第127話 その頃、水音達は……・4
「……と、いうことなんだ」
ルーセンティア王国で自身が見聞きしたことから、「勇者」達の中から水音、進、耕、祭、絆、祈の6人がストロザイア帝国に来ることになった経緯を話し、最後にそう締め括ったヴィンセント。
そんな彼の話を聞いて、キャロラインは「うーん」と唸ると、「うん」と頷いて、
「お話はわかりました陛下。色々とツッコミを入れたいところではありますが……」
と、真面目な表情でそう言うと、
「随分と面白そうな子なんですね、その『雪村春風』って子は」
と、すぐに穏やかな笑みを浮かべながらそう言ったので、
「ああ、俺もそう思ってる。そして、『勇者』達には申し訳ないが、俺はそいつをストロザイア帝国に迎え入れたいとも思ってるんだ」
と、ヴィンセントはそんなキャロラインに向かって真剣な表情でそう言った。
そんなヴィンセントを見て、
(ああ、ヴィンセント陛下。本気で春風を手に入れる気なんだなぁ……)
と、水音はタラリと汗を流しながらそう思った後、
(春風、厄介な人に目をつけられちゃったね)
と、この場にいない少年のことを考えながら、心の中で合掌した。
そして、それは進達5人のクラスメイト達も同様で、彼らも水音と同じようにこの場にいない少年のことを考えながら、
(雪村、ご愁傷様)
(雪村君、ご愁傷様)
と、皆、心の中で合掌した。
さて、そんな心境の水音達をよそに、
「それにしてもその子ぉ、本当に『固有職保持者』なのかしらぁ? 話を聞く限りじゃあ、どれも状況証拠っぽいものばかりでぇ、確証なんてないのでしょう?」
と、キャロラインがヴィンセントに向かってそう尋ねると、
「勿論ないさ。だが、俺は間違いなくそう思ってるし、たとえそいつが『固有職保持者』じゃなかったとしても、かなり面白そうな人間だって思ってるんだ」
と、ヴィンセントは真剣な表情のままそう答えたので、その答えにキャロラインが「そう……」と返事すると、
「で、その根拠は?」
と、再びヴィンセントに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ヴィンセントは「ふ……」と鼻で笑うと、
「決まってんだろ! 勘だよ、勘!」
と、何故かドヤ顔でそう答えたので、
(そ、そ、それでいいんですか皇帝陛下ぁ!?)
と、水音ら勇者達が心の中でそうツッコミを入れると、
「あら、それなら仕方ないですねぇ」
と、キャロラインは「うふふ」と笑いながらそう言ったので、
(あ、あ、あなたもそれでいいんですかぁ!?)
と、水音ら勇者達は再び心の中でそうツッコミを入れた。
そんな水音達を前に、キャロラインは「はぁ」と溜め息を吐くと、
「ま、こういう時の陛下の勘って、よく当たりますからねぇ」
と、「呆れ」が入り混じったかのような笑みを浮かべながらそう言ったので、
(え、えぇ? それって大丈夫なの?)
と、水音ら勇者達は不安に満ちた表情になった。
その時だ。
ーーぐぅううううう。
「あ、やべ!」
と、ヴィンセントのお腹からそんな音がしたので、その音を聞いた水音は「あ……」と声をもらすと、
「あらあらぁ、陛下ったらぁ」
と、キャロラインはクスクスと笑いながらそう言って、
「うん、お話は大分わかりましたぁ。今日はもう遅いですし、皆さんもお疲れでしょうから、夕食にしましょうか」
と、チラリと水音達を見ながらそう提案したので、それを聞いた水音達は「あ、あの……」と戸惑っていると、
「そうだな、今日はもうその方がいいだろう」
と、ヴィンセントはその提案に賛成し、
「それじゃあ、水音達に部屋を用意しなきゃいけねぇな」
と、チラッと水音達を見ながらそう言ったので、
「あら、そういえばそうですねぇ」
と、キャロラインは少し驚いた様子でそう言うと、水音達の方を向いて、
「勇者ちゃん達ぃ、今からみんなのお部屋を用意するから、もう少しだけ待っててねぇ」
と、「お願い」するような感じでそう言ってきたので、
「「「「「「は、はい、わかりました」」」」」」
と、水音達は緊張した様子でそう返事した。
それから暫くすると、
「失礼致します」
と、1人の人物が謁見の間に入ってきた。
それは、魔導飛空船の発着場でキャロラインの傍についていた、「レクシー」という鎧姿の少女だった。
その少女、レクシーはヴィンセントとキャロラインの前に跪くと、
「ヴィンセント陛下、勇者様方のお部屋の用意が出来ました」
と、顔を伏せた状態でそう報告したので、それを聞いたヴィンセントは、
「おう、ご苦労だったなレクシー。んじゃ、水音達を部屋まで案内してくれ」
と、レクシーに向かってそう命令した。
その命令を聞いて、レクシーが「は!」と返事した後、スッと立ち上がって、
「それでは皆様、お部屋まで案内します」
と、水音達に向かってそう言ったので、それに水音達が「あ……」と若干戸惑っていると、
「ああ、そうだったわ!」
と、ヴィンセント何かに気付いたかのようにハッとなって、
「紹介しよう、彼女はレクシー。歳は17だが、優秀なこの国の近衛騎士の1人だ。みんなよろしくな」
と、水音達にレクシーについてそう紹介し、それに続くように、
「はじめまして、勇者様方。私はストロザイア帝国近衛騎士の、レクシー・グラントと申します。以後お見知りおきを」
と、レクシーも水音達に向かってそう自己紹介したので、
「「「「「「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」」」」」」
と、水音達は緊張した様子でそう返事した。
その後、「それではこちらに」とレクシーに案内されるように、水音達は謁見の間を出た。
その後、暫く廊下を歩いていると、幾つもの部屋が並んでいる区画についたので、
「こちらが、皆様のお部屋になります」
と、レクシーは水音達に向かってそう言ったので、
「「「「「「あ、ありがとうございます」」」」」」
と、水音達はそうお礼を言って、それぞれ部屋に入っていった。
そして、最後に水音が部屋の扉を開けようとした、まさにその時、
「あの……」
と、レクシーに声をかけられたので、
「は、はい、何でしょうか?」
と、水音がそう返事すると、
「ちょっと、失礼します」
と、レクシーはそう謝罪した後、その顔を水音に近づけて、
「(くんくん)」
と、匂いを嗅ぎ始めた。
そんなレクシーの行為に、
「あ、あの、何を!?」
と、水音が激しく動揺していると、
「す、すみません!」
と、ハッとなったレクシーはすぐに水音から離れながらそう謝罪すると、
「で、では、私はこれで! どうぞゆっくりしてください!」
と言って、そそくさとその場から立ち去った。
そんなレクシーを見送った後、
「な、何だったんだ、一体?」
と、水音はそう疑問を口にして、
(これからここで暮らすことになったけど、大丈夫だろうか?)
と、自身が入ろうとしている部屋の扉を眺めながらそう疑問に思ったが、
「……いや、悩むのはやめだ。今はただ、進むだけだ」
と、首を横に振りながらそう呟いた後、扉を開けて部屋の中へと入った。
ただ、その後すぐに、別の部屋の扉が開かれて、
「……桜庭君」
と、そこから心配そうな表情をした祈が顔を出していた。
それから暫くして、水音達はヴィンセント達と夕食を共にし、その後彼らと軽く談笑すると、全員部屋に戻って、明日に備えて眠りについた。
そして翌日、舞台はストロザイア帝国から中立都市フロントラルへと変わる。




