第126話 その頃、水音達は……・3
それから水音達は、ヴィンセントとレオナルドに案内される形で、ストロザイア帝国の「帝城」の中へと足を踏み入れた。
短い間とはいえ、それまで自分達がいたルーセンティア王国の王城とは違う雰囲気に、
(うわぁ、凄いなぁ)
と、水音は心の中でそう感心していると、
「よし、着いたぞ」
と、目的の場所である「謁見の間」へと続く扉の前に着いたので、水音達がピタッと止まったのを確認すると、ヴィンセントはその扉を開けた。
中はルーセンティア王国王城の謁見の間と同じくらいの広さで、奥には当然ヴィンセントとその妻キャロラインが座る玉座もあった。
ただ、謁見の間全体の雰囲気はというと、ルーセンティア王国王城とは違って何処か「力強さ」を感じさせていたので、水音達はその雰囲気に呑まれたのか、緊張のあまり皆、ゴクリと唾を飲んだ。
そんな水音達を前に、
「じゃ、俺とレオンは部屋に行って着替えてくるから、みんなはここで待っててくれ」
と、ヴィンセントがそう言うと、レオナルドと共に謁見の間を出ていったので、
「え、ちょっと……」
と、水音が何か言おうとしたが、それよりも早くヴィンセントとレオナルドはその場から早歩きで去っていったので、残された水音達は、
「じ、じゃあ、ヴィンセント皇帝陛下達が来るまでここで待ってようか」
と、水音が恐る恐るそう提案し、
「「「「「う、うん。待ってよう」」」」」
と、進達はそれに従うことにした。
それから暫くすると、玉座近くの扉が開かれて、そこから「皇帝」らしい威厳に満ちた服装をしたヴィンセントと、その妻キャロライン、息子のレオナルド、そして、何故か表情を暗くしているエレクトラの順に入ってきた。
よく見ると、その顔には涙を流した後があったので、
(ああ、よっぽどこってりと絞られたんだなぁ)
と、水音は心の中でそう呟くと、同じく心の中で静かに合掌した。
そんな心境の水音を前に、謁見の間に入ってきたヴィンセント達は、それぞれの玉座の前に立つと、ゆっくりとそこに座った。因みに、ヴィンセントとキャロラインの玉座の後ろには3つの玉座があって、その内の2つにレオナルドとエレクトラが座った。
そして、全員が座り終わると、
「さて、勇者諸君」
と、ヴィンセントがそう口を開いたので、水音達はビシッと視線を正した。
そんな水音達を見て、キャロラインが「ふふ」と小さく笑うと、
「改めて、ようこそストロザイア帝国へ。それとこれも改めて言うが、俺はストロザイア帝国皇帝のヴィンセント・リアム・ストロザイアだ。そして、俺の妻、皇妃のキャロライン・ハンナ・ストロザイアに、息子のレオナルド・ヴァル・ストロザイアと、その妹のエレクトラ・リース・ストロザイアだ。あと、もう1人の娘アデレード・ニコラ・ストロザイアがいるが、彼女は今『中立都市フロントラル』でハンターをしていてこの場にはいないんだ。そこは、『すまない』と言わせてほしい」
と、ヴィンセントは真面目な表情で、改めて自身のことや家族についてそう紹介したので、それを聞いた水音達は、お互い顔を見合わせて無言でコクリと頷き合うと、
「桜庭水音です」
「近道進です」
「遠畑耕です」
「出雲祭です」
「晴山絆です」
「し、時雨祈です」
と、6人全員でヴィンセント達に向かって改めて自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、
「あらあらぁ、みんな丁寧ですねぇ」
と、キャロラインが穏やかな笑みを浮かべながら、小さな声でそう言うと、
「みんな、長い『空の旅』で疲れてるところを申し訳ないが、先に諸君にどうしても伝えなくてはないことがある」
と、ヴィンセントが真面目な表情のままそう言ったので、それに水音達が「え?」と首を傾げると、ヴィンセントはスッと玉座から立ち上がって、
「事情や経緯はどうあれ、この度は娘のエレクトラが、諸君らの大切な先生殿を傷付けてしまい、誠に申し訳なかった」
と、水音達に向かって深々と頭を下げて謝罪しだしたので、それを見た水音達は、
「「「「「「ちょ、ちょっと……!」」」」」」
と、驚いてしまい、ヴィンセントに「顔を上げてください!」とお願いしようとしたが、それよりも早く、
「そして、桜庭水音」
と、ヴィンセントは頭を下げた状態のまま、水音にそう声をかけてきたので、それに水音が「え?」と反応していると、
「改めて、娘のエレクトラを打ち負かしてくれて、ありがとう。彼女を相手にしたお前の戦いぶりは、とても素晴らしいと思っている」
と、ヴィンセントは顔を上げずにそうお礼を言ってきたので、
「……いえ、正直なところ、自分は『運が良かった』だけだと思ってます。実力でしたらレベル1の自分よりも、エレクトラ様の方が上ですから」
と、水音は真面目な表情でそう返事した。
因みに、ヴィンセントの後ろにいるエレクトラは、ヴィンセントの言葉を聞いてシュンとしていた。
それはさておき、水音のその返事を聞いて、
「あらあらぁ、水音ちゃんってば謙虚なんですねぇ」
と、キャロラインが意外なものを見るかのような表情でそう言うと、ヴィンセントと同じくスッと玉座から立ち上がり、水音の傍まで近づくと、
「ちょっと失礼」
と言って、水音の手を触り出した。
その行動に対して、
「あ、あの、キャロライン様?」
と、水音が恐る恐るキャロラインに向かってそう尋ねると、
「うん、中々いい手をしてますねぇ。もしかしたら、元いた世界でかなりの修羅場を潜ってきたのかしらぁ?」
と、逆にキャロラインにそう尋ね返されてしまったので、水音はその質問に思わず「う……」と唸ったが、
「……ええ、まぁ。色々と……」
と、恥ずかしそうに顔を赤くしながらそう答えた。
その答えを聞いて、キャロラインが「そう……」と静かにそう言うと、再び玉座に戻ってゆっくりと座った。
それに続くように、ヴィンセントも顔を上げて、キャロラインと同じようにゆっくりと玉座に座ると、
「さてと。じゃあ、最後に……」
と、口を開いて、
「キャロライン。まずは俺とエレクトラがルーセンティア王国で見聞きしたことや、何故、水音達がこっちに来ることになったのか、そしてこれからのことについて、改めて話をさせてもらう」
と、チラッとキャロラインを見ながらそう言ったので、
「ええ、わかりました陛下。よろしくお願いします」
と、キャロラインがコクリと頷きながらそう返事すると、ヴィンセントはルーセンティア王国での出来事から話し始めた。




