第151話 報告、からの……
それからアーデは、フレデリックに今日遭遇した出来事について報告し始めた。
仕事の最中に「血濡れの両目」化したバトル・ベアに遭遇したところから、自身が囮になってそのバトル・ベアを引き付けて、その間に春風が重傷を負ったエリックを手当てしたところを、アーデは包み隠さず報告していった。
勿論、その報告の最中、春風だけでなくエリック達までもが、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「以上が、今日私達が遭遇した出来事です」
「……なるほど、そのようなことがあったのですか」
アーデからの報告を聞いて、フレデリックは難しい表情になった。
その後、春風達が不安そうな表情で見守る中、フレデリックは「ふーむ」と考える仕草をすると、
「わかりました。『血濡れの両目』化したバトル・ベアにつきましては、こちらで討伐チームを編成しておきますので、皆様は今日の疲れを癒すことに専念してください」
と、真剣な表情でそう言ってきたので、
『わかりました』
と、春風達はそれに従うことにした。
その言葉を聞いた後、フレデリックは穏やかな笑みを浮かべて、
「エリックさん、ステラさん、イアンさん。よく無事に戻ってきてくれましたね」
と、エリック、ステラ、イアンの3人に向かってそう言った。
その言葉を聞いて、
「「「は、はい……」」」
と、3人がそう返事すると、
「ですが、仲間に嘘をついたのはいただけませんな。あなた方にもしものことがあれば、その人は独りぼっちになってしまいますから」
と、フレデリックがそう注意してきたので、
「そう……ですね。仲間には……ルーシーには、ちゃんと謝ります」
と、3人を代表するかのようにエリックが申し訳なさそうな表情でそう言った。勿論、その隣ではステラとイアンも、エリックと同じような表情をしていた。
そんなエリックら3人を見て、フレデリックは「うむ、よろしい」と言うと、
「春風さん」
と、今度は春風に声をかけてきたので、
「は、はい」
と、春風がそう返事すると、
「『ハンター』としての初仕事、どうでした?」
と、フレデリックは春風に向かってそう尋ねた。
その質問に対して、春風は「それは……」と呟くと、少し考えて、
「正直言いますと、仕事を受ける前は、ちゃんと出来るか内心不安でした。今回はレナやアーデさんがいてくれたからこうして無事に仕事を終えることが出来ましたが、だからといって次も同じように成功するとは限りませんし……」
と、自身の気持ちを正直に話した後、
「うん、どの職業にも言えますけど、やっぱり色々と、不安はあります」
と、表情を暗くしながらそう付け加えた。
その言葉を聞いて、誰もが何も言えずにいる中、
「では、辞めますか?」
と、フレデリックが再び真剣な表情でそう尋ねてきたので、その質問を聞いたレナはビクッとなって不安そうに春風を見ると、
「いいえ、続けます。これは、俺自身が決めた道ですから」
と、春風は真っ直ぐフレデリックを見ながらそう答えたので、その答えにレナだけでなく何故かアーデまでもがホッと胸を撫で下ろした。
そして、
「そうですか」
と、フレデリックがそう呟くと、春風に近づいて、ポンッとその両肩に手を置くと、
「改めて、ようこそ『ハンター』の世界へ。私達は春風さん、あなたを心から歓迎します」
と、穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
その言葉を聞いて、春風は一瞬泣きそうになったが、すぐに首をブンブンと振って表情をキリッとさせると、
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
と、再び真っ直ぐフレデリックを見ながらそう返事した。
その言葉を聞いて、レナが「は、春風」とジーンと感動していると、
「ところで春風さん、ちょっとお聞きしたいのですが」
と、フレデリックがそう口を開いたので、それに春風が「何ですか?」と返事すると、
「アーデさんの報告に出てきましたが、あなた『魔術』が使えるのですか?」
と、春風に向かってそう尋ねてきたので、それに春風が「うっ!」と呻くと、
「え、えっと……それは……」
と、春風は答え難そうフレデリックから視線を外しながら、ダラダラと滝のように汗を流した。
その様子を見て、フレデリックが「ふむふむ……」と何やら黒い笑みを浮かべていると、
「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
と、アーデが「はい」と手を上げながら口を開いたので、それにフレデリックだけでなく春風達までもが「ん?」とアーデに視線を向けた。
そんな状況の中、
「どうかしましたかアーデさん?」
と、フレデリックがそう尋ねると、
「総本部長、小闘技場の使用許可をください」
と、アーデが真面目な表情でそう答えたので、その答えに春風が「え、ちょ、何を!?」と反応したが、それを無視するかのように、
「ええ、いいですよ」
と、フレデリックがニヤッとしながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「えぇ!? そ、総本部長さん何を……!?」
と、春風はもの凄く慌てた表情になったが、そんな春風を無視して、
「ありがとうございます」
と、アーデはお礼を言うと、すぐに春風の傍に寄って、
「行こう、春風」
と、その手を取りながら言い、
「ま、待ってくださいアーデさん……!」
と、春風は「待った」をかけようとしたが、
「拒否権はない!」
と、アーデはそれをピシャリと跳ね除けたので、春風は「そんな!」とショックを受けた。
その後、アーデは春風を小闘技場へと引っ張っていき、
「ま、待って!」
と、ハッとなったレナはすぐに2人の後を追った。
当然、フレデリックだけでなくエリック、ステラ、イアンも、レナと同じようにアーデと春風の後を追いかけた。
そして、場所は変わってギルド総本部内にある小闘技場。
その中にある小闘技台の上で、
「あ、アーデさん、一体何を……!?」
と、春風がアーデを問い詰めると、アーデはしれっとした表情で、
「決まってるでしょ? 春風には、私と戦ってもらう。ただし……」
と、そう答えた後、自身の武器である双剣を手に取って、
「今度は『手合わせ』じゃない。本気でかかってきて」
と、右手に持った剣の切先を春風に向けながらそう言ってきた。




