4 僕にも友達が?
それからというもの、莉緒との時間は、朝の登校時のみとなっていった。
その登校時も、クラスの他の友達に会うとそこで終わりだ。
何度か会話に入ろうとしたものの、僕の知らない話題で盛り上がっている莉緒達相手では難しかった。
どうしたらいいのだろう。
相変わらず僕には友達が居ない。
莉緒も僕との時間を作るつもりは無いようだ。
このまま一人ぼっちで高校生活を送らなければならないのか。
「あっ」
ガシャンッ!!
ん?なんだ?
横を見ると、隣の席の子が筆箱を落としていた。
シャーペンやら消しゴムやらが床に散らばった。
その子は慌ててそれらを拾い集めている。
あ、僕の足元にも……。
大変そうだし、拾ってあげよう。
手渡ししようとしたら、まだその子はしゃがんで落ちたものを拾っていた。
机に置いといてあげよう。
拾った消しゴムをその子の机に置く。
と、机の上に広がったノートが目に入った。
これは授業のノートじゃない。
小説……?
これ、この子が書いてるのか?
へえ、自分で小説を書いてるんだ……。
凄いな。
「あっ!!」
「え?」
その子と目が合った。
「み、見ました?」
「え、あ、ご、ごめん!ワザとじゃないんだ!」
「や、やだ……」
「あ!ホントごめん!」
「あ、い、いえ、いいです。消しゴム拾ってくれたんですよね?」
「あ、そ、そう!僕の足元に落ちてたから……」
「あ、ありがとうございます。」
「う、うん。あのごめんね?見るつもりはなかったんだけど、気になっちゃって……」
「いえ、いいです。誰にも言わないで下さいね?」
「言わないよ?で、でも凄いね!自分で小説を書いてるの?」
「あ、その、見よう見まねで……」
「いや、凄いと思うよ?」
「いえ、全然すごくなんかないですよ?」
「どんなの書いてるの?」
「え、あの、お恥ずかしながら恋愛物とか……」
「へえ!僕あんまり小説とか読んだことないから、凄く興味ある!」
「え?そ、そうですか?」
「うん!高校生になったらなんか趣味見つけようかなって思ってたし!」
「そ、そうなんですか」
正直興味がある。特にこの子が書いた小説とか。
えーと、この子、名前なんて言ったっけ?
自己紹介の時聞いたと思うんだけど……。
「えーと、あ、ごめん、まだ君の名前覚えてないや……」
「あ、私、小嶋和奏っていいます」
「あ、僕は宮沢大輝」
「えーと、宮沢君は小説に興味あるんですか?」
「うん!そうだね。小説に興味があるっていうより、僕と同じ高校生の小嶋さんが、どんな小説を書くのか興味あるんだよね」
「や、やめて下さい!まだ人に見せられるようなものじゃ……」
「でも誰かに読まれないと、小説が可哀想じゃない?」
「小説が可哀想……?プっ!あははっ!!」
「え?何か変なこと言った?」
「だって!小説が可哀想って!……あはははっ!」
「で、でもそうでしょ?せっかく書いたのに読まれないのは悲しいよ」
「そ、そうですか?」
「そうだよ!だからもし嫌じゃなければ、小嶋さんが書いた小説読みたいな!」
「え、ええ?」
「だ、ダメかな?あっ、ちゃんとした感想が言えるように、僕も小説とか読んでおくから!」
「え?小説、読むんですか?」
「今までは読んだことあんまりないけど、これからは色々読んでみようかと……」
「そ、それなら……。私も小説の感想とか言い合える友達欲しかったんです!」
「ほ、ホント?じゃあ、小嶋さんが面白いと思った小説教えてよ!」
「いいですよ?あ、じゃあ、私沢山小説持ってるから、いくつかピックアップしてきましょうか?」
「え?いいの?!」
「はい、お貸しします。そのかわり、読んだら感想を聞かせて下さいね?」
「そのくらいでいいなら、喜んで!」
「はい。じゃあ、明日持ってきます」
「ありがとう!」
初めて話したのに、こんなに自然に会話できるなんて……。
どうしてだろう?
小嶋さんも僕と同じく、目立つタイプじゃない。
休み時間は、一人で静かに過ごすタイプだし。
だからかな?
大人しい性格同士、気が合ったとか?
でも、小嶋さんの笑顔、可愛かったな。
莉緒みたいに、誰もが認める美少女ってワケじゃないんだけど。
凄く愛嬌があるっていうか。
僕は小嶋さん自身に興味があるんだろうか。
前から小説に興味があった訳じゃない。
小嶋さんがどんなのを書いてるか気になっただけだ。
不思議だ、今日初めて話したのに。
もっと小嶋さんと話したいな。
高校に入ってから初めて楽しい気持ちになれた。
これって、友達ってことでいいのかな?
嬉しい、小嶋さんが友達だったら。
自分の表情はわからないけど、僕は今、嬉しいって表情になっているんだろう。
と、莉緒と目が合った。
莉緒は厳しい表情で僕を見つめていた。