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幼馴染もの

隣のクラスの美少女が「昔の幼馴染以外に恋したことがない」って言って男子からの告白を断っているらしいけどその幼馴染の俺がこの学校にいることに気づいていないっぽい

作者: テル

「あー授業だりぃー」


 ため息混じりにそう言いながら友人である新城 筑摩(しんじょう つかま)は俺の席に倒れ込んだ。

 おそらく精神的な疲れからくるため息も混じっているのだろう。目がほぼ死んでいる。


雪代 秋葉(ゆきしろ あきは)さんは今日も仏頂面ですね〜」

「......筑摩が哀れだから温かい目で見守ってるだけだ。だから無謀だって言ったのに」


 筑摩はつい最近、隣のクラスの『皇女様』とも呼ばれるくらいの美少女、甘中 琴羽(あまなか こはね)に告白した。そして結果玉砕した。


 俺は無謀な挑戦だと一応警告はしておいたのだが、案の定告白してフラれたというわけだ。

 

「当たって砕けろ、だろ。もしかしたら相手も罰ゲームで付き合ってくれるかもしれないじゃん」

「そこに愛はあるんか」

「ほら、偽りの恋から真実の恋に発展する場合があるだろ」

「ラブコメの読みすぎだ。ったく......」


 筑摩は色んな女性に恋をしている。恋と呼べるのかは謎なのだが、その度に告白してはフラれている。

 ある意味の恋愛マスターだ。......フラれてるのならマスターとは言えないか。

 まあ、度胸だけは一目置くところはある。


 筑摩の場合、好きな理由を尋ねるとまあなんとも酷い答えが返ってくる。


 胸がデカくて、スタイルが良くて、超可愛くて、超可愛くて、超可愛くて、愛おしい。


 ......友達として接する上では楽しいのだが、女子のこととなると距離を取りたくなる。

 筑摩のポリシーは付き合ってから性格を好きになる、である。

 それで本当に良いのだろうか。まあこいつはこいつで人生楽しいそうだからいいか。


「なんですかその目は」

「いや別に、人生楽しそうだなって。ところでフラれた時なんて言われたんだ?」

「フラれた時? えーっと『あなたとはお付き合いできません。そもそもあなたのこと知らないですし、私は昔の幼馴染以外に恋したことがないので』って」

「ふーん」


 昔の幼馴染......か。


 あーそう言えばみんなこう言われてフラれてるんだっけ。


「ま、俺は切り替えて次の人探すよ」

「そう易々と切り替えていいものなのか......」

「お前はなんかそう言うネタないのかよ。誰かが好きとか。昔の話でもいいぞ」

「ん、ないな。強いて言うなら可愛い異性の幼馴染がいたくらい」

「それ大有りじゃないか! え、ちょ、紹介してくれ」

「無理無理無理無理!」


 筑摩がそう言ってきたので俺は全力で首を横に振った。

 流石にこんなやつに俺の幼馴染を紹介したくない。


「冗談冗談!」


 筑摩の場合、冗談が本気に聞こえてしまう。


「いやまあ、今はどこ行ったのか知らんから紹介できないぞ」

「あー、そう言うパターンか。なるほどね」


 俺には小さい頃、と言っても小学校卒業までずっと一緒だった幼馴染がいた。

 仲が良かったし、2人きりでよく遊んだものだ。

 ただ、俺は小学校卒業とともに地元を離れてしまい、その上連絡先も交換していなかったので会えないでいた。

 

 名前も声もあの頃の記憶も鮮明に覚えている。名前を甘中 琴羽。


 ......そう。俺の幼馴染は隣のクラスの例の美少女なのである。

 正直これにはかなり驚いた。

 高校に入っていきなり、絶世の美少女だと噂の女子高生が俺の幼馴染だとは思わなかった。


 しかし向こうは俺のことに気づいていない。

 覚えてはいるだろうが、名前を忘れ去られていたらと思うと話しかける勇気もない。

 万一のことを考えると俺の心が怯んでしまう。


 それに、幼馴染以外に恋したことがないとは言うが実際どうなのか。


 琴羽と俺の関係は親友だったがそれ以下でもそれ以上なかった。

 だからこの言葉を聞いた時、俺は1人勝手に少し舞い上がっていたが、よくよく考えればフる口実を作っただけという場合もある。

 

