第143話 ちょっと休憩からの……
それから暫くの間、春風達は順調にそれぞれの仕事をこなしていた。
途中、ジャベリン・ラビット以外の魔物にも遭遇したが、春風、レナ、そしてアーデの3人は苦戦することなくそれら全てを倒していった。
そんな感じで森の中を進んでいると……。
ーーグゥウウウウウ……。
「「「あ」」」
3人のお腹から大きく鳴り出したので、
「そ、それじゃあ、何処か安全なところを探して休憩しようか!」
と、顔を真っ赤にした春風がそう提案したので、同じく顔を真っ赤にしたレナとアーデもそれに従うことにした。
その後、それから少しすると、かなり大きな木の近くに着いたので、春風達は周囲を見回して危険がないのを確認すると、その大きな木の根本で休憩を取ることにした。
「よし! ちょっと遅くなったけど、お昼ご飯にしよう!」
「おー!」
と、春風とレナはそう言うと、それぞれ腰のベルトに取り付けたポーチに手を入れて、そこから様々な食材と、それを調理する道具を出した。
楽しそうに様々なものを出すそんな春風とレナを、
「……」
と、アーデは無言でジッと見つめると、
「ねぇ2人共……」
と、2人に向かってそう口を開いたので、
「ん? 何ですかアーデさん」
と、春風がそれに返事すると、アーデは春風達の腰のポーチを指差しながら、
「そのポーチ、一体どうなってるの? 見たところ、普通のポーチに見えるけど」
と、尋ねてきたので、その質問に2人はギクッとなると、
「あー……これ、『特別製』なんですよ」
と、春風はチラッとレナに視線を向けながらそう答え、それに続くように、
「そ、そうそう! そして、このポーチを使えるのは、持ち主である私達だけなの!」
と、レナも何度も頷きながらそう答えた。
2人の答えを聞いて、アーデは数秒程沈黙すると、
「……そう、それは残念」
と、納得してくれたので、春風とレナはホッと胸を撫で下ろした。
そんな2人の心境は……。
(……い、言えない)
(実はこのポーチ……魔導具でも何でもない、普通の革製のポーチだなんて!)
ここで漸く語ることが出来たので、説明しよう。
そう、実は春風とレナが腰のベルトにつけてるのは本当に何の変哲もない普通の革製のポーチで、周りからはそこからものを取り出してるのかに見えていたが、実際にはそこから取り出すふりをして、固有職保持者共通スキル「無限倉庫」から取り出していたのだ。
何とかこの場を誤魔化すことに成功した2人は気を取り直すと、取り出した食材と道具を使って調理を始めようとしたが、
「おっと、その前に……」
と、レナはそう言うと、春風とアーデから離れて何処かへと歩き出した。
それから少しすると、春風は今自分達のいる場所の雰囲気が変わったのを感じ、そのすぐ後に、
「お待たせぇ」
と、レナが戻ってきたので、春風はアーデを警戒しつつレナに近づくと、
「……ひょっとして、ここ『精霊』達がいるの?」
と、小声でレナにそう尋ねた。
その質問を聞いて、レナもアーデを警戒しつつ、
「うん。だから、みんなに頼んで、魔物が近づかないようにしてたの」
と、小声でそう答えたので、
(ああ、なるほど。それで場の雰囲気が変わったのか)
と、春風は納得の表情を浮かべた。
その後、2人は漸く調理を始めた。出発前に予め作る料理を決めていたので、2人は揉めることなくそれぞれの役割を果たしていた。
そして、暫くすると、
「「よし! 出来た」」
と、2人がそう言ったように、用意していたテーブル上には美味しそうな料理が丁度3人分並べられていたので、
「え? 私もいいの?」
と、それを見たアーデが首を傾げながら尋ねると、
「ええ、勿論ですよ」
「どうせアンタ、携帯用の保存食しかないんでしょ?」
と、春風とレナにそう言われてしまい、その言葉にアーデは「うぐ!」となったが、
「……ありがとう」
と、すぐに顔を赤くしながら2人にお礼を言うと、
「それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」
と言って、それから3人は食事始めるのだった。
因みに、そんな3人の様子に、
(うふふ、なんだか微笑ましいわ)
と、マジスマ内のグラシアは頬緩ませていた。
さて、そんなグラシアをよそに、
「あ、これ凄く美味しい」
と、料理を食べたアーデがそう口開くと、
「あ、それ春風が作ったやつね」
と、レナがそう返事したので、それにアーデが「え?」と反応すると、
「あ、あはは、どうも」
と、春風は恥ずかしそうに顔を赤くした。
そんな春風に向かって、
「は、春風って……戦闘だけじゃなく料理まで出来るの?」
と、アーデが恐る恐るそう尋ねると、
「あー、はい。自分、実家が喫茶店なものでして、よく父に料理を教わっていたんです。そのおかげで、今ではお客さんに出せるくらいのものを作れるようになれました」
(まぁ、その為かそれがスキルの発現に至った訳ですが……)
と、春風は若干気まずそうにそう答えたので、
「そ、そうだったんだ」
と、アーデはそう納得すると、再び料理を食べ始めた。
ただその際、アーデの頬が赤くなっていたのが見えたが、春風とレナは「気のせいだろう」と思うことにした。
それから暫くして、料理を食べ終えた3人は、それぞれ後片付けを開始した。
そして、
「さて、それじゃあこれからどうする?」
と、アーデがそう尋ねてきたので、
「そうですね。もう薬草も結構採れましたし……」
「私も、予定以上に倒すことが出来ましたから……」
と、春風は用意した布袋いっぱいの薬草を、レナはジャベリン・ラビットから取れる大量の「素材」をアーデに見せながらそう答えた。
それらを見て、アーデは「ふむふむ」と頷くと、
「それじゃあ、今日はこれで帰ろうか」
と、提案してきたので、それに春風とレナは「そうですね」と頷くと、
「よし、フロントラルに戻ろう!」
と、春風はそう提案し、それにレナとアーデが「おー!」と返事した、まさにその時……。
ーーギャアアアアア!
ーーイヤァアアアアア!
「「「!」」」
遠くで何やら悲鳴みたいな叫びが聞こえたので、3人は「な、何だ何だ!?」と驚くと、すぐにその叫びが聞こえた方向へと駆け出した。




