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「と言うことで、とりあえずマーベリンとハイルハイム王国に向かいたいのです」


朝食の席で切り出すのはどうかと思ったが、今やらないでいつやる!?と言う見出しが流れて来たのでここは不作法でも押し進めさせていただく。


アンデルハイム王子は今日も後ろに薔薇でも仕込んでいるのではないかと言うくらいきらきらしい笑顔で

「ユーフラ王女、残念なのですがマーベリンは騎士なので他国に渡るためには国王陛下の許可が必須なのです。陛下はあともう少しで帰国するのでどうかお待ち頂けませんか?」


壁に控えるダリルギュームは睨んでくるし、当の本人であるマーベリンがぶんぶん頷いているので、なんとなく私が無体を押し進めているように見える。


「そ、それでは、私は先に帰国しますので後から陛下のご許可を頂けたらお迎えに来ますわ」


アンデルハイムは大袈裟に驚くと

「とんでもない! ハイルハイム王国の王女であるユーフラ王女を夫無しに帰国させるなどしたら父王は義理も果たせぬ愚か者として各国に嘲笑されるでしょう!」


「いえ、うちはちっさい国なのでどの国も笑うのはうちの方だと思うんですが...」


「ああ、自国を下げてでも我が父王を持ち上げるとはなんて奥ゆかしいんだ...」


「あの、それちょっと演技入ってますよね!?」


壁際のメイドさん達も全員目頭にハンカチを添えるとか完全に観客設定じゃないですか!


アンデルハイムはにこりと笑うと

「まあとにかく、今日は城下に行ってみませんか?」






なぜこうなったのだろう。


ユーフラは眉間に指を添えて考える。


城下に誘われてうっかり興味を持ってしまったのがいけなかったんだわ。でも仕方がないと思うの。そう思い周りを見回す。


ハイルハイムの小さな王都と違って、東西南北に伸びる長く広い街道が伸びる広大な王都。その道は全て焼いた煉瓦で舗装され、紫色の花をつける街路樹が両側に並んでいる。

大通りには高い建物が並んでいるが、色合いを統一しているので洗練された雰囲気で圧迫感がない。大通りから一本入った小道は人々が歩きやすく整備され、小さな店が大きく戸口を広げている様は、市場のように活気に溢れている。


「素晴らしい街だわ...」


「なんとおっしゃられましたか」


「素晴らしい街ですね!」


「ありがとうございます。舗装は経費がかかりましたが、その分輸送に時間がかからなくなり他国との貿易が活発化しました。また歩きながら買い物が出来るよう大通りの裏に小口商店街を作ることで市民の売買意欲が増え活気のある街になりました」


「え?なんておっしゃった?」

アンデルハイム王子が大声でもう一度繰り返してようやく聞こえた。


「アンデルハイム王子の施策なのね。市民が生き生きしているのが分かるわ!流石は大陸一の王都ね!」


「え?なんとおっしゃられましたか?」

ユーフラ王女は大声で返答すると隣の大柄な体が申し訳なさそうに小さくすぼめる。





なぜこうなったのだろう。


アンデルハイムは横の大柄な体に遮られ、嬉しそうなユーフラの顔もちらりちらりとしか見えない。


「あの氷菓子の店は有名なんですよ。果物を練り込んだ乳を冷やして固めているんです」


「まあ、氷菓子?初めてだわ!」


「ではぜひお試しください。私のお勧めは苺か檸檬ですね」


そう言って店の前に立つと主人が手早く小麦粉を薄く焼いた皮に氷菓子を落とすとくるりと包んで出してくれる。


乗り出すように見つめる横顔はつんとした鼻に僅かに開いた唇がほんのり薔薇色に染まっているが、横の大柄な体に遮られよく見えない。


「美味しい!暑い夏にぴったりね!」

小さな手で氷菓子を落とさないようつかむと、はむはむと小さな口で食べ進める姿が愛らしい。


しかしやはり大柄な体に遮られてよく見えないので思わずしかめ面になってしまうのは仕方がないと思う。





なぜこうなったのだろう。


マーベリンはユーフラ王女とアンデルハイム王子に挟まれて困惑していた。


護衛騎士として付き従うなら後ろなのだが、ユーフラ王女が「夫となる方ですもの、隣にいて欲しいわ」と仰ったのでここに立っている。ちなみに、それを聞いた殿下の顔は見なかった。振り向いたら伐られるんじゃないかと言うほどの殺気がしていたからだ。


殿下が「道が広いので三人で並べますね」と無茶ぶりをしたので仲良く三人で並んで歩いている、はずがない!

お二人の会話に入らないよう、邪魔をしないようなるべく体を縮めるもこの巨体ではまるで意味がなくただただ苦しい。


早く城に帰りたい...。





あまりに息苦しい散策になってしまったがユーフラにとってはマーベリンに会えたのでとりあえず良かった。前回初めて会ってから何故か会えずにいたのが少しでも交流できたのだ。


別れ際にユーフラはマーベリンに声をかけた。

「よかったら、明日も会えないかしら?」


マーベリンはビシッと固まってしまい声もでない。それを見てアンデルハイムは微笑みを絶やさずに「マーベリンは明日から討伐なんですよ。ですから帰ったら連絡をさせますね」と言った。


ユーフラは迎えに来た侍女と部屋に戻りながら先ほどのマーベリンの態度を思い返す。...やはり王女と言っても幼い子供の姿では結婚したくないわよね、と分かっていても落ち込む心をもて余すことになった。





アンデルハイムとマーベリンは黙って執務室まで歩いて来ると、二人で部屋に入る。と途端にマーベリンが床にへたりこむ。


「殿下、お許しください...。あのような殺気を受けては警備に影響が出ます...」


「仕方がないだろう、夫となる人と歩きたいと言われて私が後ろを歩けば良かったのか?! あんなに可愛らしい顔で私が施策した道を褒めているのに、あんなに可愛らしい顔で氷菓子を頬張っているのに、隣に立てないなんて...」


アンデルハイムも床にへたりこむ。


「いやもう告白しましょうよ!俺、お二人の障害にしかなっていないじゃないですか!?」


「そんなことできたらやってるよ!竜の対の姿に選ばれないと夫になれないんだよ!?出来る限りユーフラ王女の気に入ってもらって、王女の対の姿にもいいんじゃないって思ってもらわないと!」


「それもう接待じゃないですか...」


「いいんだよ、友達の評価が高い男の方がうまくいきやすいって本に載ってたし!」


「あと勝手に予定もない討伐にぶちこまないでください!俺、来週から年休申請してあるんで!」


「使えるものは全て使って、足りなきゃ奪ってでも必ず手に入れる、それがレギュール王国に一子相伝される戦法だ!年休が欲しければユーフラと別れる方法を考えて来い!」


「知りたくなかった!ついでに使わないで欲しかった!」



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