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「でも、どうして急に体が成長したのかしら?運命の人が鍵だって言うなら会ってすぐに戻っても不思議じゃないのに」
ユーフラは首をかしげる。
ここは王宮の奥庭でスピネルとガーネットを影から出しているところだ。影から出た竜はかなり大きい上に人目につくと恐れられてしまうので王族だけが立ち入れる場所を借りたのだ。
美しい花も、用意された餌にも目を向けず、二頭はしばらくぶりに会うのが嬉しいとばかりにぴたりと寄り添っている。
ユーフラとアンデルハイムはベンチに腰かけてそんな二頭を眺めている。
アンデルハイムは隣に座るユーフラの手を握ると
「それはね、口付けをしたからだって義父様がおっしゃっていたよ」
「ええ!? く、口付けって!?」
ユーフラは思わず手を引き抜いてしまう。
「あれ?ひどいな、覚えていないの? スピネルから出て君の夫にして欲しい、どうか結婚して欲しい、今すぐ君が欲しい、子供は二人以上欲しいって口付けしたじゃないか」
「なんか聞いてないことまで増やされているけど?!」
「ああよかった、覚えているね」
アンデルハイムはするりとユーフラの頬を撫でてそのまま唇に指を当てる。
真っ赤になったユーフラはアンデルハイムと見つめ合うが、一つ気になってうん?と首をかしげる。
「ねえ、よく考えてみると、運命の人と出会ったから魔力が放出されるということが分かったのよね。でも会うだけでなく、そういう行為が鍵だったとわかった...っていうことはお父様にもレギュール陛下にも全ての人に私達が口付けしたってばれたってこと!? 恥ずか死ねる...」
ベンチから芝生の上に崩れ落ちる。
「会ってすぐに義父様に『ユーフラに不埒な真似をしたな!』って言われてなんでバレたんだろうって思ったんだよね」
ああああ、ファーストキスを一番知られたくない近親者に知られるってどうなの?! 神に配慮があるならこんな設定にしないで欲しかった!
ユーフラはがっくりとしているが、アンデルハイムはまるで気にしていないらしく
「むしろ他の者にユーフラが私のものだって分かりやすく周知できるから良いんじゃないかな?」
「良くない!全然良くない!ダメ周知、イエス秘匿!」
「ええ~?」
「ええ~じゃないから!」
言い合う二人を二頭の竜が眺めている。
やれやれ、いつになったら自分たちのようになるのか、などと対の姿に呆れられているとは知らない二人でした。
おしまい