3羽目:カラスVS車のチキンレース
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プップー!!!プー!!
ああ、うるさい。これで何度目のクラクションだよ!……ああ、人間の車と戦うのが好きな若いカラスのせいだな
わざと車道にボーっと突っ立って、車が来ても「撥ねれるものなら撥ねてみな」と挑発して、車も止まったり、避けたりするんだけど……最近の若いカラスは娯楽とスリルに飢えてんのかねぇ
あんなことしても、なんの腹の足しにもならないのに。それよりも油脂の多い食料探して毛並みを整えるとかした方がいいと思うんだがなぁ。ツガイを見つけてさ、せめて子孫は残さないと。
若さで乗り切れるとか、気合でどうにかなると思っているんだろうなぁ……若い頃の儂みたいに
今朝は若いカラス三羽が、代わる代わる車相手にチキンレースなるものを繰り広げていた。現在一番なのは尾っぽの形も良くて、大きなカラスのようだ。よく手入れされてるな
「おーい、そこの若いの!儂はこの辺で日中は過ごすって決めてんだ。いい加減その遊びをやめてくれないか?うるさくて敵わない」
今朝も早くからチキンレースを行っている為、クラクションを何回も聞かされていて、いよいよ頭も痛くなりそうだ
「うるせー!老カラスはそこで黙って見てろよ。本当はすげぇって思ってんだろ?自分にできないからって僻むな」
僻む?儂が?あんなこと…僻むわけないのに。そもそも儂の若い頃はあんな小型の車になんて挑まなかった。儂たちが挑んでいたのはダンプカーだ、規模が違う
「僻んでなどいないさ。ただ、そんなことよりも他にやることがあるだろと言いたいだけだ。それに本当に撥ねられでもしたら、あるのは100%死だ。儂の仲間もどれだけタイヤの下敷きになったことか」
「ハハハ!そんなものはただ、そいつがトロかった。ただそれだけだろ?俺はそいつとは違うってところ見せてやるよ!」
そう言って年寄りの話など一切聞かない若いカラスはサッとまた道路の真ん中に立った。そこに向かってきたのはダンプカーだ。
あれは普通の車と違って、横幅も高さもあるから、その分巻き込まれないように注意が必要なんだ
「見せてやるよ」と言われたが、失敗した先にある光景を儂は何度も見たことがある。わざわざそんなものを見たくはなくて、儂はそこから離れた。仕方がないから今日は別の場所で過ごそう……
翌朝、少し躊躇したが、気になったのでいつもの場所へ来てみた。今朝も若いカラスは来ていたけれど二羽しかいなかった。
「君達、昨日の彼はどうしたんだい?」
「………負けた」
「彼は愚かなことをしたけれど、君たちは彼からそれを学んだんだ。決して自分を過信しないことだよ」
「………」
「………」
彼らは何も答えず、そのままどこかへ飛び去って行き、以降ここへ現れることはなかった。
「まだ素直な子達で良かったな」
儂は毎日、ここの辺で過ごす。
今日も車に挑む若者がいたら、どれ、お説教でもしてあげようじゃないか
年寄りの話は耳にうるさいかもしれないけれど、為になる話もあるんだよ?