第134話 ヴァレリーの疑念(?)と……
「お前、『雪村春風』だろ? 異世界人の」
と、春風に向かってそう尋ねてきたヴァレリー。
その質問に、小闘技場内の空気が凍り付くの感じたのか、
「ちょ、ちょっとアンタ! いきなり何言って……!?」
と、レナは戸惑いながらも、ヴァレリーに向かって怒鳴るように尋ねようとすると、
「……」
春風はスッと右腕を上げて、レナに無言の「待った」をかけた。
その表情はとても冷静で、それを見たフレデリックは「ほう」と感心したかのような表情になる中、
「申し訳ありませんヴァレリーさん、仰ってる意味がわかりませんが?」
と、春風はヴァレリーに向かって謝罪しつつそう尋ねた。
その質問に対して、ヴァレリーは「ふむ」と声をもらすと、
「知ってるとは思うが、今、この世界は封印から目覚めた『邪神』によって危機に陥っている。そして、それ対抗する為、週間前に『ルーセンティア王国』で、とある『儀式』が行われたという情報が入った」
と、春風とレナに向かってそう話し始めた。
それを聞いて、レナはグッと拳を握っていると、
「ええ、その話でしたら、こちらの耳にも入ってますよ。確か、『勇者召喚』の儀式でしたな?」
と、フレデリックがそう口を開いたので、
「そうだ。そしてその儀式によって、別の世界から25人の異世界人が、神々に選ばれた『勇者』として召喚された」
と、ヴァレリーはチラッとフレデリックを見てそう返事した後、
「ところが、その中の1人が、『自分は勇者ではない』と言って国王の申し出を拒否した上に騎士達を相手に大暴れ。そして、最終的にはその場に居合わせた1人の『ハンター』と一緒に王城を飛び出したという」
と、春風に視線を戻しながらそう言うと、
「で、その異世界人の名前が『雪村春風』、つまりお前のことで、居合わせた『ハンター』ってのが……レナ、お前だな?」
と、春風とレナに鋭い視線を向けながらそう尋ねた。
その質問を聞いて、レナが「ぐぎぎ……」と歯軋りしながら警戒するが、逆に春風は落ち着いた表情を浮かべていて、
「……もし、俺が『そうだ』と答えたら、あなたは俺とレナをどうするつもりですか?」
と、春風もヴァレリーに対して鋭い視線を向けながらそう尋ねたので、その質問を聞いたヴァレリーは、
「どう……とは?」
と、春風に向かってそう尋ね返すと、
「俺達を捕らえて、ルーセンティア王国に引き渡しますか? それとも……この場で始末しますか?」
と、春風はヴァレリーに向かって更にそう尋ねた。
その質問を聞いて、
「ちょ、ちょっと春風!?」
と、レナはギョッと大きく目を見開き、
「おいおい、『始末しますか?』とは随分と物騒なことをきくな。というか、その質問が出てきた時点で、『はいそうです』って言ってるみたいなもんだけど……」
と、ヴァレリーは「あはは」と笑いながらふざけた感じでそう言ったが、
「……」
春風の表情は変わらず、それどころかまるで氷のように冷たいものを感じたので、ヴァレリーはスッと表情を変えると、
「……安心しろ、私はそんなことはしないし、お前達が望むなら、この話をここだけのものにし、誰にも口外しないことを約束しよう」
と、真剣な表情でそう言った。
その言葉を聞いて、
「そんなセリフだけで信用しろと?」
と、春風が警戒心を剥き出しにするかのように目を細くしながらそう尋ねると、
「それでしたら、私が証人になりましょう。それなら構いませんよね?」
と、フレデリックが1歩前に出ながらそう口を開いたので、それにレナが「おぉ!?」と反応する中、
「……そうですね」
と、春風はそう呟くと、
「皆さんでしたら、どうしますかぁ!?」
と、周囲を見回しながら、大きな声でそう尋ねた。
突然の行動にレナとヴァレリーが「え?」と首を傾げると、小闘技場内の何処かからパチパチと拍手があがり、そのすぐ後に、
「いやぁ、お見通しでしたか!」
と、そんな声がしたので、レナとヴァレリーは思わず「え!?」と目を大きく見開いた。
次の瞬間、小闘技場内にある幾つもの柱の1本の後ろから、1人の若い男性と眼鏡をかけた若い女性が現れたので、
「げっ! アンタ達は!」
「タイラーにアーデ!」
「おやおや……」
と、レナとヴァレリー、そしてフレデリックは大きく目を見開いた。
そんなレナ達をよそに、
「あ、皆さんのお知り合いでしたか」
と、春風は落ち着いた表情でそう呟くと、
「驚いたねぇ、いつから気付いてたんだい?」
なんと、もう1本の柱の後ろから、
「え!? れ、レベッカさん!? 何でここに!?」
と、何故かレベッカまでもが出てきたので、レナは更に大きく目を見開きながら、レベッカに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、レベッカは「あー」と気まずそうな表情で後ろ頭をボリボリと掻くと、
「いやぁ、アンタ達……というより、春風のことが妙に気になりだしてね、こっそり後をつけさせてもらったのさ」
と、「あはは」と苦笑いしながらそう答えたので、
(うーん、この人一体何者なんだろう?)
と、春風はそう疑問に思ったが、すぐにブンブンと首を横に振って、
(いや、それよりもまずは……)
と、若い男性と若い女性の方に視線を向けた。
若い男性の方は、見たところヴァレリーと同じ年頃くらいの金髪のイケメンで、フレデリックと同じように整ったスーツの上にロングこコートをマントのように羽織っている。
一方、眼鏡をかけた若い女性の方はというと、こちらは若い男性よりも更に若く見えて、スーツ程ではないがビシッとした服装で、何処か「クール」な雰囲気を出していた。
そんな特徴的な2人を見て、
「それで、失礼を承知で聞きますが、お2人は一体どちら様でしょうか?」
と、春風がそう尋ねると、金髪のイケメン男性が「ああ、これはすみません」と謝罪して、
「はじめまして、僕はタイラー・ポッター。レギオン『黄金の両手』のリーダーをしている者です。そして、彼女は助手のアーデ」
と、チラッと隣の若い女性を見ながらそう自己紹介し、それに続くように、
「アーデです。よろしくお願いします」
と、眼鏡をかけた若い女性ーーアーデも何処か淡々とした口調でそう自己紹介した。