 この場合、俺の正体を暴露したところで、琴羽の羞恥心ゲージが爆発してしまうだろう。

 それはあまりにもかわいそうだ。


「......あっ、そうだ」

「ん、どうした?」


 筑摩が少し考え込む動作をして黙り込んだ後、思いついたようにそう言った。

 そして筑摩は俺の手をガシッと掴んだ。


「なあ、お前が琴羽に告ってみてよ」

「......は? いやいや、無理無理。冗談にしてはタチが......」


 筑摩の目は思ったよりもまっすぐだった。どうやら本気らしい。

 え? 


「本気?」

「もちろん、あーじゃあゲームで負けたらでいいぞ。そうだな、じゃんけんでお前が俺に負けたら告白」

「......やるんだな」

「ああ、やる! いま! ここで!」


 筑摩は手を差し出した。そして俺も手を差し出す。

 なんだこのかつてないほどの重圧がかかっているジャンケンは。

 緊張感が俺の周りにだけ漂っている。


「じゃあ行くぞ」

「お、おう」

「最初はグー......」

「じゃんけんぽん! 俺はパーでお前はグーか......はい、俺の勝ちー!」

「......あ」


 筑摩! 何してくれとんじゃてめえ! 反則中の反則だろうが!

 

 俺は心の中でそう声を荒げた。......最初はグーの時にパーを出すのは大罪中の大罪である。

 それをこいつは澄ました顔でやりやがった。


「待て待て、今の反則だろ!」

「ん、ルールの明記してなかったな。ま、お疲れ、お前今日放課後告ってこい」

「......がち?」

「うん、俺は立ち会えないが、結果は明日教えるんやで!」


 ここで逃げようものなら筑摩が強制的にやらせるのだろう。

 切り替えるとは言ってもやはりフラれたことを根に持って憂さ晴らしを俺でしようとしているのだろう。


「......わかった」


 逃げられないので仕方ない。

 

 了承すると、筑摩はニッと不気味に笑った。


 ***


 放課後。ヒューっと少し暑くなってきた風が木々の隙間を通り抜けていく。


 ラブレターを書いて校舎裏に呼び出すというシンプルかつ王道な方法を俺は使った。

 というか大体の告白する生徒がこれだろう。


 しばらく待っていると、皇女様こと琴羽がやってきた。

 相変わらずの美少女で美化しているとは言え、やはりこうして見てみると昔の面影が残っている。


 向こうはこちらに気づいていない様子だ。まあ当然か。

 俺は高校に入ってイメチェンというやつをしてみた。なのでわからないのも無理はない。

 それに背は大きくなっているし、顔つきも多分違う。


「ごめんなさい。お待たせしました。話って何でしょうか?」


 さてと、告白、やるからには本気だ。ある程度段取りがこちらとしてもある。

 

 強制的にやらされているとは言え、緊張するな。


 すう、と俺は息を吸って、吐いて、言い放った。


「琴羽のことが好きだ! 付き合ってくれ!」


 俺は手を差し出した。


 しかし数秒の沈黙の後、彼女は言った。


「ごめんなさい。あなたとはお付き合いできません」


 やはりそう断られた。想定内である。そもそも知らない男の告白を受けるような人物ではない。

 

「理由をお聞きしても?」

「私はあなたと面識がないからです。それに私は昔の幼馴染以外に恋をした男性がいません」

「......なるほど」


 その幼馴染が俺なんだけどね?

