第109話 そして、出発
お待たせしました、予定通り、第4章最終話です。
そして、いつもより長めの話になります。
翌朝、ルーセンティア王国王都、王城前。
そこには、国王であるウィルフレッドとその家族、王妃マーガレット、王女クラリッサ、その妹である第2王女イヴリーヌ、そして、「勇者」として召喚された爽子と23人の少年少女達、最後に、ストロザイア帝国皇帝のヴィンセントと、その娘にして第2皇女のエレクトラが集まっていた。
因みに、全員朝食は済ませてある。
そう、今日はヴィンセントとエレクトラがストロザイア帝国に帰ると同時に、「勇者」の一員である水音、進、耕、祭、絆、祈の6人が、ヴィンセント達と共にストロザイア帝国に行く日でもある。
ただ、何故、皆が王城前に集まっているのかというと、ヴィンセント曰く、
「最高の迎えを用意してるんだ」
とのことで、それ故に現在、全員その「迎え」が来るのを待っている状態なのである。
そんな状況の中、
(『最高の迎え』……か)
と、水音が心の中でそう呟いていると、
「なぁ、『最高の迎え』ってどんなのだろうな?」
と、隣に立つ進が小声でそう尋ねてきたので、
「え!? う、うーん……」
と、驚いた水音が何か言おうと必死になって考えていると、
「お、来たぞ来たぞぉ!」
と、ヴィンセントがそう叫んだので、その叫びを聞いた水音達がヴィンセントの方へと視線を向けると、
(え? ヴィンセント皇帝陛下、一体何処見てるんだ?)
と、水音がそう疑問に思ったように、ヴィンセントはどういう訳か空へと視線を向けていたので、
「え、何で皇帝陛下、空なんか見てるの……?」
と、祭が首を傾げたが、
(一体、空に何が……?)
と、再びそう疑問に思った水音もヴィンセントと同じ方向の空を見上げると、
「……って、何だあれ!? 何か来る!?」
と、その視線の先にあるものを見て、水音は大きく目を見開きながら驚いた。
それを聞いて、他の勇者達も一斉にその方向を見ると、
「え!? な、何あれ!?」
「あ、あれって……」
『船ぇ!?』
と、勇者達も水音と同じように目を大きく見開きながら驚いた。
そう、それは、一隻の「船」だった。
しかし、ただの「船」ではない。
見た目は中世の帆船に見えるが、船体の左右には大きな翼のようなものが2枚ずつ付いていた、それが空に浮かんで……いや、王城前に向かってきているので、それは最早、空を飛んでいると言ってもいいだろう。
まぁとにかく、その翼を持った空飛ぶ帆船を見て、
「あ、あの、ヴィンセント皇帝陛下! あれは一体何なのですか!?」
と、大きく目を見開いた爽子がヴィンセントに向かってそう尋ねると、
「はっはっは! とくと見よ勇者諸君! あれこそが、我がストロザイア帝国の技術をもって造られた、名付けて『魔導飛空船』だ!」
と、ヴィンセントは豪快に笑いながら、その空飛ぶ船をそう呼んだ。
暫くすると、その空飛ぶ船……否、「魔導飛空船」は、ゆっくりと水音達の前に降りた。
「で、でかい……!」
と、水音がそう声をもらしたように、最初は遠くから見ただけでわからなかったが、船自体はかなりの大きさだったので、それが水音達を更に驚かせた。
すると、水音達の前で船に付いている扉が開かれ、中から階段が現れた。
それを見て、水音ら勇者達が「な、何だ何だ!?」と驚いていると、船の中から1人の青年が現れた。
何処かヴィンセントによく似た雰囲気を持つ、見たところ20代前半くらいのその青年の姿に、
(だ、誰だろう?)
