第107話 色々と、決まった
「私も、一緒に行きます!」
と、「はい!」と勢いよくビシッと手を上げながらそう言った祈。
そんな祈の言葉に、周囲はポカンとなったが、
「……え!? ちょっと待って時雨さん! それ、本気で言ってるの!?」
と、ハッと我に返った水音が、祈に向かってそう尋ねたので、それに祈は「ヒッ!」と小さく悲鳴をあげた。
それを聞いて、
「あ、ご、ごめんなさい時雨さん」
と、再びハッとなった水音はそう謝罪すると、
「え、えっと、時雨さん。もう一度聞きますけど、『僕と一緒に行く』って、本気ですか?」
と、祈に向かって今度は恐る恐るではあるが落ち着いた口調で再びそう尋ねた。
その質問を聞いて、祈はゆっくりと深呼吸すると、
「は、はい。わ、私の勘ですけど……多分、桜庭君、凄く危ない目に遭うと思うから……」
と、コクリと頷きながら返事したので、
「え? それって、どういう……?」
と、水音が首を傾げながらそう尋ねようとしたが、それよりも早く、
「お、嬉しいねぇお嬢ちゃん。でも、お前さんも戦えるのか? まぁ、『勇者』の1人だから大丈夫とは思うけどよぉ……」
と、ヴィンセントがそう尋ねてきたので、それに祈は「あ……」と声をもらして自信なさそうに顔をしたにむけたが、すぐにゆっくりと顔をあげると、
「……ステータス、オープン」
と、自身の「ステータスウィンドウ」を出現させて、そこから更にとある項目を出すと、
「その……これ、私の職能です」
と、そう言って、周囲にそれを見せた。
職能:大司祭
その職能名を見て、
「なんと! 其方も最上位の職能を持っておったのか!?」
と、ウィルフレッドが大きく目を見開きながらそう尋ねてきたので、それに祈が「ヒッ!」と再び悲鳴をあげると、
「は、はい。あと、『水の女神アムニス』と、『光の神ラディウス』の加護も、持ってます。だ、黙ってて、す、すみません、ウィルフレッド陛下……」
と、怯えながらそう謝罪したので、
「は! こ、こちらこそすまない」
と、ウィルフレッドも「しまった!」と言わんばかりにそう謝罪した。
2人の謝罪を聞いて、
「おお、流石は『勇者』ってところか」
と、ヴィンセントはそう感心すると、
「で、水音は何の職能を持ってんだ?」
と、チラッと水音を見ながらそう尋ねたので、
「あ、はい。『神聖戦士』です」
と、水音はヴィンセントに向かってそう答えた。
その答えを聞いて、
「おお! ということは、うちは2人の最上位職能を持つ『勇者』を招いたってところか!」
と、ヴィンセントが「がっはっは!」と豪快に笑っていると、
「「ちょーっと待ってください!」」
という2人の少女の声がしたので、それにヴィンセントだけでなく水音や祈達までもが「ん?」と声がした方へと振り向くと、
「あ、マーちゃんに、キーちゃん?」
「出雲さんに晴山さん?」
そこには、祈と同じように「はい!」と手をあげた、彼女の幼馴染みである祭と絆がいた。
そんな彼女達を見て、
「お、もしかしてとは思うけど……」
と、ヴィンセントがそう口を開くと、
「はい! 職能自体は最上位ではありませんが、私達も行きます!」
「ええ! クラスメイトと大事な幼馴染みを守る為に!」
と、祭と絆はヴィンセントに向かってはっきりとそう言った。
すると、
「だったら、俺も行きますよ!」
「ぼ、僕も!」
と、今度は進と耕が「はい!」と手を上げたので、
「え!? 近道君と遠畑君も来てくれるの!?」
と、驚いた水音がそう尋ねると、
「おうよ! 女子が3人も立ち上がったんだ! だったら、俺ら男子だって負けてられねぇし!」
「う、うん! 僕も、桜庭君を助けたいから!」
と、進と耕は力強く頷きながらそう答えたので、
「……ありがとう。2人とも」
と、水音は深々と頭を下げた。
すると、
「……は! そ、そんな、桜庭や時雨だけでなく、出雲や晴山、近道に遠畑まで……!」
と、漸く我に返った爽子が、震えた声でそう口を開いたので、
「先生……」
と、水音もそう口を開くと、
「ごめんなさい先生、みんな。そして、ウィルフレッド陛下。僕は、僕自身の目的の為にストロザイア帝国に行きます。ですが、僕は……いえ、僕達は絶対に、春風と一緒に先生やみんなのところに戻ります。そして、全員で日本に帰ります」
と、爽子とクラスメイト達、そしてウィルフレッドを見ながらそう言い、
「だから、僕達を行かせてください」
と、最後にそう付け加えると、再び深々と頭を下げた。勿論、水音に続くように「一緒に行く」と言った祈達も深々と頭を下げた。
そんな彼らを見て、爽子は「う……」と泣きそうになったが、
「……わかった。気をつけて、いってらっしゃい」
と、水音達に向かってそう言った後、
「ヴィンセント陛下、桜庭達を……私の大切な生徒達を、よろしくお願いします」
と、次にヴィンセントに向かってそう言ったので、
「おう。任せな」
と、ヴィンセントも真剣な表情でそう返事した。
それを見て、ウィルフレッドは複雑そうな表情を浮かべたが、すぐに首を横に振って気持ちを切り替えると、
「さて、そちらの方が決まったところで、残った問題は春風殿の行方になるが……」
と、周囲を見回しながらそう口を開いたので、それに誰もが「あ……」と声をもらすと、
「そうだなぁ。現段階だと、手掛かりっつうか、鍵を握ってるのは『レナ・ヒューズ』ってハンターの女の子のみだからなぁ」
と、それを聞いたヴィンセントは天井を仰ぎ見ながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「確か、『中立都市フロントラルでハンターになった』って話でしたよね?」
と、水音がそう尋ねてきたので、
「ああ。でもって、今もフロントラルでハンターとして活動してるそうだが、こればかりはアーデと話し合って情報を仕入れるしかねぇな」
と、ヴィンセントが「ふぅ」とひと息入れながらそう答えると、
「ん? 『アーデ』って……?」
と、今度は爽子がそう尋ねてきたので、
「私の姉、ストロザイア帝国第1皇女の、アデレード・ニコラ・ストロザイアだ」
と、ヴィンセントではなくエレクトラがそう答えた。
その答えを聞いて、
「あ、そういえば皇族全員ハンターをやってるんでしたよね?」
と、水音が再びそう尋ねてきたので、
「ああ。アーデ姉様は今もフロントラルでハンターとして活動している」
と、エレクトラはコクリと頷きながらそう答えた。
その後、
「んじゃ、雪村春風の方は、アーデから何か情報が入り次第、行動開始ってことでいいな?」
と、ヴィンセントが周囲を見回しながらそう尋ねたので、
「ああ、その方がいいだろう」
と、ウィルフレッドがコクリと頷きながらそう言い、それに続くように、水音達も無言でコクリ頷くと、
「なら、この話はここで一旦お終いだな」
と、ヴィンセントは「オーケーオーケー」と言わんばかりに手を振りながらそう言った。




