第135話 もう1人の「リーダー」登場と、事情説明
「はじめまして、僕はタイラー・ポッター。レギオン『黄金の両手』のリーダーをしている者です。そして、彼女は助手のアーデ」
「アーデです。よろしくお願いします」
と、春風達の前でそう自己紹介した2人の男女、タイラー・ポッターーー以下、タイラーとアーデ。
次々と現れた新たな人物達に、
(もう何だよ次から次へと!)
と、春風は内心ではウンザリしていたが、それを表情に出すことなく、
「ああ、これはどうも。こちらこそはじめまして、自分は本日ハンターになりました、春風と申します。よろしくお願いします」
と、タイラーとアーデに対して丁寧な口調でそう自己紹介した。
それを聞いて、タイラーが「ああ、これはご丁寧に」と笑顔でそう返事したが、
「「「じー……」」」
(あう、皆さんそんな目で見ないでください)
と、春風が心の中でそう呟くように、フレデリック、ヴァレリー、そしてレベッカまでもが、春風に対して疑いの眼差しを向けていた。
因みに、そんな状況の中、
「は、春風ぁ……」
と、レナは春風を見てオロオロしていた。
まぁそれはさておき、
「あー。タイラーさんと、アーデさん……でしたっけ?」
「ええ、そうですよ」
「はい」
「一応お聞きしますが、お2人はいつからここにいたんですか? まぁ、ヴァレリーさんとの手合わせ前からいたのは感じてましたが……」
と、春風がタイラーとアーデに向かって恐る恐るそう尋ねると、
「勿論、あなたが其方のレナさんと共に新規登録の受け付けに来たあたりからですよ」
と、タイラーは満面の笑みでそう答えたので、
(最初からかよ!)
と、春風は心の中でそうツッコミを入れたが、
「なるほど、そうでしたか」
と、春風も笑顔を浮かべながらそう返事した。
そんな状況でも、
「「「じー……」」」
と、フレデリック、ヴァレリー、レベッカから疑いの眼差しを向けられ続け、
「それで、春風君……で、いいのかな? 彼女……ヴァレリーが言ったことは事実なのかい?」
と、タイラーからも笑顔でそう尋ねられてしまったので、
「……」
と、春風はチラッとレナに視線を向けると、
「あう……」
と、レナは今にも泣き出しそうな表情を浮かべていたので、それを見た春風は観念したかのように「ふぅ」とひと息入れると、
「はい。確かに、自分の本名は雪村春風。ルーセンティアに召喚された『勇者』達と同じ世界の住人……異世界人です」
と、タイラー達に向かって改めてそう自己紹介すると、
「すみませんレベッカさん、騙すようなことをしてしまって……」
と、レベッカに向かって申し訳なさそうな表情で、ペコリと頭を下げて謝罪した。
その謝罪を受けて、
「あぁ、気にすることはないって、『異世界人』って言ったって信じられるものじゃないし」
と、レベッカは「あはは」と笑いながらそう返事したので、
「本当に……すみません」
と、春風はもう一度謝罪した。
そんな春風に、
「ふむ、『異世界人』ですか。ところで、春風さんは本当に『勇者』ではないのですか?」
と、フレデリックはジッと春風を見つめながらそう尋ねてきたので、
「ええ、それは本当です。自分の他に召喚された24人には皆、『選ばれし勇者』という称号を持っていましたが、残念なことに自分はそれを持ってません」
と、春風は少し暗い表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
「そりゃまた何でなんだ?」
と、今度はヴァレリーがそう尋ねると、春風は気まずそうな表情で「それは……」と呟くと、
「『勇者召喚』が実行されたあの日、俺は1人それに抵抗していたんです。まぁ、結局は無駄に終わりましたが」
と、更に表情を暗くしながらそう答えたので、
「ほう、『勇者召喚』に抵抗ですか。それはまたどうして?」
と、フレデリックは大きく目を見開きながらそう尋ねた。
その質問に対して、
「だって、突然周りから妙な声が聞こえて、地面が光り出したと思ったら、周りにいた人達は次々にその光に消えて、俺、凄く怖くなって……」
と、春風は少し震えた声でそう答えると、
「むぅ、なるほど。それで『抵抗』ですか。それにしても、それでよくルーセンティア王国から出て行こうと思えましたね。普通は残るものでは?」
と、フレデリックが更にそう尋ねてきたので、
「先程も言いましたが、俺はみんなと違って『勇者』じゃないですから。言ってみれば自分は、ルーセンティア王国側にとっては『異分子』のようなものです。きっとルーセンティア王国は勿論、この世界の人々が崇める5柱の神々にとって、自分の存在は許されるものじゃないでしょう」
と、春風は真剣な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
「あー。まぁ確かに、ルーセンティア王国……というよりも、『五神教会』の連中はお前を認めないだろうね」
と、ヴァレリーが納得の表情を浮かべると、
「それに、たとえみんなと同じように『勇者』の称号を持っていたとしても、自分はやはり、ルーセンティア王国から去っていたでしょう」
と、春風は何処か辛そうな様子でそう答えたので、
「へ? そりゃまた何でなんだい!?」
と、レベッカがギョッと大きく目を見開いたので、
「……俺の命は、もう俺1人のものじゃないんです。俺の命には、俺に『生きて幸せになってほしい』という、大切な人達の『願い』が刻まれているんです。俺自身、その人達のことが大好きで、その人達の想いに答えたいから、ルーセンティア王国の申し出を拒否したんです。でもまさか、そのことをしっかりと伝えた結果、怒った騎士達を相手にすることになってしまって……」
と、春風は「あはは」と苦笑いしながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「なるほど、そういう訳でしたか」
と、フレデリックはそう納得の表情を浮かべた後、
「それにしても、よく騎士達を相手に生き延びることが出来ましたね? 彼らは決して弱くはないですし……」
と、また春風に向かってそう尋ねると、
「『運』が良かったんです。あの時の騎士達は、俺の話を聞いてかなり怒ってましたし、『師匠』にもらったこの『お守』や、レナの助太刀もありましたから」
と、春風は腰のポーチからケースに入った状態の夜羽を取り出し、チラッとレナを見ながらそう答えたので、それにレナが「いやん!」と顔を真っ赤にし、
「ほほう、そうでしたか」
と、その答えを聞いたフレデリックが納得の表情を浮かべると、
「ですが春風さん」
と、フレデリックが真剣な表情で春風に向かってそう言ったので、それに春風が、
「は、はい」
と、返事すると、
「辛くなかったですか? 事情はどうあれ、あなたは同郷の人達を置いてルーセンティア王国を出て行くことになってしまったのですから」
と、フレデリックは更に真剣な表情でそう尋ねてきた。




