第二話 第三王子側仕え
三日おき程、と第一話のあとがきには書きましたが、まあ遅れるよりは早まるほうが良いですよね。というわけで第二話の投稿となります。
お楽しみいただければ幸いです。
「ルイも大変なんだね」
城に招かれた家の子息──十三歳になるアツィエラ公爵家嫡男や、今年で九歳を迎える、バンシェリエ伯爵の弟君の子息などが口端を歪めております。
あれで装っているつもりだという点は愛嬌といえなくもないのかもしれないかもしれなくはある……のかもしれませんが。
我がルイ第三王子殿下はそもそもの話として、彼らに「ルイ」と呼び捨てる事の許しを与えていらっしゃいません。
長兄である王太子殿下は既に確固した地位を築いておいでであり、またもしもの不安もまず存在しないため、我が殿下は自身の地盤固めよりも王家と王国の「要不要」をふるいにかける事をご自身の役割と定め、優先されていらっしゃいます。
したがって、なし崩しにうまく「ルイ」と呼び捨てる立ち位置を得たと思っている彼らは、ワタシから見ればただの道化に過ぎぬのです。
もっとも彼ら……いえ、彼らの家は、日頃からワタシを「人形に仕える道化」と嗤っているようではありますが。彼らにとっては、つまらない人形に仕える愚かな道化、というのがワタシなのでしょう。「君は変わっているな」と、公爵閣下には会うたび声をかけられますし。……少々あからさまに過ぎませんかねえ。
──思えばワタシは両親にも、幼い頃より「変わり者」と呼ばれ続けておりました。しかし今振り返れば、何事も杓子定規な両親こそ、如何なものかと思うのですけれどねえ。
まあそれは置いておくといたしまして。
現在、我が殿下は御年十、ワタシは十五の年を迎えております。
殿下に初めてお会いしたのはワタシが満八歳、殿下のお年が三つの頃でした。
殿下は僅か三歳というその当時から、温度のない平坦な表情と声の方でした。
ですので「ワタシよりも余程に変わった子供がいるじゃあないか」というのが、殿下と対面して最初に抱いた感想、でしたねえ。
そんな殿下はしかし表面に波が表れないというだけで、紡がれる言葉の内容やその振る舞いは苛烈な方でした。もしも。もしもその当時のままにお年を重ねられていたならば、王家に波乱を呼ぶ方となっていらっしゃったやも、しれません。
ですが殿下は還生誕を迎え、そして託授の儀を終えた頃から、ですねえ。ぴたり、と。そう、本当に今までがまるで噓のように。その苛烈さを言動に出される事がなくなったのです。
もっとも、あの激しい熱が消えたわけでない事は、側に仕えているワタシ達、きちんと承知しております。
むしろ、過ぎるほどの熱に加え今では見事な冷徹さも加わっておりますしねえ……ええ、感慨深いものです。
ですのでワタシなどは、殿下は“啓眼”こそ授からなかったものの、ある意味においては“天与の才”を得られたのでは、と考えておりますよ。
けれど、まあ、我が殿下の内面がどうであれ。表情や声ばかりかその言動にさえ熱が表れなくなり、また還生誕を無事に迎え公的な場にも参加されるようになり。殿下の人物像、その周知が進んだわけであります。ええ。
まるで人形のような王子である、と。
人形殿下、と我が主を揶揄する者達は全体から見れば僅かではあるものの、確かに存在しております。主に“新貴族派”の家ですね。
元々貴族派とは王家の暴走の防ぐ重石の意味合いが強かったのですが、新貴族派は「貴族が中心となり国を動かすべき」という考えの家々で構成されており、アツィエラ公爵家をその頂点に据えております。
この国には大別して王家派と貴族派が存在しておりますが、ここ数百年ほどは賢王の治世と呼べる時代が続いておりましたし、またそもそもの話といたしまして、国に加護を与え給う神霊から「天与の才」を授かるのが代々王家直系の方々のみであるために、歴史に愚物として名を遺す王の時代から、その血統を廃すという考えを持つ臣民は、まずおりませんでした。
それこそ、暴虐の過ぎた王の時代に王家自体を倒そうとした者達が、彼らよりもはるかに多くの臣民により倒された、といった歴史もあるほどです。
もっとも新貴族派の者達は「啓眼の流れがあるのだから」「血筋を絶やすわけではないのだから」という思考のようですが……であれば直系のみならず王家の流れを汲んだ傍流の、それこそ国内の貴族家どころか他国の王家やその臣民にも、啓眼を授かる者が現れていて可笑しくないとワタシなどは考えるのですけれど……そういった例は見た事も聞いた事もございませんねえ。同じように、他国の王家の血を迎えても我が国に啓眼以外の天与の才がもたらされた事もございませんし。
さらにいうならば。
新貴族派は総じて意気軒昂ではあるものの、筆頭たるアツィエラ公爵家は現王家に代わり自身らが王族となり血統の本流となる事を……構想として掲げているのに対し、他家はあくまでも「貴族家である自分達」が中心となる事を、ええ、目指している様子ですので。双方の間に齟齬が生じているのですよねえ、既に。
加えて。思春期を迎えた若者のように血気盛んな新貴族派ではありますが、元来の貴族派──重石としての役割を心得ている派閥の大半が、身内に生じた新たな勢力を「親が子を見守るように」とでも例えましょうか、黙って眺めてはいるものの、けっして彼ら新貴族派を認めているわけではないという点を、どれほど認識しているのでしょう。
まあ、我が殿下が彼らをこうして城に招き、いよいよ最後のふるいをかける様子である事からして。
新貴族派のあり方にも、どういう形であれ、変化というものが訪れるでしょう。
殿下は徹底した王族の振る舞いをなさる一方で、身内と認識した相手への、その、……愛情の発揮ぶりは、少々度を越しているとさえいえるものですし、そこに今回は第三王子としての自身のありようも加わるのですから……まあ仕方のない事、ですねえ。
兄姉殿下方への敬愛も、第三王女殿下への慈しみも中々のものはございますが、特に第四王子殿下に対しては、第二側妃殿下の影響も過分にあると愚考はいたしますが、しかし、ええ、どのように表現すべきか……非常に濃いものとなっておりまして。
そのような背景も当然、手伝ったのでしょう。ええ。
ご自身の第三王子として定めた役割もあるとはいえ……わざわざ「王家の恥」などという誘いをかけたのは、随分と、だいぶ、それはもう大いに、お怒りだからなのでしょう……ねえ。
王家の恥第二話、お楽しみいただけたでしょうか?
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第三話は、また3日ほどおいて投稿できたらと思っています。
しかし、私が「執筆」(なんて言うと大袈裟かもしれませんが)に慣れていないという点も大きいのかもしれませんが、毎日投稿されている方々は本当に本当に凄いですねえ。
尊敬しかありません!