第131話 女リーダー、ヴァレリー登場
「ゲッ! アンタは……!」
(え? だ、誰?)
ハンターギルド総本部長のフレデリックに続き、突如春風達の前に現れた1人の若い女性。
「ふふん」
と、不敵な笑みを浮かべたそんな彼女を見て、
(もう、次から次へと何なんだよぉ……)
と、春風が心の中でそう呟くと、
「お、おい……」
と、何処かからそんな声が聞こえ、それをキッカケに周囲がざわつき始めたので、春風は「何だろう?」と思ってそれらの声に耳を傾けると、
「おい、あの人って……」
「ああ、ヴァレリーだ」
「『紅蓮の猛牛』のリーダー、ヴァレリーだ!」
「嘘だろ!? もう遠征から帰ってたのか!?」
と、何やら目の前にいる女性のことを知ってる様子だったので、
「レナ……」
と、春風は小声で未だに嫌そうな顔をしているレナに話しかけた。
その声に反応したのか、
「何、春風?」
と、レナは目の前の女性に視線を向けたままそう返事したので、
「あの人、一体誰なの? 周りの声から察するに有名人みたいだけど……」
と、春風がそう尋ねると、それよりも早く、
「これはこれは、お帰りなさいヴァレリーさん。長期に渡る遠征、お疲れ様です」
と、フレデリックが春風とレナの前に出て、女性に向かってそう挨拶した。
その挨拶を聞いて、
「ああ、丁度今戻ったところだよフレデリック総本部長」
と、「ヴァレリー」と呼ばれたその女性は、「ハンターギルド総本部長」のフレデリックに向かって、何処か不遜とも言える態度と口調でそう言ったので、
「ほっほっほ。その様子からして、今回も余裕だったみたいですね」
と、フレデリックは笑いながらそう返事した。
そんな2人に向かって、
「あ、あのぉ……」
と、春風が恐る恐るそう声をかけると、
「「ん?」」
と、フレデリックと女性がそう反応し、
「おっと、これは失礼しました」
と、フレデリックが春風に向かってそう謝罪すると、すぐに女性の方を見て、
「ここから先は……」
と、フレデリックはペコリと頭下げながらそう言ったので、その言葉を受けた女性は、
「あいよ」
と、ニヤリとしながらそう言うと、春風と未だに嫌そうな表情をしているレナの前に出て、
「よぉレナ、ただいま。で、そっちのお前さんは『はじめまして』だな?」
と、レナ、春風の順にそう声をかけてきたので、
「ふん!」
と、レナは力強く鼻を鳴らしながらソッポを向き、
「あ、はい。はじめまして……?」
と、春風は恐る恐るといった感じでそう返事すると、
「はじめまして、私はヴァレリー・マルティネス。ハンターレギオン『紅蓮の猛牛』のリーダーを務めてる者だ。以後、よろしくな」
と、女性、ヴァレリー・マルティネスーー以下、ヴァレリーは春風を見てそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、春風は「む」と真面目な表情になると、
(『レギオン』って確か、ハンター同士が組むチームのことだよな?)
と、「レギオン」について思い出し始めた。
そう、実はヘリアテスの家に初めてきたその夜、レナから「ハンター」について基本的なことを教わっていた。勿論、その中には複数のハンター達が組むチーム「レギオン」についての話も含まれている。
春風はその時のことを思い出した後、
(で、今俺の前にいるのは、その『レギオン』って奴のリーダーってことか)
と、心の中でそう呟いて、それからすぐにフレデリックに自己紹介した時と同じようにゆっくりと目を閉じて深呼吸し、また目を開けて、
「こちらこそはじめまして。自分はご覧の通り、今日から『ハンター』になった春風と申します。一応言っておきますが、顔はこんなでもれっきとした男ですので、よろしくお願いします」
と、ヴァレリーに向かってそう自己紹介した。
そんな春風の自己紹介を聞いて、
「これはまた、随分と丁寧かつ面白い自己紹介だな」
と、ヴァレリーは「はは」と笑いながらそう言うと、
「あの、無礼を承知でお尋ねしたいのですが、レナとはどういった関係なのでしょうか?」
と、春風はチラッとレナを見ながらそう尋ねてきたので、その質問に対して、ヴァレリーは「ん?」と首を傾げると、
「ああ、レナはうちが何度もレギオンにスカウトしてるんだが、未だに首を縦に振ろうとしなくてな。もう、何度もフラれまくってるんだ」
と、「ははは」と苦笑しながらそう答えた。
その答えを聞いて、レナは「ふん!」と鼻を鳴らすと、
「何度も言ってるでしょ!? 私は、レギオンとかには興味ないの! だから、入るつもりなんてない!」
と、ヴァレリーに顔を合わせることなく怒鳴るようにそう言ったので、
「ご覧の通り、こんな感じなんだわ」
と、再び苦笑しながら、春風に向かってそう言った。
そんなヴァレリーの言葉に、春風は「はぁ」と声をもらすと、
「と、こ、ろ、で……」
と、ヴァレリーはそう言って春風に近づくと、
「ちょっと失礼」
と言って、春風の両頬にそっと触れて、
「うーん……」
と、何か吟味するかのように春風の顔を上下左右から見つめ始め、ひと通り見終わると、今度は春風の全身を触りながらじっくりと見つめてきたので、
「あ、あの、ヴァレリー……さん?」
春風は戸惑いに満ちた表情を浮かべ、
「ちょ、ちょっと、アンタいい加減に……!」
と、レナがヴァレリーに向かって何か言おうすると、
「……へぇ」
と、ヴァレリーはニヤッとしながらそう声をもらして、ゆっくりと春風から離れると、
「うん」
と、力強く頷いて、
「フレデリック総本部長」
と、フレデリックに声をかけたので、それにフレデリックが、
「何でしょうか?」
と返事すると、
「ちょっと『小闘技場』を借りるよ。いいかい?」
と、ヴァレリーは尋ねるようにそう言い、
「おや? 帰ってきたばかりで疲れてるのでは?」
と、その言葉を聞いたフレデリックがそう尋ねると、
「大丈夫、まだまだ余裕はあるが、無理はしないさ」
と、ヴァレリーはニヤッとしながらそう答えたので、それにフレデリックが「ふむ……」と考え込むと、
「いいでしょう。『小闘技場』の使用を許可します」
と、ヴァレリーに向かって冷静な態度でそう返事した。
そんな2人のやり取りを聞いて、
「え? あのぉ……」
と、春風がオロオロしていると、ヴァレリーはグッと春風の右腕を掴んで、
「ちょっと来てもらうぞ」
と言って、春風の腕をグイッと引っ張りながらその場から歩き出したので、
「あ、こら! 待ってぇ!」
と、怒ったレナも2人の後追いかけて、それに続くように、
「ほっほっほ。それでは私も……」
と、フレデリックもそう言うと、3人の後を追いかけた。
勿論その際に、
「さぁ、皆さん、今日も頑張って仕事に励みましょうね」
と、ジュリアをはじめとした職員達や、他のハンター達に対してしっかりと釘をさしてから、だ。




