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詩❲悲恋❳

凪沙

作者: 日浦海里

まだ消えない心の痛みを

胸の内に抱いているから

未だ一歩を踏み切れないまま


だけど、君はそれを知っても

僕の隣で微笑んでくれる


僕はもう一度想っていいんだろうか

誰かと共に居ることを




大切なものを失くしたあの日から

僕の心は時を刻むことを止め


この足を前に踏み出すことも

歩んできた道を振り返ることも

隣に誰もいないことすら

確認することが出来なくて


温もりも冷たさも

この胸に響く鼓動も

目に映る情景の色も


そこにあるのか

失くなったのか

分らないまま立ち尽くしていた


生きているのか

死んでいるのか

そんなことさえどうでも良くて


一日はいつ始まって

今日が何月何日なのか

それすら曖昧だった日々から

逃げるように街を離れて

空を流れゆく雲と星だけ

眺めている時に君と出会った


交わした言葉は目に映るすべて

ただそこにある事実だけ述べて

面白くもない何でもないことを

ありのままに受け止めて返した


まだ消えない心の痛みを

胸の内に抱いているから

ただ転がり空を眺めてる


何者とも知れぬはずの君に

僕は隣を見ずに話してる


映る景色を語るその中に

感情が含まれてるとも知らずに




生きる喜びを忘れたあの日から

日々は緩慢な死出への道で


踏み出した足は進むためじゃなく

終わるための一歩でしかなく

隣で誰が眺めていようと

確認をする必要もなくて


喜びも楽しみも

怒りや悲しみ

浮かび上がる感情を


捨て去ったのか

失くしたんだか

分らないまま吸っては吐いて


死にたくないのか

死ぬのがこわいか

考えることもどうでも良くて


東の空から朝日が昇り

西の空へと夕日が沈み

消えれば星が顔を出す空から

降り注ぐように涙が流れて

頬を流れた光る星だけは

見下ろしていた君のものだった


目に映るものに言葉はなくて

語らぬ現実がただそこにあって

何でもなかったはずの感情が

ありのままを受け止めきれずいた


まだ消えない心の痛みを

胸の内に抱いているけど

上書くように痛みを覚える


何者とも知れぬはずの僕に

君は隣で涙を流してる


白と黒だけの夜空の中に

赤い星を見ているとも知らずに




踏み出せないままの感情の波を

砂浜の上に言葉で紡いで

寄せる波が足元を浚って

その想いごと消し去っていく


何かが出来たわけじゃなかった

繰り返しても変わりはしなかった

望まれたことはこんなじゃなかった

それでも忘れるなんてことは出来なかった


どうして彼女じゃなきゃだめなのかと

何度も星に恨みを吐いた

どうして僕じゃだめだったのかと

何度も月に請いて祈った


その時の感情が押し寄せて溢れて

砂を傷つけた枝ごと折れた


折れた枝の先端が

波に拐われるのを見届けて

手にした枝も捨てようとした時

君のその手が僕を掴んだ




夕日に照らされた君の横顔が

あの日「またね」と言った彼女の

透き通るような横顔に似て

僕は知らずに涙する




まだ消えない心の痛みを

胸の内に抱いているから

未だ一歩を踏み切れないまま


だけど、君はそれを知っても

僕の隣で微笑んでくれる


僕はもう一度想っていいのか

誰かと共に居ることを


僕はもう一度望んでいいのか

誰かと共に歩むことを


彼女があの日望んだように

彼女の願いを共に抱いて


心の痛みは消すことのないまま

胸の内に抱いているから

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― 新着の感想 ―
[良い点]  いち度は手に入れたからこそ感じる喪失。  慣れることはないけれど、新しい痛みも上書きされてゆく。それが生きて歩いてゆくことなのかもしれないと思いました。人間は儚いけど、強い。  傷ついた…
[一言] 喪失というテーマは、文学と切っては切り離せないものだと思っています。 主人公が感じた喪失の重さを、これだけ様々な文章で表現できるんだということに、感動してしまいました。 特に「生きる喜びを忘…
[良い点] 気持ちを前向きに行こうと努力している意図が感じられる。 過去に心の傷が有っても誰かに慰めてもらえれば気が楽になりますから。 そんな健気さがあって良いです。 [一言] 日浦海里様 初めまし…
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