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「っぷ、あはははは、あなた、結構腹黒ね!」

我慢の限界だったユーフラはバルコニーに立つと堪えきれずに笑い出した。


「いやいや、歴戦の兵士が現れたのですよ、お相手して差し上げなくてはならないでしょう」

などと真面目ぶって言うので更に笑ってしまった。


二人でひとしきり笑いあうとユーフラは肩の力を抜いた。


「アンデルハイム王子はもっと堅物かと思ったわ」

「見た目で判断してはいけませんよ」

「本当にね!私、いつもは見た目で判断されてばかりなのに、自分になると駄目ね」


年に合わない幼い見た目に傷ついたこともあったのだろう。それでも明るさと省みる気持ちをなくさないユーフラ王女に感銘を受ける。


「王女はその見た目が気になりますか?」


ユーフラはびっくりした顔をしてから苦笑する。

「殿下は素直なのかしら、それとも歯に衣着せぬ性格なのかしら。まあいいわ、直接聞いてくる人は皆無だから言わなかっただけなの。私の見た目についてね」


王女は生まれてすぐは普通の赤子と同じ程度の成長だった。それよりハイルハイム王国の直系である証の漆黒の髪と瞳が美しい赤子をぜひ絵に描かせて欲しいと著名な画家が集まって来るほど美しい子供として有名だった。


しかし、5歳くらいになると他の子供と比べて明らかに成長が遅いとわかった。15歳になるとほぼ現在の身長で止まり、幼子のままでいる病気なのではないかと噂され、王位継承権の存続について臣下から意見が出されたと言う。

しかし見た目が幼くともその精神も知能も大人顔負けどころか学園に通う必要すらない能力を発揮して陰口を叩く貴族をひねり潰していった。


「私の研究でも分かることに限界があって全てが解明された訳ではないんだけど、どうも何代かに一人くらいこういう王族が生まれているらしいの。その年代は決まって繁栄しているので、国を栄えさせるための枷というか、呪いのようなものかと思っているの」


「呪い、ですか」


「ええ、でも他の人にうつったりしないわよ!それに、こんな見た目だからマーベリンと結婚しても無理強いしないつもり。彼が他に愛する人がいれば一緒に住んでもらってもかまわないわ」


アンデルハイムは驚いて思わず叫ぶ。

「そんな!あなたを差し置いて愛人を囲う?!そんなことが許される訳がありません!」


「でも、私はこんななりだしね」

そう言って肩をすくめる。

「国のために夫が必要なの。だからどうしても私の夫になってもらうけど、それ以上を求めるつもりはないのよ」


もう何度も繰り返して来たのだろう。大人になれない王女として生きていくには、誰かを無理に縛らないで良い方法を。

目の前の少女がたった一人でそんな悲しいことを考えて来たかと思うと、アンデルハイムは涙が込み上げてくる。


「あの、殿下? 大丈夫なのよ、そんなに悪い人生でもないんだから」

どこまでも強く、美しいユーフラ王女、なぜあなたの夫がマーベリンなのか。なぜ、私でないのか、悔しくて唇を噛み締める。


対の姿である竜が選んだ人が夫となる。それなら竜に挑んで対の姿と認めてもらえばいいんじゃないだろうか。

そうだ、彼女が強く生きるなら私も決して諦めないで彼女を手にしよう。


アンデルハイムは夏の夜に溶けるユーフラの髪を掬い上げるとそっと口づけした。

「そうですね、私も諦め悪く足掻くことにします」


薄闇の中でも真っ赤になったのが分かるユーフラをそのまま抱きしめた。



~~~



ああああああの王子はダメだわ!危険、すごく危険!


ユーフラは部屋に帰ると一人にしてもらってベッドに倒れこむ。


何で私の呪いの話から髪にく、口づけすることになって...よりによって抱きしめるとか...!


「ひゃあああああ!」

思わず声が漏れてしまう。


そもそも、そもそもよ!私の見た目、幼女よ!? え、もしかしてそういう趣味の持ち主...? ええ~ないわ~、私が言う筋合いじゃないけどないわ~。でも、子供扱いしないで話してくれる人は家族以外で王子くらいだな...。 ちゃんとしたドレスも贈ってくれたし、エスコートもしてくれたし、は!男の人にドレスを贈って貰うなんて初めてじゃない! ちょっときゅんとするって言うか...。


ダメ!、ダメダメだわ! 夫になる人が見つかったんだもの、早く国に帰ろう!そうよ、結婚前に浮気だなんて疑われたら、あら?浮気?浮気!浮気ダメ絶対!! 

そう意気込んで、明日には殿下に帰国についてもう一度話そうと決めた。



~~~



「...殿下、何故にそんなにご機嫌がよろしいのでしょう?」

ダリルギュームが怪訝な顔をしている。


「なんだい?私の機嫌が良いと執務も捗るって喜んでいたじゃないか」


「いえ、昨晩私が欠席した夜会の噂を小耳に挟んだのですが、何故かユーフラ王女が婚約者として紹介され、更に殿下と仲睦まじくダンスを踊り、娘を売り込むのに鬱陶しかったダンブリン侯爵を退け、淫乱な令嬢を叩きのめしたと聞いたんですが」


「素晴らしい情報収集じゃないかダリル。その通りだよ!」

書き終えた書類を差し出した手の上にパシッと置くと鼻歌を歌い次の書類に取りかかる。


「殿下!何故ですか?! あの失礼な野猿を婚約者だなんて!殿下にはもっと奥ゆかしく美しく、とにかくあの姫でない素晴らしい令嬢がお似合いです!」


アンデルハイムは書類から目をあげると、

「ダリル、恋ってしたことある?」

突然の質問に「は?」と目を白黒させる。

しかし答えを求めて聞いたわけではなかったようでアンデルハイムはそのままふふふ、と笑うと


「恋って素晴らしいな。自分がこんなに強い想いを持つなんて、考えたこともなかったよ」


「で、殿下...?」


会話はそれきり打ち切られ、静まり返った執務室にはアンデルハイムの鼻歌だけが響いていた。



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