第132話 対決、春風vsヴァレリー?
「……あのぉ、ヴァレリーさん」
「ん? どうした?」
「この状況は……一体何の冗談でしょうか?」
と、目の前にいるレギオン「紅蓮の猛牛」のリーダー、ヴァレリーに向かって恐る恐るそう尋ねた春風。
そんな春風の質問に対して、
「冗談ではないぞ。今からお前には、この私を相手に戦ってもらう」
と、ヴァレリーは真面目な表情でそう答えたので、
(ど、ど、どうしてこんな状況にぃ!?)
と、春風は心の中でそう悲鳴をあげた。
遡ること少し前。
「ちょ、ちょっと、何処に行くんですか!?」
と、ヴァレリーに腕を引っ張られながら、ハンターギルド総本部内の廊下を歩く春風。そんな春風の質問に対して、
「まぁまぁ、いいからいいから!」
と、ヴァレリーはそう答えるだけで、その後は春風の腕を引っ張りながら、ズカズカと廊下を進んでいた。
勿論、そんな2人の後を、
「ちょっと! 春風を何処に連れてく気よ!?」
と、レナが怒鳴りながら追いかけていた。
それから少しすると、3人は何やら広い場所に出たので、
「さぁ、ここだ!」
と、ヴァレリーはそう言って春風の腕を離し、
「あの……何ですかここ?」
と、漸く解放された春風は恐る恐るヴァレリーに向かってそう尋ねた。
3人が着いたのは、先程語ったようにかなり広い部屋の中で、その中央にはまるで漫画とかに出てくる「闘技台」思わせるかのような大きな石造りの台があった。
そんな台のある部屋で、春風がヴァレリーに質問すると、
「ああ、ここはな……」
と、ヴァレリーが答えようとしたが、それを遮るかのように、
「ここは『小闘技場』というところで、主にハンター同士の決闘や、ちょっとしたイベントなどを行う為の場所ですよ。そして、あの石造りの台こそが戦う場である『闘技台』なのです」
と、春風達の背後から現れたフレデリックが、ヴァレリーの代わりにそう答えたので、
「……ま、そういうことだ」
と、ヴァレリーは何故かドヤ顔でそう言い、
「は、はぁ、そうですか」
と、春風は少しモヤッとしながらも、納得の表情を浮かべ、その後、
「そ、それで、ヴァレリーさんはどうして俺をここに?」
と、春風が再び恐る恐るそう尋ねると、
「それはな……」
と、ヴァレリーはそう言って、小闘技場の壁際に向かった。
そこには、数本もの木製の剣や槍、棒が入ったケースが置かれていて、ヴァレリーは背負っていた大剣を壁に立てかけた後、そのケースの前に立つと、
「どれ使う?」
と、春風に向かってそう尋ねてきたので、春風はその質問に「え?」と首を傾げたが、それから少し考えて、
「じゃあ、剣でお願いします」
と、答えると、ヴァレリーは「わかった」と言って木製の剣を2本取った。
その後、ヴァレリーはその木製の剣ーー以下、木剣2本を持ったまま春風達のところに戻ると、再び春風の腕を引っ張り、一緒に石造りの闘技台に上がった。
そして、その闘技台の中央近くに着くと、ヴァレリーは春風の腕から手を離し、
「はいよ」
と、持っていた木剣の1本を春風に手渡すと、春風から数歩程離れた位置に立って、
「さぁ、構えな」
と、春風に向かってもう1本の木剣を構えながらそう言い、
「一体何の冗談ですか?」
と、尋ねてきた春風に対して、
「今からお前には、この私を相手に戦ってもらう」
と、ヴァレリーがそう答え、現在に至る。
「いやいやいや、ほんとに何でこうなった!?」
と、今まさに現実起こってる出来事に対して、春風はそう疑問を口にし、
「ちょおっとぉおおおおお! アンタ一体何考えてんのぉおおおおお!?」
と、レナも「訳がわからん!」と言わんばかりに、ヴァレリーに向かって怒鳴るようにそう尋ねると、ヴァレリーはそれに「ん?」と反応し、
「決まってるだろ? 私とちょっと手合わせをしてほしいんだ」
と、春風とレナに向かってそう答えた。
その答えを聞いて、
「は? て、『手合わせ』ですか?」
と、春風は首を傾げ、
「な、何で春風がアンタにそんなことしなきゃいけないのよ!?」
と、レナは「益々訳がわからん!」と言わんばかりに更に怒鳴るようにそう尋ねたので、ヴァレリーはそれに「うーん、それは……」と木剣を構えたまま考える仕草をすると、
「まぁ敢えて言うなら、ちょっと個人的な『理由』さ」
と、ちょっとふざけた感じでそう答えたので、
「何じゃそりゃあああああ!」
と、レナは顔を真っ赤にしながらそう怒鳴った。
そんなレナをよそに、
(えー? 何この状況? 漫画やラノベだったら、普通は『ガラの悪い先輩ハンターに絡まれる』ってのがお約束の筈だよな? なのに、今、俺は目の前にいる女の人から手合わせを申し込まれるって……)
と、春風は心の中でそう呟くと、
「現実って、ほんと何が起きるかわからないよなぁ……」
と、今度は口に出してそう言い、最後に「はぁ」と溜め息を吐いた。
そんな様子の春風を見て、
「む! おい何だよその溜め息は?」
と、ヴァレリーが顔を顰めながらそう尋ねると、
「……ちょっと確認しますが、これって冗談じゃないんですよね?」
と、春風は真剣な表情でそう尋ね返したので、それにヴァレリーが「む?」と反応すると、
「勿論だ。そして、遠慮はいらない。何処からでもかかってきな」
と、ヴァレリーも春風同じく真剣な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、春風は自分達の周辺を見回した。
今のところ、この場には自分とヴァレリー、レナとフレデリック、そして、それ以外の視線が幾つかあるのを確認すると、
「うん」
と小さな声でそう頷いて、ベルトにさした鞘に納まった翼丸とケースに入った夜羽をベルトから外すと、腰のベルトに取り付けた革製のポーチに入れて、
「あの、ヴァレリーさん」
と、ヴァレリーに向かってそう声をかけた。
その言葉にヴァレリーが「ん?」と反応すると、
「ヴァレリーさんの個人的な理由って、後で教えてくれたりしますか?」
と、春風は困ったような笑みを浮かべながらそう尋ねてきたので、その質問に対して、ヴァレリーは「ああ」と頷くと、
「私に勝つことが出来たら、教えてやるよ」
と、不敵な笑みを浮かべながらそう答えた。
その答えを聞いて、春風は「そうですか」と呟くと、
「わかりました。そういうことでしたら……」
と、ヴァレリーに向かって木剣を構えながら、
「遠慮なく、いかせてもらいます」
と、静かにそう言い放った。




