第10話 そして、契約へ
「「ちょっと待てい!」」
そう言って、アマテラスの肩をガシッと掴んだゼウスとオーディン。
そんな彼らに対して、
「……何? ゼウスにオーディン」
と、アマテラスが今にも「ちっ!」と舌打ちしそうな表情でそう尋ねると、
「アマテラス。お前、何しれっと契約に入ろうとしてんだ?」
「そうですよ。何を勝手なことをしてるのですか?」
と、ゼウスとオーディンは何やら尋常じゃないくらいのプレッシャーを放ちながらそう尋ね返した。その際、春風は彼らの背後に「ゴゴゴ……」と交換音らしきものが見えた気がしたが、神々の放つプレッシャーにビビりまくって何も質問することが出来ないでいた。
そんな状態の春風を無視して、
「いやいやいや。だって、春風君『日本人』なんだよ? そして、今は地球の危機なんだよ? だったら、日本の主神であるこの私が彼と契約するのは当然じゃないの?」
と、アマテラスが「何言ってんの?」と言わんばかりの表情でそう言うと、
「ふざけんな! 地球の危機なら俺だって春風と契約する権利あるわ!」
「それは僕も同じですよ。それと、春風君をここに運んだ際に少し調べたんですが、どうも僕、彼との相性は抜群のようなんですよ。ならば、ここは僕に契約させてくれませんか? きっと素晴らしい奇跡を起こせるかもしれませんよ?」
と、ゼウスとオーディンも「お前こそ何言ってんだ?」と言わんばかりの表情でそう言い返した。ただ、オーディンの口から発せられた不穏な言葉を聞いた春風は、
(え? 『相性』って何? 『相性』って何ぃ!?)
と、身の危険を感じたのかブルリと体を震わせた。
その後、ますます激しくなる3柱の神々の口論に、春風は「何か言わなきゃ!」と感じたのか、
「あのぉ。ちょっと気になってたんですが、もしかして、神様との契約にも『ルール』とかあるんですか?」
と、ソーッと手を上げながら、恐る恐るアマテラス達に向かってそう尋ねると、アマテラス達はそれに「む!」と反応して、
「ええ、そうよ春風君。『人間』が『神』と契約出来る数は1人につき1柱までなの」
「おうよ。何せ、『神』の力ってのは『人間』にはデカすぎるからな。やり過ぎると肉体だけじゃなく『魂』までもが崩壊しちまうんだ」
「そうそう。そうなってしまったら、幾ら『神』である僕達でも修復は出来ないんだよ」
と、3柱とも真顔でそう答えたので、
(こっわ! 神様との契約こっわ!)
と、春風は再びビビってブルブルと体を震わせた。
しかし、その後も続くアマテラス達の口論に、
(こ、これ、いつまで続くんだ?)
と、春風は別の意味で不安になったのか、
「あ、あのぉ……」
と、声をかけようとした、まさにその時、
『ちょおっと待ったぁあああああああっ!』
と、何処からか大勢の人達による叫び声が聞こえたので、春風だけでなくアマテラス達までもが、
『な、何者!?』
と、一斉に辺りをキョロキョロすると、スーッという音と共に大勢の人と、「人」の形をしてるが、明らかに「人」ではない者達が現れた。
全員、服装こそ色違いはあるがアマテラス、ゼウス、オーディンと同じワイシャツとジーンズ姿をしてはいるが、アマテラス達と同じような20代前半くらいの男女もいれば、幼い子供からお年寄りもいて、更には犬顔、猫顔、そして異形の顔をした者達もいた。因みに、全員裸足である。
春風はそんな彼らを見ながら、
「あのぉ、アマテラス様。まさかとは思いますが、この方達も……?」
と、アマテラスに向かって恐る恐るそう尋ねると、
「ええ、そうよ春風君。みんな、私達と同じ『地球の神々』よ」
と、アマテラスも目の前にいる者達を見ながらそう答えたので、
(も、もしかして、皆さんアマテラス様達を止めにきたのかな!?)
と、春風はパァッと表情を明るくしながらそう期待したが、
「彼と契約するのは私だ!」
と、現れた者達……否、新たな地球の神々の1柱が、ビシッと春風を指差しながらそう言ったので、
「……へ?」
と、春風は間の抜けた声を出しながら首を傾げていると、
「いいや、この僕だ!」
「ちげーよ! この俺様だ!」
「儂じゃよ! 儂ぃ!」
「いいえ、私よぉ!」
「彼はあたしと契約するの!」
「わ、私ですぅ!」
「何言ってんだい! あたしと契約するんだよ!」
と、全員口々に、「自分が春風と契約する!」と言い出したので、
「ずこぉおおおおお!」
と、春風はそう叫びながら、思いっきりその場にずっこけた。
(お、おいおい。何だよこの状況は?)
と、春風は心の中でそう呟いたが、その後も神々の口論は止まるどころか、新たな「地球の神々」が加わったことでますますヒートアップしてきたので、
(ていうか、みんな地球の危機だっていうのに何やってんだよ!)
と、春風は「怒り」を込めて再び心の中でそう呟いた。
そして、とうとう我慢の限界が来たのか、春風はゆっくりと立ち上がると、
「あーもう! だったら、じゃんけんで決めたらいいじゃないですかぁ!」
と、目の前にいる「地球の神々」に向かってそう怒声を浴びせた。
その瞬間、
『え?』
と、それまで激しく口論していた神々がピタッと静かになったので、
「……あ」
(あああああ、しまったぁあああああ! 俺は何ということをぉおおおおお!)
と、春風は心の中でそう絶叫した。何故なら、冷静になったことで自身が恐ろしくふざけたことを口走ってしまったのを理解したからだ。
それからすぐに、
「す、す、すみません! 今のはなし! なしということで……!」
と、春風は大慌てで謝罪したが、
「どうやら、それで決着つけるしかないようね」
「みてぇだな」
「ええ、そうと決まれば早速やりましょう」
「くっくっく、腕がなるぜぇ」
「絶対に勝ってやる!」
と、神々は全員やる気に満ち溢れ出したので、
「だぁあああああ! やめてぇえええええ! やめてくださいいいいい!」
と、春風は大急ぎで神々を止めようとしたが、
『じゃーん、けーん……!』
と、1歩遅かったようで、
『ぽん!』
神々はそれぞれ「グー」、「チョキ」、「パー」のどれかを一斉に出した。
その結果……1柱だけ「グー」を出して、残りは全員「チョキ」を出した。
勝ったのは……オーディンだった。
「よっしゃあああああ!」
と、ただ1柱、「グー」を出したオーディンは勝利した嬉しさで力一杯そう叫び、「チョキ」を出した残りの神々はというと、
『ちぃくしょおおおおおおおう!』
全員、悔しそうに真っ白な地面をドンドンと叩きながらそう叫んだ。よく見ると、目から血の涙を流している神様もいたので、それを見た春風は、
(うわぁ、どんだけ悔しかったんだよ皆さん)
と、若干ドン引きした後、ゆっくりと深呼吸して、
「すみませんでしたぁあああああ!」
と、春風は神々に向かって、叫ぶようにそう謝罪した。