第129話 ハンター登録……と思ったら
ハンターギルド総本部。
それは、中立都市フロントラルが誇るハンター達の本拠地にして、数多くの新たなハンターが誕生する場でもある。
そんなハンターギルド総本部の目の前に、
(こ、ここがハンターギルド総本部……か)
今、少年・春風は立っている。
近くで見ると、その建物はかなり大きくて立派なもので、出入り口からは様々な武装した者達やフロントラルに住む市民など、数多くの人達が出たり入ったりしていた。
そんなハンターギルド総本部ーー以下、総本部を前に、春風は緊張しているのか、ゴクリと唾を飲みながら表情を強張らせていると、
「春風」
と、隣に立つレナがポンと春風の肩に手を置いたので、それに春風が「ん?」と反応すると、
「大丈夫、私がついてるから」
と、レナはニコッとしながらそう言ってきたので、それを見た春風は目をパチクリとさせると、
「……ありがとう、レナ」
と、春風は緊張が解れてきたのか、レナに向かってニコッとしながらそう返事したので、それを見たレナは「ふふ」と小さく笑うと、1歩春風の前に出て、
「じゃ、行こっか」
と、穏やかな笑みを浮かべながらそう言い、それに春風が「うん」と力強く頷きながらそう返事すると、2人は出入り口を通って総本部の中へと入った。
中もかなり広く立派な造りをしていて、周囲を見回すと、何処も大勢の武装した人達や一般市民達、そして、そんな彼らを相手に話しているスーツ姿の人達で賑わっていた。
因みに、そのスーツ姿の人達が総本部の職員だと、後でレナから聞いた。
まぁそれはさておき、総本部内の様子を見て、
「うわぁ……」
と、春風が目を大きく見開いていると、
「春風、こっちだよ」
と、レナがとある方向を指差しながらそう言ってきたので、春風それに「うん」と反応すると、その指差した方向に向かって2人は歩き出した。
2人が向かったのはちょっと大きめの受け付けカウンターで、その上には「新規登録受け付け」と書かれたプレートが置かれていた。
そして、その「新規登録受け付け」の席に座っている1人のスーツ姿の若い女性に向かって、
「すみませーん」
と、レナがそう話しかけると、
「ん? あら、レナ。おはよう」
と、若い女性は笑顔でレナに向かってそう挨拶した。
そんな若い女性に対して、
「おはようございます、ジュリアさん」
と、レナも笑顔でそう挨拶を返すと、
「どうしたの? あなたがここに来るなんて」
と、「ジュリア」と呼ばれた若い女性ーー以下、ジュリアがそう尋ねてきたので、
「彼のハンター登録をお願いします」
と、レナは隣の春風を見ながらそう答えた。
そして、レナに続くように、
「お、お願いします」
と、春風もジュリアに向かってペコリとしながらそう言うと、
「……」
何故かジュリアは、春風を見て表情を固めていたので、春風とレナは「おやおや?」とお互い顔を見合わせた後、
「「あ、あのぉ……」」
と、恐る恐るジュリアにそう話しかけると、
「……えっと、レナ」
と、ジュリアがそう口を開いたので、それにレナが「何ですか?」と返事すると、
「『彼』って……え、その人……男なの?」
と、ジュリアはチラッと春風を見ながら、まるで「信じられない!」と言わんばかりにそう尋ねてきた。
それを聞いて、
「はぁ。ここでもか……」
と、春風は溜め息を吐きながらそう呟き、それを聞いたレナが「まぁまぁ……」と宥めた後、
「はじめまして、自分は春風と申します。こんな顔をしてますが、れっきとした『男』です」
と、春風はジュリアに向かってそう自己紹介した。ただ、口調こそ丁寧だが「こんな顔」のところだけで強めな口調でそう言っていることから、
(ああ、春風すっごい怒ってるなぁ)
と、レナは「はは」と頬を引き攣らせながらそう思った。
そんな心境にレナを前に、
「え……嘘、男なの? え? え? ちょっと待って。それって、つまり……」
と、ジュリアは混乱した様子でそう呟くと、
「れ……」
「「ん?」」
「レナが男連れてきたぁあああああ!?」
と、ジュリアは春風を見てそう悲鳴をあげたので、
(あっれぇ!? なんか昨日もこんなことがあったっけぇ!?)
と、春風が心の中でショックを受けていると、
『なぁにぃいいいいいいい!?』
と、周囲からそんな叫び声があがったので、
「「ふえ!?」」
と、春風とレナは驚いて辺りを見回すと、大勢の人達が大きく目を見開き、口をあんぐりとさせながらこちらを見ていたので、
「「あ、あのぉ……」」
と、2人はダラダラと滝のような汗を流しながら、恐る恐るそう口を開くと、大勢の人達はドドドと2人……というよりもレナに詰め寄ってきて、
「おい、どういうことだ!?」
「冗談だろ!?」
「あの単独活動者のレナが!?」
「男っ気のなかったレナが!?」
「相手は誰!?」
「誰連れてきたの!?」
『さぁ、吐け!』
と、口々にそう言ってきたので、
「ちょ、ちょっと……」
と、レナはあまりの勢いにどう答えたらいいのかわからず困った表情を浮かべた。
そんなレナを見て、
(ま、まずい、助けなきゃ!)
と、ハッとなった春風は、
「お、俺です! 俺!」
と、勢いよく「はい!」と手を上げながらそう叫んだ。
その叫びを聞いて、レナの前に集まった人達が、
『……え?』
一斉に春風の方を向くと、
『嘘だ! どう見ても女の子じゃないかぁ!』
と、すぐにレナに向かってそう怒鳴ったので、
「だからぁ! 俺は男ですからぁ!」
「そうだよ! 春風はれっきとした男の子だよ!」
と、ブチ切れた春風とレナは、怒りのままにそう叫んだが、
『嘘をつくなぁ!』
と、大勢の人達は全然信じてくれなかった。
そんな彼らに対して、
(ああ、もう! どいつもこいつもぉ……!)
と、春風の怒りが更に増した、まさにその時、
「おやおや、何やら騒がしいですね」
という声がしたので、春風とレナ、そして多くの人達が一斉にその声がした方へと振り向くと、
「どうも、おはようございます」
そこには、ロングコートをマントのように羽織った、1人のスーツ姿の初老の男性が立っていた。




