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王家の恥  作者: 間野ホチ
3/16

第三話 「ぼく」

 細かな言い回しや字の変更に加えて12月11日(水)に文章を少し追加しました。

---

 またも三日おきではなく三日後の投稿となります。早いに越したことはないんですよ、ええ。

 ですが多分三日後に間に合わないこともあるだろうとは思うので、基本予定としては変わらず三日おきの投稿となります。

 それでは王家の恥、第三話をお楽しみください。

 貴族子息殿達との時間を終え、ぼくは自室への帰還を果たす。

 ああ、はやくお茶に癒されたい……。

 兄がこの間くれたお茶なのだけど、これがとても美味しいんだよね。母様もお気に召されるかも。


 そんな事を考えながら、ぼくは窓の外に目をやった。


 見事なほど晴れ渡った空が、青々とした輝きを見せている。

 さきほどまでずっと、いつ降っても可笑しくない空模様だったのに。






 ぼくの母が貴族ではなく王家の恥である、と告げた兄はいつもの通り、感情も思考も見えない顔をしていた。王族とはいえ十歳という年齢であれほど相手に読ませないというのは、中々ない、のではないだろうか。

 いや。ぼくも、兄が昔から内面が表に出ない(たち)だったとは、聞いている。けれど家族で過ごすときなどは、兄も、とても感情豊かに見える。少なくともぼくには。だからあの仮面でもつけたような兄はあくまでも、王族としての外向きの兄、なんだよね。

 まあ重要なのは、あの子息らがその兄の内面を読めずに食い付いていた、という点だけど。

 ……いや、彼らの場合。読めなかったというよりも、読まなかったというほうが正しいのかな。それこそ、読む、という行為をまだ覚えていない幼子のように、それを試す事さえしなかったのだろう。彼らの様子を思い返すと、ぼくにはそう思える。




 アツィエラ公爵家の子息を筆頭に、今日、兄との()()のために招かれた者達。

 彼らはあの言動から、王家が「外した」家の子供だと分かる。


 であるなら貴族家子息の身にすぎぬ彼らが王宮に来るなど、同じ子息でも側近候補の者達とは比較にもならないほど、機会がなかっただろう。ぼくも、はじめて顔を見たくらいだしね。

 だからかな。皆、だいぶ浮足立っている様子が見えていた。


 だからといって。


 兄のあの言葉は、あきらかに「罠」だ。

 なのに自分たちの武器が投げ込まれたとばかりに飛び付くだなんて、貴族としては失格だろう。

 今までからして一切内面を見せてこなかった「王族」が、そう易々と自分達に都合よく動くなど、あり得ない事なのに。


 それだけ我々王族を軽んじているという事の証左なのかもしれないけれど、対立しようという相手を(はな)から下に見ていては、上手くいくものも、ね。

 まあ、兄の表現の仕方も彼らにとっては意地悪なものだったのかもしれないけれど。




「この者の母は貴族ではなくてね、王家の恥なんだ」

 兄はそういった。

 確かに、そういった。

 それを受けて彼らは、まあ、いってしまえば()()に解釈したわけだけれど。


 もちろん、兄は嘘はいっていない。ただぼくの母が貴族ではないと、王家の恥であると、いっただけだ。

 だが、意図して解釈を歪ませたのは、確かといえる。

 恥、だなんて、いわば「感想」に過ぎないからね。そこに込められた()()なんて、色々解釈できるよね。それに第二側妃殿が常日頃からいい聞かせてる言葉なんて、疑いなく使ってしまうよね。なにしろ兄はまだ中の立志も済ませていない、十の子供に過ぎないからね。


 ね?


 とはいえ、最終的にはこちらを侮って決め付けた彼らの失態でしかないわけだから、そこはちゃんと自己責任でしかない事を理解してほしいところではあるわけで──

 まあ要するに、兄は彼らに失態を演じさせたくて、それを実現させた、という事だ。

 これも王侯貴族の駆け引きといえるのかな?


 でも、ぼくにでも分かるような醜態をさらしたのはやはり、新貴族派としての勢いはままあれども他派閥との関わりが少な過ぎるせい、なのかなぁ、なんてぼくは思うのだけれど、どうなんだろうね? 足を引っ張られる事とかの想定が、足りてない気がするのだけれど。