と、水音ら勇者達が首を傾げていると、
「お迎えにあがりました、父上、エレン」
と、青年がヴィンセントとエレクトラに向かってそう口を開いたので、
『……え?』
と、勇者達が一斉に首を傾げると、
「おお、レオン! お前が来てくれたか!」
「兄様!」
と、ヴィンセントとエレクトラはパァッと表情を明るくした。
更に、
「久しぶりだな、レオナルド殿」
と、ウィルフレッドも青年に向かってそう挨拶したので、
「お久しぶりです、ウィルフレッド陛下。お元気そうで、何よりです」
と、青年はウィルフレッドに向かって深々とお辞儀しながらそう挨拶を返した。
さて、目の前起きてることに、
『な、何事?』
と、水音ら勇者達がポカンとしていると、
「ん? おお、そうだ忘れてた!」
と、ヴィンセントはハッとなると、
「紹介しよう勇者諸君。俺の息子にしてエレクトラの兄の、ストロザイア帝国皇子のレオナルド、通称レオンだ」
と、水音ら勇者達に、その青年を紹介し、
「そしてレオン。彼らこそ、ルーセンティア王国が異世界より召喚した勇者達だ」
と、その後、青年ーーレオナルドに、水音ら勇者達を紹介した。
それを聞いて、
「ああ、そうでしたか」
と、レオナルドがそう口を開くと、
「はじめまして、勇者様方。今、父であるヴィンセント皇帝陛下が紹介したように、私はストロザイア帝国皇子の、レオナルド・ヴァル・ストロザイアと申します。以後、よろしくお願いします」
と、水音ら勇者達に向かって丁寧な口調でそう自己紹介したので、
『あ、ど、どうも、勇者です……』
と、勇者達は緊張した様子でそう返事した。
ヴィンセントはそれを見て、「はっはっは……」と笑うと、すぐに真面目な表情になって、
「さて、レオナルド。来て早々にちょっと済まないが、こちらの勇者達の中から6人、俺達と共にストロザイア帝国に行くことになったんで、乗せてほしいんだ」
と、レオナルドに向かってそうお願いしたので、それを聞いたレオナルドは、
「なんと! それは母上がさぞ喜ぶことでしょう!」
と、パァッと表情を明るくすると、
「兄様、それじゃあ……!」
と、エレクトラがそう口を開いたので、
「ああ、勿論構わないよ、エレン」
と、レオナルドはニコッとしながらそう答え、それを聞いたエレクトラは「やった!」とガッツポーズした。
そんなヴィンセント達を見て、
(あ、話がついたのかな?)
と、水音が首を傾げていると、
「おーい、それじゃあ行こうぜぇ!」
と、ヴィンセントがそう言いながら手招きしてきたので、
「じゃ、じゃあ、行こうか」
と、水音がそう口を開くと、
「「「「「う、うん!」」」」」
と、進、耕、祭、絆、祈の5人はコクリとそう頷きながら返事した。
そしてその後、
「「「「「「先生、みんな、行ってきます!」」」」」」
と、水音ら6人が爽子と残りのクラスメイト達に向かってそう言うと、
「みんな、気をつけて」
『行ってらっしゃい!』
と、爽子達も水音達に向かってそう言った。
ところが、水音達がヴィンセントに誘われるように魔導飛空船内に入ろうとすると、
「お待ちなされぇえええええええ!」
という叫び声がしたので、
『な、何だ何だ!?』
と、全員、一斉に声がした方へと振り向くと、
「あ、ジェフリー教主」
「げげ!」
そこには、必死な形相をしながらこちらに向かって走ってくる、五神教会教主ジェフリーがいた。
その姿を見て、
「あ、しまった、ジェフリー教主に今日のこと話してなかった」
と、ウィルフレッドが今思い出したかのようにそう言ったので、
「何ぃ!? ウィルフゥ! テメェ!」
と、ヴィンセントが掴み掛かろうとしたが、
「父上、今はそれどころではありません!」
と、レオナルドに止められてしまったので、
「ちぃ! 仕方ねぇ、すぐに出発するぞ!」
と、ヴィンセントはそう言って、大急ぎで水音達を船内に入れ、扉を閉めた。
そして、無事、全員が船内にいるのを確認すると、
「よっしゃあ! それじゃあ、ストロザイア帝国に出発だぁ!」
と、ヴィンセントは船を動かす船員達に向かってそう命令し、
『は! 皇帝陛下!』
と、船員達もその命令に従った。
その後、船員達が各々の持ち場につくと、
『魔導飛空船、発進!』
と、そう叫びながら魔導飛空船を発進させた。
すると、魔導飛空船はゆっくりと空へと浮かび上がり、
「ああ、お待ちくだされぇえええええ! 戻ってきてくだされぇえええええ!」
と、悲鳴をあげたジェフリーを無視して、目的地であるストロザイア帝国へと飛び立った。
そんな魔導飛空船の船内では、
「ほ、本当に、空を飛んでる……」
と、船についている窓の外を見た祈がそう口を開き、
「う、うん。そうだね……」
と、水音もそう言うと、
(そうだ。そして、これが僕の……いや、僕達の、新しい『始まり』なんだ)
と、窓の外に映った、最早小さくなっていった王都を見つめながら、心の中でそう呟いた。
そして一方、この世界の本当の神であるヘリアテスが暮らすログハウスでは、
「それではヘリアテス様、短い間でしたが、お世話になりました」
「ええ。気をつけて、行ってらっしゃい」
全ての準備を終えて、
「では、行ってきます!」
今、春風も出発しようとしていた。
本日はもう1本あります。




