第149話 そして、帰還へ
アーデとの合流後、なんやかんやあったが、漸くエリック、ステラ、イアンの3人が精神的余裕を持てたようなので、
「それじゃあ皆さん、フロントラルに戻りましょう」
と、アーデがそう声をあげて、それに春風達はコクリと頷いた。
ティータイムの後片付けをした後、春風達はバラバラにならないようにひと塊りになって、周囲を警戒しつつその場を後にした。因みに、今いる場所からどうやって森を出るのかというと、エリック達曰く森の入り口からあちこちに「目印」をつけておいたそうで、それを頼りに進むことになった。
ただ、エリックはバトル・ベアの攻撃を受けた際に装備……それもメインの武装であるという盾を失ってしまったので、それを聞いた春風は、
「それでしたらエリックさん、これを使ってください」
と、そう言って腰のポーチに手を入れると、そこから1枚の円型の盾を取り出し、それをエリックに差し出したので、
「え、待って春風、何で盾を持ってるの? 必要ないんじゃ?」
と、それを見たレナがそう尋ねると、春風は「うーん……」と唸って、
「まぁ……念の為ってやつで」
と、「あはは」と苦笑いしながらそう答えた。
ともあれ、エリックは春風から盾を受け取ると、
「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」
と、春風に向かってお礼を言ったが、
「気にしないでください。寧ろ、ぶっ壊れるまで使っても構いませんので」
と、春風はグッと親指を立てながらそう返事したので、それを聞いたエリックをはじめとした周囲の人達が「えぇ?」と首を傾げたが、
「ああ、わかった。そういうことなら、思いっきり使わせてもらうよ」
と、エリックは「ははは」と笑いながらそう言ったので、その言葉を聞いて、
『そ、それでいいのか?』
と、春風とエリックを除いた周囲の人達は更に首を傾げながらそう言った。
それから春風達は、エリック達がつけたという「目印」を頼りに森の中を進んだ。
今のところ、「血濡れの両目」化したバトル・ベアに遭遇してはいないが、その代わりレナの討伐依頼である「ジャベリン・ラビット」や、以前春風が戦った「サーベル・ハウンド」といった数々の魔物が襲ってきたので、春風達は力を合わせてそれらを倒していった。
ただ、その最中、
「……ねぇ、ちょっといい?」
と、春風がステラに声をかけられたので、
「はい、何ですか?」
と、春風はそれに返事すると、
「あなた魔術を使えるのに、どうして接近戦なんてしてるの?」
と、ステラは疑いの眼差しを春風に向けながらそう尋ね、それに反応したかのように、エリックとイアン、そしてアーデまでもが春風に視線を向けた。
彼女達の視線を受けて、春風は「え、どうしてって……」と声をもらすと、
「幾ら魔術を使えるからって、使う為に必要な魔力が尽きれば他に戦う手段がなくなってしまうじゃないですか。前衛役と組めばその人に守ってもらえばいいですし、もしくは弓矢か攻撃用の道具を使えばいいでしょうが、いつでも組めるという訳じゃないでしょうし、その辺の道具だって充実してる訳じゃありません。そうなってしまったら、最終的に頼りになるのは己の肉体のみになりますから」
と、ステラ達に向かってそう説明した。
その説明を聞いて、ステラは「うぐ!」と呻き、エリックとイアン、アーデは「なるほど」と、皆、納得の表情を浮かべた。因みにレナはというと、春風の説明を聞いて「うんうん、その通り」と小さく呟いていた。
そんなこんなで、暫く森の中を進んでいると、
「あ、あれ見て!」
と、レナが急に前方を指差しながらそう口を開いたので、春風達は「ん?」とその方角に視線を向けると、森の前方が光っているのが見えた。
その光を見て、春風達はお互い顔を見合わせると、はやる気持ちを抑えて警戒しながら前に進んだ。
そこは、どうやら森の入り口のようで、無事に森を抜けることが出来た春風達は思わず「やったぁ!」と叫びそうになったが、
(は! いかんいかん! 落ち着け、落ち着くんだ春風。こういう時こそ、冷静になるんだ)
と、春風はそう考えた後、気持ちを落ち着かせようとゆっくりと深呼吸した。
その後、漸く落ち着いたのか、
「皆さん、森を抜けることは出来ましたが、警戒を怠らないようにしてください」
と、春風はエリック達に向かってそう言い、それを聞いたエリック達は「う!」となったが、すぐに春風と同じように、皆、ゆっくりと深呼吸すると、
「そうだな。君のいう通りだ」
と、エリックはコクリと頷きながらそう言い、それに合わせるかのように、レナやアーデ、ステラにイアンもコクリと頷いたので、それを見た春風は、
「行きましょう」
と、レナ達に向かってそう言い、それに従うようにレナ達もコクリと頷くと、フロントラルに戻ろうとその場から歩き出した。
その後、春風達が森から大分離れると、その森の中から、1匹の大きな「黒い獣」が現れた。
黒い獣は春風達が進んだであろう方角を、暫くの間ジッと見つめていると、また、森の中へと戻ろうとした。
その時だ。
森の中から、別の「獣」が現れたのだ。
よく見ると、「獣」は口に何か咥えていたので、「黒い獣」は「何だろう?」と首を傾げると、「獣」は「黒い獣」に近づき、咥えていた何かを「黒い獣」前の地面に置いた。
その何かの正体は……バトル・ベアの生首で、よく見ると両目がまるで血に染まったかのように真っ赤になっていた。
一方、そうとは知らない春風達はというと、万が一に備えて森の中の時以上に警戒しながら進んでいた。
そして、前方に見知ったものが見えたので、
「あ、春風!」
と、レナが前方を指差しながらそう言うと、春風はすぐにその方向をジッと見つめていると、
「あ、フロントラルだ!」
と、パァッと表情を明るくしながらそう言ったので、それを聞いたレナ達も、
『よ、よかったぁ……』
と、皆、安心したのかその場に膝から崩れ落ちそうになっていったが、すぐに「いかんいかん」と首を横に振るうと、春風と共に再びその場から歩き始めた。




