第121話 食事が終わって
「うぅ。お、お腹いっぱい……」
と、自室のベッドで横になっている状態の春風は、本当に苦しそうな表情でそう言った。
そして、そんな様子の春風を見て、
「だ、大丈夫、春風?」
と、レナは心配そう表情で尋ねてきたので、春風は苦しそうにも関わらず、
「し、心配しないでレナ。少しすれば、多分落ち着くと思うから」
と、レナに向かって笑顔でそう言った。
あれから2人は食堂で、デニスが用意した「オススメ」を食べ続けていた。
だが、
(ぜ、全然減る気配がない。どんだけあるんだこれ……?)
その量があまりにも多く、時々水を飲みながら食べ続けたが、幾ら食べても大皿の底の部分が見えなかったので、
(う! ちょっとキツイかも……)
と、春風はそう思い、残そうとしたが、
(いやいやいや、こんなところで諦めてたまるか! 絶対に完食してやる!)
と、すぐに自身を奮い立たせると、その後はどうにか残すことなく完食することが出来た。
それを見て、女将レベッカと料理人である夫のデニスが「おぉ!」とパチパチと拍手する中、
「ご馳走様でした!」
「ご、ご馳走様でした」
と、レナ、春風の順にそう言った後、食事の支払いはレナが2人分払ってくれて、
「うぅ、ごめんなさいレナ」
と、春風は申し訳なさそうにそう謝罪すると、自身はレベッカに宿泊費を払った。
因みに、現段階での春風の所持金だと、2泊3日(朝食付き)で精一杯だそうで、
(は、ハンターになったらめっちゃ仕事しよう! もしくは魔物倒しまくって売れそうなものをゲットしまくろう!)
と、春風は改めて自身にそう誓うのだった。
そして、食堂を出て自室に戻ると、
「あ〜苦しい……」
と、春風はすぐにベッドに横になり、
「は、春風!?」
と、それ見たレナはギョッと目を大きく見開いた。
何故レナまで一緒に部屋に入ってるのかというと、レナ本人曰く、
「な、なんか、春風苦しそうだったから」
とのことだった。
それから暫くして、
「ふぅ……」
と、春風は漸く苦しいのが和らいだのを感じると、
「あーよっこいしょ」
と上半身を起こしたので、
「は、春風、本当に大丈夫?」
と、レナは恐る恐るそう尋ねた。
その質問に対して、
「うん、もう大丈夫。いやぁ、あの料理凄く美味しかったね」
と、春風はニコッとしながらそう答えると、
「無理そうだったら残してくれていいのに。そしたら私が残りをたべるから」
と、レナは呆れ顔でそう言ったが、
「そうはいかないよ。折角作ってくれた料理だもの」
と、「いやいや」と手を軽く振りながらそう返事した。
因みに内心では、
(それに女の子に残りを食べてもらうなんて、そんな男としてアウトなこと出来るかよ!)
と、春風の中に眠る「男としてのプライド」がそう叫んでいた。
まぁそれはさておき、
「もう、そんなに無理しなくていいのに……」
と、レナが「むぅ」と頬を膨らませながらそう言い、そんなレナを見て、
「いやいや、してないって……」
と、春風がそう呟いた、まさにその時、
「いいえ。春風様は無理をしすぎです」
と、何処からかそんな声がしたので、
「え!? 何、何処から!?」
と、驚いたレナが周りをキョロキョロし出すと、
「うわ! ちょっと……!」
と、同じく驚いた春風は何故か部屋の隅々、それこそ天井まで調べ始めて、更に部屋についている窓の外から、部屋の扉を開けて廊下をジッと見つめ出した。
そんな春風を見て、
「は、春風? どうしたの?」
と、レナが恐る恐るそう尋ねてきたが、春風はそれを無視して、
「よし、怪しいものはないな……」
と、ホッと胸を撫で下ろしながらそう言うと、ゆっくりと部屋の扉を閉めて、
「『無限倉庫』発動」
と、自身のスキルの1つである「無限倉庫」を発動し、そこから「何か」を取り出した。
それは掌サイズの黒い正方形の物体で、春風はそれをジッと見つめてた後、ゆっくりと目を閉じた。
次の瞬間、黒い正方形の物体から赤、青、緑、オレンジ色の光が溢れ出て、部屋全体に広がり出したので、
「え、な、何これ!?」
と、それを見たレナがギョッと目を大きく見開くと、
「心配しないでレナ。誰にも見られないようにしただけでなく、外に音や話し声がもれないように、ちょっと結界を張っただけだから。
と、春風はレナに向かって穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「け、結界って、何を言ってるの?」
と、レナが更に恐る恐るそう尋ねると、春風はゴソゴソとズボンのポケットに手を入れて、そこからある物を取り出したので、それを見たレナは、
「あ! それって確か、アマテラス様をこの世界に召喚した魔導具!」
と、思い出したかのようにそう声をあげたが、
「……って、はっ!」
と、レナは「しまった!」と言わんばかりに両手で自身の口を覆ったので、それを見た春風は、
「だ、大丈夫、この結界の中では会話が外にもれないようになってるから」
と、少し慌てた様子でレナを落ち着かせた。
そう、春風がポケットから取り出したのは、春風がスキルを用いて初めて作り、かつてヘリアテスの家でアマテラスをこの世界に招き入れた時に使った魔導具、「マジスマ」こと「見習い賢者のマジックスマートフォン」だったのだ。
そのマジスマを見て、
「……でも、何でそれを出したの?」
と、レナが首を傾げながらそう尋ねると、
「あー、それはねぇ……」
と、春風が何処か気まずそうな表情で言うと、手に持ったマジスマの画面に向かって、
「グラシアさん、出てきていいですよ」
と言った。
その言葉を聞いて、
「……は? え? 春風、今なんて……?」
と、レナが「訳がわからん!」と言わんばかりに目をパチクリとさせた次の瞬間、マジスマの画面がピカッと光り出し、そこから1人の女性が現れたので、
「……え? グラシアさん!?」
と、レナは目を大きく目を見開きながら驚き、
「はい、数日ぶりですねレナ様」
と、現れた女性……元・固有職能「時読み師」の固有職保持者で現在は幽霊であるグラシア・ブルームは、レナに向かってニコッとしながらそう言った。




