ、明らかに女性のものと思われる怒声が聞こえたので、それに春風達はビクッとなった後、
(な、何だ何だ!?)
と、心の中でそう叫びながら、ゆっくりと声がした方へと視線を向けると、そこにはシンプルなシャツとスカート姿をした1人の若い女性が立っていた。
女性は明らかに「怒ってます!」と言わんばかりの表情をしていたのだが、よく見るとその顔は赤く、おまけに何やら苦しそうに肩で息をしていたので、
(あ、あれ? あの人、なんか調子が良くなさそうだぞ? 何かの病気か?)
と、春風はその苦しそうな表情をした女性を見て「ん?」と首を傾げると、
「「「る、ルーシー!?」」」
と、エリック、ステラ、イアンの3人は、その女性を見てギョッと目を大きく見開いたので、
「……え?」
と、春風は思わずそう声をもらした。
謝罪)
大変申し訳ありません、誠に勝手ながら、前回投稿した話と、第145話の一部を少し加筆修正させてもらいました。
本当にすみません。




