第101話 ヴィンセントからの「お誘い」
「お前さん……ストロザイア帝国に来る気ないかい?」
『は、はいいいいいいい!?』
ヴィンセントの言葉に、水音達は驚きに満ちた叫びをあげた。
その叫びのすぐ後、
「おいおい、そんなに驚くことねぇだろ?」
と、ヴィンセントが「むぅ」と頬を膨らませながらそう言うと、
「は! す、すみません、いきなりのことでしたので、驚いてしまって……」
と、ハッと我に返った水音は顔を真っ赤にしながらそう謝罪すると、気持ちを切り替えようとして「コホン」と咳き込んで、
「その、ヴィンセント皇帝陛下。今のセリフはどういう意味で言ったのでしょうか?」
と、真面目な表情で先程のヴィンセントの言葉について尋ねた。
すると、ヴィンセントも「うむ」と真面目な表情になって、
「水音。ちょいと質問というか確認をしたいが、お前さんは近い将来、雪村春風に勝負を挑むんだろう?」
と、水音に向かってそう尋ね返したので、その質問に水音は「それは……」と答えるのを躊躇うかのような表情になったが、やがて意を決したかのように、
「……はい。春風を助けるにしろ、止めるにしろ、僕は一度、彼と戦わねばなりません」
と、真っ直ぐヴィンセントを見てそう答えた。
その答えに対して、周囲から「あ……」と声があがる中、
「そうだな。だが、話を聞いてみた限りじゃあ……そいつ、結構強いだろ?」
と、ヴィンセントがそう尋ねると、水音は「うっ!」と呻いた後、
「……そうですね。僕もですが、春風も地球ではかなりの修羅場を潜ってましたし、凛咲師匠仕込みの『技術』も僕より高いですから……」
と、暗い表情でそう答えたので、その答えにヴィンセントが「ほぅ……」と声をもらすと、
「ちょいと気になってんだけどよぉ、お前さんと雪村春風は、その『師匠』から何を教わってきたんだ?」
と、水音に向かって更にそう尋ねた。
その質問に対して、水音は「ああ、それは……」と呟くと、
「先程も話しましたように、師匠は『冒険家』を務めてまして、主に『冒険』に関する『知識』と『心構え』、それと、自分の身を守る手段として、基本的な武術と、4種類の戦闘スタイルを教わってました」
と、答えたので、
「へぇ、4種類も! 一体そりゃあどういうものなんだい?」
と、ヴィンセントはまた更にそう尋ねた。よく見ると、その瞳はすごくキラキラしていたので、それを見た水音は「うぅ」と1歩後ろに下がった後、
「えっと……わかりやすく言いますと、動き回って敵を翻弄しながら攻める『風の型』、敵の攻撃を見極めて反撃に繋げる『林の型』、怒涛の連続攻撃で圧倒する『火の型』、そして最後に、強烈な一撃を相手に叩き込む『山の型』……というものです」
と、自身が春風と共に凛咲から教わった技術についてそう説明した。
その説明に周囲から「おぉ!」と声があがる中、
「なるほどな。するってぇと、エレクトラとの戦いの時に使ったのは、その内の2つという訳だな? で、雪村春風はその4種類の戦闘スタイルをかなり使いこなしている……といったところか?」
と、ヴィンセントがまた更にそう尋ねてきたので、それに水音はコクリと頷いた。
その後、ヴィンセントは「うーん」と考え込む仕草をすると、
「なぁ、水音。お前さんと雪村春風が『師匠』から教わったものって他にはないかい?」
と、水音に向かってまたまた更にそう尋ねてきたので、
「そうですね。今の所、僕と春風が師匠に教わったものはそれだけです」
と、水音は少し苦笑いしながらそう答えると。
「なるほどなぁ。じゃあ、質問を変えるが、お前さんが雪村春風に勝てそうな要素的なものがあったら教えてほしいな」
と、ヴィンセントがまたまた更にそう言ってきたので、その質問に水音は「え?」と首を傾げていると、
「勝てそうな要素ですか? それでしたら、自分で言うのもなんですが、『体力』に自身がある……くらいですね」
と、水音は「あはは」と苦笑いしながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「うん? 『体力』って、お前さん、『鬼宿しの一族』の力はどうしたんだ?」
と、ヴィンセントが首を傾げながらそう尋ねてきたので、それに水音が「あ……」と何処か悲しそうな表情を浮かべて、
「その……僕の『鬼の力』は、今、この世界の神々によって『封印』されている状態なんです」
と、答えた。
その答えを聞いて、
「な、何だと!? それは、真の話なのか!?」
と、今度はウィルフレッドが大きく目を見開きながらそう尋ねてきたので、それに水音が「ええ」とコクリと頷くと、
「僕の中に宿った水の女神アムニスの『加護』。これが、僕の『鬼の力』を封じ込めているんです。それでもある程度は力を引き出せるのですが、それ以上出そうとすると封印が働くようで……」
と、暗い表情のままそう答えた。その答えに「な、なんと……」とウィルフレッドがショック受け、
「なるほどな。さしずめ、水音の力を危険視した5柱の神々が、自分達に牙を向けないように力を封じたってところだろうな」
と、ヴィンセントが納得の表情を浮かべていると、水音は「ええ、恐らくそうでしょう」と返事した後、
「ですから、『鬼の力』が頼れない以上、僕に残されたのは『体力』だけになるのです」
と、まだ暗い表情でそう答えた。
その答えにヴィンセントが「そうか……」と呟くと、
「なぁ、本当に使えそうなものってそれだけなのか? 他にも何かあるだろう?」
と、ちょっと無茶な感じの質問をしてきたので、それに水音が「え、えぇ?」と引いていると、
「……なぁ、桜庭。俺からも質問していいか?」
という声があがったので、水音は思わず「え?」と返事しながらその声がした方へと振り向くと、
「な、何、力石君?」
そこには、「はい」と手を上げた煌良がいた。




