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王家の恥  作者: 間野ホチ
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第七話 「ぼく」

Merry Christmas!

幸せに満ちた1日となりますように。

 今日も素晴らしい歌声だった。

 第一側妃殿は自身の歌声を「(つたな)い」と表現するが、あれほど心満たされる音をぼくは他に聴いた事がない。


 けれど彼女は、幼い頃に「神以外にはその歌声を捧げない」と周囲と約束を交わしたらしく、ぼくをのぞいて、人前ではもうずっと歌っていないのだという。

 ぼくは神女を母に持つため、神に連なる身として例外の扱いらしいけれど……人ってつまらないところに(こだわ)る生き物だよなあという感想は、抱いてしまうよね。


 あくまでぼくから見た神霊(みたま)についての「想像」でしかないけれど、そんな些事、頓着などしないと思うんだよなぁ。

 実際、母の子というだけで神ではないぼくが彼女の歌を聴いていても、神罰なんて受けていないし。

 もっとも。神に捧げるといいながらその実その意思がなかったりしたなら、それは知らないけれど。




 ……そう、ぼくは神ではない。

 だから、第一側妃殿の言葉にぼくが何をできるという事はないんだ。




 新貴族派の一部、先日の()()の場にいた子息らの周囲に問題が起こっている。と、第一側妃殿はいっていた。そしてそれは、人の身で成せるものを超えている、と。


 だけど。

 ぼくは確かに人ではないけれど、でもだからといって神でもないんだ。

 家族は皆んな、それを理解していると思っていたけれど。事実は異なっていたらしい。


 だから、彼女の前で思わず呆然としてしまった。


 それを見て、第一側妃殿は誤解をしたらしい。

 ぼくが無意識に力を使ってしまったのだろう、と。先日の彼らの振る舞いだけでなく以前からの様子は確かに目に余っていたのだから気持ちの想像はできるつもりだ、と。そして、しかし領民は哀れなので力を緩めてはもらえないか、と。そう、言葉を続けていた。


 ぼくは神女の子で、そして人の身ではないけれど、やはり人の子として扱われるなんていうのは、望んだとてかなえようもない無理な願いなのだろうか、と打ちのめされる思いがした。

 ぼくは母の子であると同時に父の子でもあるはずだけど、同じ家族にはなれないのだろうか、と。


 そう思う傍らで。

 彼女の事は真摯で、拒もうとも耳をするりと抜けてくるから。考えずにはおれなかった。


 もしかしたら、普通なら人の世の些事など干渉しない母様でも。子であるぼくの気持ちを汲んで御力を振るわれた可能性はあるのかもしれない。ぼくにとって母様が母であるように、母様にとってぼくは子であるはずだから。

 であるならば、ぼくにも責がないとはいえない。




 けれど。




 領民……。

 民とは一人ひとりの人の子の集まりで、自身の力のみでは生きていく事が難しいために集団で生きる事を選択し、その集団の長に自身らの管理を委ねる者達の事だと認識している。

 もちろん他領、他国へその籍を移す権利を有するが、それはだからといって簡単に行使できるというものではない。


 その土地、国で民にとっての問題が発生すれば、大きく分けてふたつの選択肢が人々には与えられる。

 すなわち。土地を離れるか、土地の長を変えるか。


 今回起きたという被害を理由に新貴族派の領地を離れた者がいるのかどうか、ぼくは聞かされてはいない。

 そもそも父や臣からはその被害自体も特に聞かされていない。

 そのため城勤めの者達の間に流れる噂程度でしか耳に入ってきていないのだけれど、各領の長、すなわち新貴族派の者達を挿げ替えるよう声が上がっている土地は特にないはずだ。

 長を変える、という方法はひとつではない。ゆえにその「長」の「意識」を変えるべく動いている最中の土地がないともいえないが。


 どうやら噂によれば「正義を阻もうと企てる者による大規模呪術」により被害を受けているらしい。

 そしてそれを受けて民達は「共に憤っている」と。


 ──教育も(ろく)に受けられず土地に飼われている、というのならば領民が理解できずにいても仕方がないのだろう。

 しかし、平民にも国が教育を与えている。

 ゆえに領地を治める長の言を真に受け国を裏切る民は、自身の判断で国を裏切っているとは言えないのだろうか。

 新貴族派の領民には、反王家を平気で口にする者も増えていたはずだ。




 ……わからない。それでも「民に罪はない」といえるのだろうか。




 国からは公平な教育を与えているはずだ。

 そしてその領民はその教育を受けたうえで、領地の長の弁を真とした。

 その頭で考え、長を変える機会ならば与えられているというのに。


 もちろんそれは「土地を離れる」という選択をする以上に困難な事かもしれない。

 そしてその「土地を離れる」という選択もまた、困難なものである事は想像に(かた)くない。

 けれどだからといって「楽」を選択したならば、その責を負う事も当然なのではないだろうか。

 だって、彼らが自身で選んだんだ。


 第一側妃殿は「民は非力で罪のない存在」だといっていた。

 けれど「無知」という席は国がそもそも用意していないのだ。

 そもそもなぜ、ぼくの大切な家族を傷つけようという存在を、その同類を、神でもないぼくが救えといわれるのだろう。




 そして。

 だけど。


 腹を立てたいのに、第一側妃殿の眼が、声が、離れない。

 父や兄姉達が日々思っている「民」には、その彼らも含まれるのだろう。

 ──ぼくの思いを汲んで母様が御力を振るわれたとして。


 ぼくは、彼らを許さなくてはいけないのだろうか。


最後までお読みいただきありがとうございます!

☆やいいね、ブクマ等をしてくださった方には更なる感謝を。


次の投稿はまた3日置いての予定となります。


よろしくお願いします。

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