 まじまじと告白されているようで、こちらが気恥ずかしくなってくる。


「......じゃあ、最後に俺の名前だけでも覚えてくれると嬉しいです」

「......? わ、わかりました」

雪代 秋葉(ゆきしろ あきは)と申します。以後お見知りおきを......ことりん?」


 結構真面目に悩んだ。結果、俺は自分の名前を言うことにした。

 ちなみにことりんというのは俺が琴羽に対して一時期呼んでいたあだ名だ。


「雪代......秋葉......?」


 彼女は目をパチパチとさせている。

 この反応、流石に覚えていたか。覚えていなかったらそもそも計画破綻である。


「秋葉!?」

「そうだよ、久しぶり、琴羽。小学校卒業以来だから、4、5年ぶりくらいか」

「本物......だぁ......」


 彼女は唖然とした後、いきなり涙を流し始めた。

 そして俺に抱きついた。


「こ、琴羽?」

「うう......秋葉ー! ......本物」


 ***


 しばらくして、琴羽は俺から離れた。

 

「もう、どこ行ってたのよ......」

「それに関してはごめん。言い出せなかった」


 小学校卒業後、俺は地元を離れたと言ったが、琴羽にそのことを言えていなかった。

 言いたくなかった。辛かったから。だから俺は逃げてしまったのだ。

 言えば良かったものを。


 それでもこうして琴羽が目の前にいる。だいぶ可愛くなっているが。


「でも......良かった。久しぶりに会えて」

「俺も。なんか......うん、変わったな」

「そっちこそ。私気づかなかったもん。どうして早く言ってくれなかったの?」


 ああいうフり方してたら絶対言えないんだよなぁ。


「まあ、うん。俺も最近気づいたから」

「うっ、秋葉ひどい!」


 懐かしいやりとりだ。少し俺も胸が熱い。

 あ、そう言えば......。俺は気になったことを率直に聞いてみることにした。


「そう言えば琴羽、昔の幼馴染以外に恋した男性がいないって......どう言う意味かな?」


 そう言うと琴羽は顔を紅潮させた。

 

「あれは、ちがっ......いや告白断るための嘘だから! 別に秋葉のことまだ好きって訳じゃない......から」

「......まだ?」

「あーちがっ......って大体秋葉も告白してきたじゃない!」

「お互い様か」

「お互い様......そうだね」


 本心はわからないが、俺のことを想っていてくれたのなら素直に嬉しい。


「ま、俺は本気だったんだけどなー。断られちゃったらしょうがないか〜」

「な、何それ......」

「冗談」


 からかってみれば軽く頬を膨らませていた。

 その様子は昔の琴羽にそっくりだった。

 少し胸がドキリとしてしまったことは心の奥底にしまっておこう。


「ねえ、連絡先、交換しようよ。もう離れ離れなんて......嫌だから......」


 琴羽と俺はスマホを取り出してささっと琴羽と連絡先を交換した。


「よし、これでオッケー。もう離さないもん!」


 琴羽はニコッと満面の笑みを浮かべた。

 ......うん、心臓に悪い。


「じゃあ私帰るから。バイバイ」

「ああ、『また』な」

「......うん、『また』ね」


 ***


 後日、結果報告をしろと筑摩に言い寄られた。


「で、それでどうなんだ、結果は?」


 これ正直に言った方がいいのかな。幼馴染だったこと。

 ......まあ伏せとくか。連絡先交換したとだけ言っとこ。


「フラれたけど連絡先交換した」

「......は?」

「友達なろうぜ〜みたいな」

「......は? は? はぁーーーーー!?」


 教室中に筑摩の嘘だろぉという叫び声に近い魂の声が反響した。


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― 新着の感想 ―
本当にタイトルの内容しかない 特にひねりなども無く面白みにかける
[一言] _(:3 」∠)_ええ話や…とは思ったんだけど、よく考えたらヒロイン主人公覚えてないから俺俺詐欺で誰でも良かったんじゃね説…
[良い点] つっづっき!つっづっきっ!さっさとつっづっきっ! 焦らしてくれるじゃあないか。しかし今も好意はあるけどどのレベルかわからない、か、一度降振ってしまった手前撤回できないのどっちかかなあ。
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