 啓眼(けいがん)を、神霊(みたま)の加護を掲げれば全てがまかり通るだなんて、本気で思っているのかな。せっかく亡国が歴史を遺してくれているというのに。


 神に依存すれば国は亡びるって。


 例えばメンアーナム皇国。()の国は、神霊(かみ)に国家の行方を委ねた結果亡びた良い例だ。

 神霊の加護を受け、隆盛を極める巨大な国だったというのに。




 母を見ていてぼくも感じるけれど、神籍の存在はけっして人に寄り添ったりはしない。そもそも全く別物の存在であるために、相互理解ができない、という表現が適当なのかな。


 まあ、いくつかの国が加護を受けてる事からも分かるように、神霊は人の子を護り、力を授ける。ぼくのような、人との狭間の子をもうけるなんて事もある。もっともぼくみたいな事例は例外中の例外だろうけれど。

 ただ、そういった「干渉」はけして人を理解して慈しむゆえではないし、仮にそういう意図であったとしても、神霊のそれは人の理想とはどうしても異なってくる。

 そこを誤解している人間がそれなりの数、いるんだよねぇ。




 まあそんなわけで。啓眼の血を掲げたところで意味は、ない。それは神が人の繁栄を確約した証でも、免罪符として与えたものでもないから。

 むしろ彼らが蔑みの目を向けたぼくの事があるからこそ、大叔母は啓眼を与えられたというところが大きいのだろうと思う。

 相互理解が難しいとはいえ、神霊は、神女たる母は、神籍に連なる者を王家──人の世に与える事で大きな影響を及ぼす、という事態を望まなかったのだ。と、ぼくは、思っている。


 ただ、だからといってぼくを与えないだとか、人の子から見て万全な配慮をする等の選択にならないのは、やはり人ならざる存在だからとしかいえないのだけれど。


 できるけどしない、というか、できるけどできない、というか。神霊は時に人へ、人の世へ、干渉をするけれど、同時に人の子など気にしない──気にならない存在だから。




 ……うーん、なんだか考えがまとまらないなあ。




 まあ、あれだよね、ぼくも家族や身近な人々から見ればよく分からないところは多いらしいのだけどね。

 かといって、ぼくにも母や、ましてや主世(しゅせい)の事など、分かりはしないのだけれど。


 今は大概、身近な人達は理解してくれていると思うけれど、以前は、それはもうたびたび、訊かれて困っていたんだよね……。「神女様の御心は」とか「主世の思し召しは」とか、ぼくに分かるわけもないのに。


 ぼくはただの、狭間(はざま)のものに過ぎないから。けして、神に近しい存在というわけではないのだ。


 ぼくは神霊──即ち神女である母と人の子である父の間に生まれた子供だ。

 だからこそぼくは、神でもないし、人でもない。人は神のもとには生まれず、神は人のもとには生まれないから。

 ゆえに、ぼくは永遠の存在ではないし、輪廻の輪にも縁がない。


 うん、ただ、ぼくの命や魂について、父達には伝えないほうがいいのだろうね。悲しませたり落ち込ませたりしそうな気が、なんとなく、するんだ。




 ああ、だけど──




 ん-……。

 本当に、今日は思考が分散してる……あのお貴族殿達に乱されるなんて、ぼくも王族として未熟だよなぁ……でも不愉快だったものなぁ……。


 とはいえ、夕餉までには整理しないといけないよね……こんな状態じゃ、皆んなを心配させるもの。


 とりあえず、母に、兄からのこのお茶を持っていこうかな? そして、美味しいってお言葉をいただけたら、それを兄に伝える事ができる。そしたら、きっとすごく喜んでくれる。そうすればぼくも嬉しくなって、結果この嫌な状態にも区切りがつく。

 もちろん、兄はぼくからの「美味しい」も絶対喜んでくれるけどね。というか、兄はそっちが主軸な気がするけれど、このお茶選びにはきっと第二側妃殿の意見も大きかっただろうから。


 よし。そうと決まれば! さっそく行動する事にしよう。

 うん、なんだかもう既にわくわくがこみ上げてくるね。






 もとより家族も家臣達も、ぼくを政に引き込む気はないから、ぼくにはあまり多く事は知らされていない。王族としての教育も、最低限のものだと思う。というか、ぼくに合わせて考えてくれている、というほうが、正しいのかな。

 だからできる事も、限られてはくるんだけど。

 家族のために何ができるか。あとでしっかり考えてみようと思う。




 まあ今はまず! お茶だよね!

 文中で二重敬語を使用していますが、神女という存在に対する表現のため、あえて、になります。念のため。


 さてさて、今回も最後までお読みいただきありがとうございます。

 ブクマもたくさんの方にしていただいて、光栄です。

 第三話、お楽しみいただけましたか?


 もしかしたらそのうちに、くらいの予定なのですが、啓眼や神霊、主世など「王家の恥」で使用している言葉の説明話を投稿しようかなと考えています。このまま物語だけを進めていくと、ちょっと皆さんを困惑させそうな気がするので。

 でも理想は説明なしに物語の中だけで完結させたい。問われる文章力。

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