第96話 「雪村春風」について・5
「僕達『勇者』と春風の故郷、『地球』の神々です」
と、ウィルフレッドとヴィンセントに向かってそう言った水音。
そんな彼の言葉に、
「……冗談を言ってる訳じゃねぇんだな?」
と、ヴィンセントがそう尋ねると、
「はい、僕はそう思ってます」
と、水音はコクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「其方、何か根拠があるのか?」
と、今度はウィルフレッドがそう尋ねると、
「まだ凛咲師匠の弟子になって間もない頃、春風に『神様って信じてる?』と尋ねたんです。そしたら……」
ーーうーん、どうだろう。あんまりそういうのって考えたことないんだよなぁ。
「と、かなり微妙な表情でそう答えたんです」
と、そう説明した水音に、周囲から「えぇ?」と声があがったが、それを無視して、
「ですが……」
と、水音は話を続ける。
「僕達がこの世界に召喚された日……そう、春風が騎士を相手に暴れたあの日、『神々の怒りを買うとは思わないのか!?』と激昂したジェフリー教主に対して、春風はこう言いました」
ーー生憎だけど……俺が信じてる神様は、俺と勇者達の故郷『地球』の神々だけだ!
「その言葉を聞いた時、僕は不覚にもジーンと感動しましたが、同時に『あれ?』と違和感を感じたのです」
と、そう話した水音の言葉に、
「なるほど。確かに妙だな」
と、ヴィンセントが真面目な表情でそう呟き、
「うむ。そうだな」
と、ウィルフレッドもそう呟くと、
「あの、どういうことでしょうか?」
と、爽子が「はい」と手を上げながら恐る恐るそう尋ねてきたので、
「それまで『神を信じてるか?』という問いに対して微妙な表情をしていた春風殿が、あの日、はっきりと『自分は故郷の神々を信じてる』と言ったのだ。それはつまり、彼がその発言をするに至ったのには何か『理由』があるということになる」
と、ウィルフレッドは爽子に向かってそう答えた。
その答えを聞いて、爽子だけでなくクラスメイト達までもが「あ……」と声をもらすと、
「そうだ。で、その『理由』なんだが、一番有力なのは、『本当に神様に出会ったから』だと俺は思ってる」
と、今度はヴィンセントがそう口を開いたが、
「ただ……」
「ただ?」
「そいつが『いつ』『何処で』『どんな形で』神様に出会ったかがわからねぇ。それさえわかれば何か掴めるんじゃねぇのかとは思ってるけどよぉ……」
と、ヴィンセントはそう言うと、最後に「はああ……」と深い溜め息を吐いたので、
(それも……そうだよなぁ)
と、水音もそう思った、まさにその時、
「あ! もしかして!」
と、それまで黙って話を聞いていた耕が、何かに気付いたかのようにハッとなったので、
「お、おい、なんだよ耕……?」
と、隣にいた進がそう尋ねると、耕は「あ、ごめん」と謝罪して、
「えっと、覚えてるかな? 雪村君が『自分は巻き込まれた者だ』って言って、ウィルフレッド陛下から『どういうことだ!?』って問われた時のこと」
と、進だけでなく爽子や他のクラスメイト達に向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、
(あ、そういえば……)
と、水音はその時のことを思い出そうとすると、
「……確かあの時、雪村は『教室のカーテンにしがみついて勇者召喚に抵抗してた』って言ってたな」
と、同じくそれまで黙って話を聞いていた煌良がそう言ったので、
「あ、ああ、そうだったな……」
と、爽子もそう口を開くと、「ん?」と首を傾げて、
「ちょっと待て! まさかその時に!?」
と、驚きに満ちた声をあげた。
その言葉を聞いて、
「なるほどなぁ、そのタイミングで雪村春風は『地球の神々』に出会ったという訳か」
と、ヴィンセントは納得の表情を浮かべたが、
「だが、そうなるとここで新たな疑問が浮かぶな」
と、表情を変えてそう言ったので、それに周囲が「え?」となると、
「もしそこで春風殿が『地球の神々』に出会ったなら、彼は何故この世界に来たのだろうか?」
と、ウィルフレッドがそう疑問を口にしたので、それに爽子ら勇者達は「あ……」と声をもらした。
そんな中、
(確かにそうだよな。もし春風が『地球の神々』に出会ったなら、そのまま向こうに残ることだって出来た筈。なのに、どうして春風はこの世界に来たんだ?)
と、水音もそう疑問に思っていると、
「あ、あの!」
という声が聞こえたので、それに水音が「ん?」と反応すると、そこには恐る恐るといった感じで手を上げた純輝がいたので、
「ど、どうしたんだ正中?」
と、爽子が純輝に向かってそう尋ねると、
「その……ウィルフレッド陛下。あの日、雪村君が出した質問の内容を覚えてますか?」
と、純輝はウィルフレッドに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ウィルフレッドが「む?」と反応すると、
「確か、『誰が勇者召喚を行ったか?』と『召喚を行ったクラリッサは何の職能を宿しているのか?』『召喚は神々と協力して行ったのか?』『召喚は1人で行ったのか?』『召喚を行った時に何を対価にしたのか?』『5柱の神々は勇者召喚を行うのを認めているか?』そして最後に『他の世界の神々から許可をもらったのか聞いてないのか?』だったな?」
と、春風が出した質問についてそう尋ねてきたので、
「は、はい、その通りです」
と、純輝は緊張で表情を強張らせつつも、コクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「おいおい、それが何だっていうんだ?」
と、ヴィンセントが純輝に向かってそう尋ねると、
「そ、その……もしかしたらなんですけど、あの日雪村君が出したその質問、実は『地球の神々』からのものだったんじゃないかなって……」
と、純輝は自信なさそうな表情を浮かべながらそう答えたので、その答えに周囲が「え?」と首を傾げていると、
「え、えっと、最後の『他の世界の神々から許可をもらったか聞いてないのか?』という質問ですけど、その時ウィルフレッド陛下は『何も聞いてない』っと仰いましたよね?」
と、純輝はウィルフレッドに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、
「う、うむ。確かにそのようなものは聞いてないが……」
と、ウィルフレッドがそう答えると、
「……おい。お前さんの名前は?」
と、ヴィンセントが純輝に向かって鋭い視線を向けながらそう尋ねてきたので、
「……純輝です。正中純輝。純輝が名前です」
と、純輝が緊張しながらそう答えると、
「なぁ、純輝。その質問だが、お前さんはこう言いたいのか?」
と、ヴィンセントが鋭い視線を純輝に向けたままそう尋ねてきたので、それに周囲が「え? え?」と戸惑っていると、
「今回ルーセンティア王国が行った『勇者召喚』は、『地球の神々』の許可を得ずに行われたものだ……と?」
と、ヴィンセントが続けてそう尋ねてきたので、その質問を聞いた周囲が『はぁ!?』と声をあげる中、
「……そうです。確証はありませんが、もしかしたら『地球の神々』は、僕達がこの世界に召喚されるのを認めてないのかもしれないんです」
と、純輝は拳をグッと握りしめながらそう答えた。