第147話 そして、合流
春風がエリックを手当てしていた丁度その頃、
「……」
アーデは1人、「血濡れの両目」化していたバトル・ベアを引き付けていた。
バトル・ベアは何度もアーデに追いついては、彼女に鋭い爪を振り下ろしていたが、アーデはまるで遊んでいるかのようにそれらを回避していて、その度にバトル・ベアから離れていった。
そして、
(そろそろいいかな)
と、アーデは心の中でそう呟くと、更に前へ進むスピードを早くしたので、それを見たバトル・ベアも、「今度こそ仕留める!」と言わんばかりにスピードを早くした。
ところが、漸くアーデに追いついた次の瞬間、
「ごめんね」
と、アーデがそう言ったと同時に、何とその姿がスッと消えたのだ。
これに驚いたバトル・ベアは、「何処だ!? 何処にいる!?」と言わんばかりに自身の周辺をキョロキョロ見回したが、何処を見てもアーデの姿を見つけることが出来ず、ならばと彼女の匂いを探そうと鼻をクンクンとさせたが、こちらもアーデの匂いをとらえることが出来なかった。
やがて、彼女を完全に見失ったと理解したバトル・ベアは、
「グルァア!」
と、怒りのままにそう叫びながら、まるで八つ当たりするかのように近くの木を思いっきり殴り付けた。
その瞬間、殴られた木はバキバキと音を立てながらへし折られ、最後にドスンと大きな音が森に響き渡った。
その後、気持ちが落ち着いたのか、バトル・ベアは「フン」と鼻を鳴らすと、ノシノシとその場を後にした。
暫くすると、その倒れた木からそこそこ離れた位置にある岩の影から、
「ふぅ」
と、岩と同じ色をした灰色の布に包まっていたアーデが、ひょっこりと顔を出した。
アーデはソーッと辺りを見回して、バトル・ベアがいないのを確認すると、
(うん、もう大丈夫)
と、心の中でそう呟きながらスッと立ち上がり、それまで自身を隠してた灰色の布を肩にかけていた革製のバッグにしまい、
(みんなのところに戻ろう。まだ、あそこから移動してなきゃいいけど)
と、再び心の中でそう呟くと、すぐに春風達のもとへと戻ろうとその場を後にした。
その姿を、1つの「影」がジッと見つめていたのを知らずに……。
さて、そんなアーデの状況を知らない春風達はというと、
「エリックさん、少し移動しますが、大丈夫ですか?」
と、手当てを終えた春風がエリックに向かってそう尋ね、その質問にエリックが、
「あ、ああ。大丈夫だ」
と、コクリと頷きながらそう返事すると、春風は「それでは……」と言って、エリックをゆっくりと立たせると、先程まで倒れてたところから少し離れた位置にある木の根本まで共に移動した。勿論、レナと「ステラ」と呼ばれた女性ーー以下、ステラ、「イアン」と呼ばれた男性ーー以下、イアンも一緒にだ。
ただ、その際に、
「「あ」」
バトル・ベアの一撃によって引き裂かれた鎧と衣服がボロッと地面に落ちてしまい、エリックは上半身裸となってしまった。
恥ずかしそうに顔を赤くしたエリックに、
(ど、どうしよう)
と、春風は困った表情になると、
「あ、そうだ!」
と言って腰のポーチに手を入れてーー勿論、その時に「無限倉庫」を発動したーー、そこから1枚の黒い大きな布を取り出した。
よく見ると、それは今春風が羽織っている青いマントよりも大きな黒いマントのようで、
「すみませんが、これを羽織ってください。耐久性は心許ないかもしれませんが」
と、春風はそう言って、エリックにその黒いマントを差し出すと、
「うぅ。す、すまない」
と、エリックは更に恥ずかしそうに顔を赤くしながらその黒いマントを受け取り、すぐにそれを羽織った。
その後、木のところまで移動すると、エリックをその木の根本に座らせて、
「ちょっと待っててください」
と、春風はそう言うと、エリックが倒れてた場所へと引き返して、再び腰のポーチに手を入れると、そこから1本のスコップを取り出した。
それを見てギョッと目を大きく見開くエリック、ステラ、イアンの3人をよそに、春風はそのスコップでエリックが倒れてた場所、特に彼の血が染み込んだ部分を掘り返し、他の土に混ぜた。
そして、最後に混ぜた部分の土をポンポンとスコップで叩くと、そのスコップを腰のポーチにしまって、またレナ達のところに戻った。
「お待たせしました」
と、そう言った春風に向かって、
「あ、あの……今、何を……?」
と、ステラが恐る恐るそう尋ねると、
「血の匂いで魔物が寄って来ないようにしてきました」
と、春風はニコッとしながらそう答えたので、それにステラが「そ、そう……」と返事すると、
「うーん……」
と、春風は未だに呆けている様子のエリック、ステラ、イアンの3人をジィッと見つめ出したので、
「春風、どうしたの?」
と、レナが「ん?」と首を傾げながら尋ねたが、それを無視して、
「うん」
と、春風はそう頷くと、また腰のポーチに手を入れて、そこからとあるものを取り出した。
さて、そんな状況の中、アーデはというと、
(もうすぐだと思うけど)
と、少し早いペースで春風達のもとへと戻っていた。
それから少しして、
(あ、見つけた!)
と、ちょっと遠い位置ではあるが春風達の姿が見えたので、
(よかった、まだそれほど離れてなかった……)
と、アーデはホッと胸を撫で下ろしたが、
「……ん?」
何やら春風達の様子がおかしく見えたので、
「まさか!」
と、不安になったアーデは更にスピードを早くした。
そして、
「みんな、大丈夫……!?」
と、アーデが春風達のもとに着くと、
「あ、アーデさんお帰りなさい」
と、春風が少し楽しそうな感じにそう言ったので、
「……春風。ていうか、みんな……何してるの?」
と、現在の春風達の様子を見てポカンとなったアーデがそう尋ねると、春風は「え? うーん」とどう答えればいいか考える仕草をした後、
「アーデさんを待ってる間に、みんなでティータイムしてました」
と、春風は「あはは」と苦笑いしながらそう答えた。




