第9話 「神」との「契約」
「決まってんだろ! お前の体を改造するんだよ!」
と、春風に向かってそう言い放ったゼウス。そんなゼウスの言葉が理解出来なかったのか、
「……へぇ?」
と、春風が首を傾げていると、
「こらあああああああ、ゼウスぅううううう!」
ーーズガン!
「ぐはぁ!」
なんと、怒り顔のアマテラスが、背後からゼウスの脳天に強烈な踵落としをお見舞いしたので、それをくらったゼウスは真っ白な地面に倒れ伏し、それを見た春風も、思わず目を大きく見開いて、
「わぁあああああ! ぜ、ゼウス様ぁあああああ!」
と、悲鳴をあげた。
突然の展開に、春風は顔を真っ青にしてブルブルと全身を震わせながら、
(こ、こ、これが、『神の鉄鎚』という奴ですかぁ!?)
と、心の中でそう呟いていると、
「なに誤解を招くようなこと言ってるの!? 見てご覧なさい! あんたが変なこと言った所為で、春風君怯えてるじゃない!」
と、アマテラスはビシッと春風を指差しながら、動かない状態のゼウスに向かってそう怒鳴っていた。
ただ、そんなアマテラスの傍では、
「いや、彼はあなたの踵落としにビビってるんですよ」
と、オーディンが小声でそうツッコミを入れていたが、本当に小声の為、アマテラスの耳には届いていないようだった。
その後、怒鳴り終わったアマテラスは春風を見て、
「……あ。あら、ごめんなさい」
と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらそう謝罪すると、「コホン」と咳き込んで、
「ごめんね春風君、怖がらせちゃって」
と、真面目な表情で春風に向かって改めてそう謝罪したので、
「い、いえ、気にしないでください!」
と、ハッとなった春風は大慌てでそう言った。
その後、アマテラスは今も気を失ってるゼウスを「てい!」と蹴り飛ばすと、
「春風君、あなたの気持ちと覚悟、しかと聞いたわ。今から『準備』について順を追って説明するから、しっかり聞いてね」
と、穏やかな口調で春風に向かってそう言ったので、
「はい、よろしくお願いします」
と、春風も真剣な表情でそう返事した。
そして、いつまで経っても目を覚さないゼウスを、オーディンがツンツンと指でつついてる中、アマテラスは説明を始める。
「まずはいきなり大事なことなんだけど、通常、『異世界召喚』の対象者になった人は、その世界に召喚される前に体を作り替えなきゃいけないの」
と、そう説明したアマテラスに、
「え、何故ですか!?」
と、春風が尋ねると、
「そりゃあ、別の次元に存在する世界なんだから、その世界の環境に体を適応させなきゃいけないからよ。そうしないと、向こうで変な病気になったり、最悪その世界に降りた途端死ぬことになるかもしれないし、逆に召喚を行った側が召喚した別世界の住人の所為で大量の死者を出すか、その世界そのものが崩壊なんてこともあるからね」
と、アマテラスは真面目な表情でそう答えたので、
(ま、マジで? 怖っ!)
と、春風はタラリと汗を流しながら、心の中でそう呟いた。そんな春風を前に、アマテラスは説明を続ける。
「そうならない為にも、『異世界召喚』の対象となった者はその世界の環境に適した体に作り替えなきゃいけないという訳よ」
と、そう説明したアマテラスに、春風が再びタラリと汗を流しながら、
「そ、そうだったんですか」
と、言うと、
「で、今回の『ルール無視の異世界召喚』なんだけど、普通に召喚が行われてたら、本来その役目は召喚を行った側、つまり『エルードの神々』がやらないといけないことなのに、今はその神々とコンタクトが取れないからね」
と、アマテラスはそう言うと、最後に「はぁ……」とため息を吐いたので、
「え? じゃあ、俺は一体……」
と、春風は自分はどうなってしまうのかアマテラスに尋ねようとすると、
「ああ、安心して。実は、体を作り替える方法がもう1つあるの」
と、アマテラスはキリッとした表情でそう答えた。
その答えを聞いて、春風が「それは一体……?」と尋ねると、
「それは、私達『神』と『契約』を結ぶの」
と、アマテラスそう答えたので、
「け、契約……ですか?」
と、春風はその言葉に対して警戒しながら、尋ねるように返事した。
そんな春風を前に、アマテラスは話を続ける。
「そう。ゼウスが説明したように、私達『神』は基本、『世界』に干渉するのは禁じられてるの。でも、『やっぱり自分も世界を楽しみたい!』って考えてる者もいるからね。だから、特別な試験をクリアした神のみに、自分の『分身』を作って『世界』に送り込む権利が与えられるの。ああ、当然、私とゼウスとオーディンも、その権利を持ってるわ」
と、最後に「ふふん!」と胸を張りながらそう言ったアマテラス。そんな彼女の話を聞いて、
「へ、へぇ、そうなんですか……って、ん?」
と、春風は何かに気付いたかのような表情になると、
「……あの、アマテラス様。まさかとは思いますが、その権利を使って俺をあなた方の『分身』にするってことですか?」
と、恐る恐るアマテラスに向かってそう尋ねた次の瞬間、
「その通りよ春風君!」
と、パァッと表情を明るくしたアマテラスがそう返事して、
「あなたには私達『神』の中から、1柱と『契約』してもらうわ。そして、その『神』の『分身』としてあなたをエルードに送り込む。向こうの神々に頼むことが出来ない以上、もうこれしか方法がないわ」
と、春風に肩をガシッと掴みながらそう説明した。
(お、俺が、『神様』の分身に?)
その説明を聞いて、春風はゴクリと唾を飲むと、
「……あの、アマテラス様」
「何かしら?」
「その契約ですが、それを結ぶにあたって、俺はどのような『代償』を払わされるのでしょうか?」
と、真っ直ぐアマテラスを見ながらそう尋ねた。
その質問を聞いて、アマテラスは思わず「うっ!」と呻いて、その後申し訳なさそうな表情になったが、すぐに真面目な表情になって口を開く。
「春風君」
「はい」
「私達『神』と契約して、『神の分身』になる。それはつまり、あなたも私達と同じ存在になるということなの」
と、アマテラスは春風に向かって真面目な表情でそう言うと、
「まぁ、それでも私達には遠く及ばないけどね」
と、「あはは」と笑いながら、最後にそう付け加えた。
その言葉を聞いて、春風は顔を下に向けると、
「それつまり、『契約』を結ぶということは……俺は人間を辞めることになるっていう意味で、よろしいでしょうか?」
と、その状態のままアマテラスに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、アマテラスは再び「うぐっ!」と呻くと、申し訳なさそうな表情になって、
「そうね。『神の分身』になるっていうのは、結果的にそういうことになってしまうわ。不安にさせたなら、ごめんなさい」
と、春風に向かって深々と頭を下げながらそう謝罪した
すると、春風はゆっくりと顔を上げて、
「大丈夫です、アマテラス様。『エルードに行く』と決めた時点で、俺はもう覚悟は出来てます。ですから、お願いします」
と、真っ直ぐアマテラスを見つめながらそう言ったので、それを聞いたアマテラスも覚悟を決めたかのような表情になって、
「わかったわ春風君。じゃあ、早速私と……」
と、すぐに『契約』に入ろうとした、まさにその時、
「「ちょっと待てい!」」
という声がしたので、それに春風とアマテラスが、
「「ん?」」
と、反応すると、
「……何? ゼウスにオーディン」
そこには何やらプレッシャーのようなものを放つゼウスとオーディンがいた。