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「彼、騎士マーベリンですか?」

いつも表情を制御しているアンデルハイム王子が呆気にとられた顔を隠しもしない。


「ええ、その傷は魔獣によってつけられたで良いかしら?」


マーベリンは王子に発言の許可を視線で得ると胸に左手を当て

「は、先日の討伐の際赤色の竜によってつけられました」


「赤い竜ね、こんな遠くまで飛んでいたなんて...。その竜は我が国に住んでいるものなの。実はこの竜は番でね、雌の竜は私の対の姿なのよ」


「対の姿、とは?」


「我が国の住民は皆、自分を守護してくれる存在を持つの。あるものは犬だったり、あるものは鹿だったり、見た目はいろいろだけど精霊が具現化したと言えるかな。私の場合は赤い竜でね、つまりその番である竜にとっては私の夫となる人が自分の対の姿なの。精霊にとっても対の姿が見つからないのは落ち着かないらしくて、近年やたらと探しに出ていたのよね」


アンデルハイム王子もマーベリンもあまりに異なる世界観に黙ってしまった。


「まあ、そうは言っても信じられないわよね、ガーネット来てくれる?」

そう言って自分の影に声をかけると、その影からゆっくりと首をもたげたのは美しい鬣を持つ赤い竜だった。


「これは...」

あまりのことに言葉を失う。


ユーフラが頭を撫でるとその手に擦り付ける仕草をしてからガーネットは影に潜って行った。


「先日、帰って来て騒ぐので対の姿を見つけたのだなと思い辿って来てみたの。そして今日会って見てスピネルの魔力があなたから湧いて出ているのが分かった。つまり、あなたが私の夫となる人だわ!」

そう言って美しい微笑みを浮かべてマーベリンに手をさしのべる。そのきらきらした笑顔は幼くとも高貴で優雅さに溢れており、マーベリンは圧倒された。




しかし、隣に立つアンデルハイム王子は胸が焼けるような焦燥感に襲われた。


マーベリンは立派な騎士だ。常に私に忠誠を誓って竜の襲撃の時だって身を挺して立ち向かった。確かに竜の対の姿に選ばれるにふさわしい。だがしかし、ユーフラ王女の夫となるほどなのか、いやなぜこんなに苦しく思うのだ?王女に会うのは初めてなのに、なぜか他の男が彼女の夫になるのが許せない。


アンデルハイムは見つめ合う二人の間を阻むように

「ユーフラ王女、マーベリンも突然の申し出に驚いております。どうかここはしばらく王宮に滞在して本当に夫となる人間なのか確かめてはいかがでしょう」

王子らしい微笑みを浮かべるとそう提案した。


ユーフラ王女は「確認は必要ない」と言っていたが、マーベリンは青い顔をしてこくこくと首を縦に振っている。


とにかく時間を稼ぐためにも、ユーフラ王女を賓客が泊まる部屋に案内をした。


~~~


ユーフラ王女は困っていた。何しろ、父王の引き留める声も聞かずに飛び出して来てしまったのに、マーベリンをすぐに連れて帰れないなんて。


はああ、どうしよう?スピネルが我慢できて二週間くらいよね。

ガーネットが私と一緒に来ているから居場所はばれているし、もしまた対の姿を連れ去りに来たら、最悪この国と争いになっちゃうかも。


竜のスピネルはユーフラ王女の対の姿である竜のガーネットの番だ。大型で燃えるような激しい性格な上に対の姿が見つからず精神が不安定になっている。

この国では竜は恐ろしい魔獣と思われているので、討伐対象にされてしまう。いくら精霊だと言っても、納得してはもらえないだろう。


ユーフラ王女はあてがわれた美しい部屋の中でため息をついた。


~~~


「それでマーベリン、君はユーフラ王女の夫となりたいか?」


「いいえ、高貴な方の夫となるなんて想像もしたことはございません!きっと何かの間違いだと思います!」


マーベリンは真面目な顔をひきつらせている。


12歳で騎士団に入団し10年、脳筋一筋だったマーベリンにとって高貴な姫とは守るべき対象であってまかり間違っても結婚相手ではない。夜会の警備などで貴族の令嬢達を見る機会も多いが、張り付けた微笑みと扇の裏で陰惨ないじめや虎視眈々と相手を蹴落とす計略などをたてているのを見れば、憧れや夢などとっくに破れ去っている。


またそれ以上にマーベリンにとってアンデルハイム王子は大切な主人だった。幼い頃は年が近いと言うことで護衛と言うより年下の遊び友達のように過ごして来た。その王子の婚約者に求婚されるなど、申し訳ないやら理解不能やらで先ほどは完全にパニックに陥っていた。


しかし今、多少冷静になって見ると、目の前の王子はいつも通り微笑みを湛えているが、どことなく不機嫌さが隠しきれていない。

物心ついてから感情を露にしたことがない王子がマーベリンにすら伝わるほど不快に思うと言うことは、王女に対して何かしらの思いがあるのだろうか。

見た目はまるで幼女だが、一応17年も婚約者だったのだ、急に他の男が良いと言われれば面白くないに決まっている。


「では、辞退すると言うことで良いか?」


「は! しかしながら殿下、あの王女様は竜の対の姿が夫となる人だとおっしゃっていました。簡単に諦めてくださるでしょうか」

押し殺せない不安が持ち上がる。


アンデルハイムはしばらく考えてから不適に笑うと

「そこはなんとかするよ。マーベリンは王女と距離を取るようにしてくれる?」


何はともあれ、見に覚えのない求婚を回避するべくマーベリンは高速で頷いた。

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