第100話 水音の「答え」
お待たせしました、第100話目です。
「なぁ、水音」
「は、はい、何ですか?」
「今までの話を聞いて、お前さんはどうしたいんだ?」
と、水音に向かってそう尋ねたヴィンセント。
その質問に対して、
「それは……どのような意味でしょうか?」
と、水音がそう尋ね返すと、
「言葉の通りだ。これまでの話を聞いて、『雪村春風』はかなり特殊な立ち位置にいるってことはわかった。そんな奴に対して、お前さんはどうしたいんだ?」
と、ヴィンセントは更にそう尋ね返した。
水音ヴィンセントの質問の応酬に、ウィルフレッドマーガレット、そして、爽子ら勇者達がゴクリと唾を飲む中、水音はというと、
「それは……」
と、ヴィンセントの質問に対してそう呟きながら顔を下に向けたが、すぐにゆっくりと顔を上げて、
「正直申しますと、春風のことに関しては、わからないことが多すぎます」
と、真っ直ぐヴィンセントを見つめながらそう答えた。
その答えを聞いて、ヴィンセントが「ま、そうだろうな」と呟くと、
「ですが……」
と、水音が続けるようにそう口を開いたので、それに周囲が「ん?」と反応すると、
「少なくとも僕が知ってる『雪村春風』という人物は、可愛い女の子みたいな顔して、実は結構腹が黒くて……」
『あ、うん。それは、話を聞いて理解出来た』
「目的の為なら平気で無茶するか、かなりエゲツない真似とかして……」
『うん、それも理解出来た』
「『駄目!』って言ってるのに悪党と普通に仲良くなったりなんかして……」
『う、うーん……?』
「異性方面でも、海神さんと天上さんに関しては、学校がない日は普通に3人で遊びに行ったりしてましたし……」
『何ぃ!?』
「「いやん!」」
「それだけでも許せないのに、春風あんな顔付きしてるから、側から見たら『両手に花』の状態じゃなくて、『仲のいい3人娘』みたいにしか見えないし……!」
『な、なんて羨ま……いや、けしからん!』
「師匠に関しては、いつもベタベタというか、思いっきりセクハラされてるくせに……!」
「え、待って桜庭君! それ、雪村君がされる側なの!?」
「そうだよ! 師匠がする側で、春風がされる側だよ!」
『キャアアアアア!』
『な、なんて羨ま……いや、けしからん!』
「でもぉ!」
『ん?』
「なんか春風、される側の割には全然師匠に注意しないし、寧ろ満更でもなさそうだし!」
『なぁにぃいいいいい!?』
『えええええっ!?』
「ていうかここまで話しましたけど……春風、普通にハーレムっぽい状況になってるのに……!」
『え?』
「なんかもう1人増えそうになってますし!」
『えええええええっ!?』
『だ、誰!?』
「先程話した、ギャンブル勝負をした裏社会のとある組織のボス!」
「おい待て桜庭! まさかとは思うが……その人、女性なのか!?」
「ええ、そうですよ先生! それも男装の麗人で、師匠と同い年です! あと、なんか師匠と因縁があるみたいな感じでしたけど、結局教えてくれませんでした!」
『なぁにぃいいいいい!?』
『キャアアアアア!』
「しかも、春風自身も最初はちょっと迷惑そうにしてましたけど、何度も会っていくうちに『あれ? なんかいい感じになってない?』みたいなことになってますし!」
『な、な、なぁにぃいいいいい!?』
『キャアアアアアアア!』
「もう、フーちゃんったら……」
「まったく……」
「それとおまけに……!」
と、こんな感じで水音は自身が知ってる「雪村春風」という人物について色んなことを暴露していった。
ただ、言葉の節々に何やら「黒い感情」のようなものが込められているような感じがしたが……。
まぁそれはさておき、
「ぜぇ……はぁ……」
ひと通り暴露(?)し終えたのか、疲れたように肩で息をする水音に対して、
『……』
ヴィンセントをはじめとした周囲の人達は、皆、春風の知られざる一面を聞いて呆然としていた。
特に一部の女子は顔を真っ赤にしていて、反対に一部の男子は何やら「ぐぬぬ……」と言わんばかりに悔しさを滲ませたような表情をしていた。
そんな彼らを前に、水音は漸く落ち着いたのかゆっくりと深呼吸すると、
「……と、『雪村春風』に関することは以上です。かなり無茶苦茶な奴ですが……」
と、真っ直ぐヴィンセントを見てそう言い、
「それでも、自分以外の誰かの幸せの為に一生懸命になれる、そんな『いい奴』なんです。もし、そんな彼が、何か困ってることに巻き込まれてたら、僕は彼を助けたいですし、反対に、何か悪いことをしようとするなら、僕は全力で止めたいです……」
と、そう付け加えたが、水音はすぐに「いいえ」と首を左右に振ると、
「全力で助けますし、全力で止めます! その両方を成す為にも、僕は、今以上に強くなりたいです!」
と、更にそう付け加えた。
そんな水音の、「強い意志」に満ちた答えを聞いて、
「さ、桜庭……」
「桜庭君……」
と、爽子や一部のクラスメイト達がジーンと感動していると、
「……へぇ、いいじゃねぇか」
と、ヴィンセントはニヤリとしながらそう言い、そんなヴィンセントに向かって
「お、おい、ヴィンス?」
と、ウィルフレッドが恐る恐る声をかけたが、ヴィンセントはそれを無視して、
「なぁ、桜庭水音……」
と、水音に向かってそう声をかけたので、それに水音が
「な、何ですか?」
と、警戒しながらそう返事すると、
「その決意、本気ってこといいんだよな?」
と、ヴィンセントは真剣な表情でそう尋ねた。
その質問に対して、周囲が「え? え?」と困惑し出す中、
「はい、勿論本気です!」
と、水音もヴィンセントと同じように真剣な表情でそう答えると、
「はは、そうかいそうかい!」
と、ヴィンセントは笑いながらそう言った。
その様子を見て、周囲が更に困惑していると、
「おい、桜庭水音」
「は、はい、何でしょうか?」
「お前さん……ストロザイア帝国に来る気ないかい?」
と、ヴィンセントは再び水音に向かってそう尋ねた。
そして、その質問に対して、
『は、はいいいいいいい!?』
と、水音だけでなく爽子やクラスメイト達も、驚きに満ちた叫びをあげた。




