3 高校生になった二人
「おはよー!大輝!」
「あ、おはよう、莉緒」
僕と莉緒はいつも一緒に登校している。
莉緒が僕の家に迎えに来るからだ。
これは小学校の頃から変わっていない。
だけど、僕の心はいつもとは違った。
結局僕は昨日、一人で家に帰った。
莉緒からはメッセージで、今日は一緒に帰れない、と連絡があった。
あの後、一人で帰りながら考えた。
よくよく考えたら、莉緒は何も悪くない。
僕と違って、友達もすぐに出来た。
だから、友達の誘いを受けてもおかしい事なんてない。
ないんだけど。
今まで僕と一緒に居たじゃないか。
僕だけと一緒に居たじゃないか。
どうして急に?
それに、僕と目があった時、どうして笑ってたの?
僕は間違いなく、沈んだ表情をしていたはずだ。
それなのに、何故?
「どうしたの?大輝、元気ない?」
「え?あ、いや、大丈夫」
「そう?あ、昨日の事?」
「え、いや」
「しょうがないの、入学したばっかりだから、友達は作っておかないと!」
「あ、ああ、そうだね」
「大輝も頑張りなよ?まだ今日で三日目だから、大丈夫!」
「う、うん。頑張るよ」
「そうそう!頑張って!」
だめだ、莉緒と話していても笑えない。
情けない。
こんな事で。
「あのさ、莉緒、きょう」
「おーっす!!莉緒!おはよ!」
「あ!おはよ!昨日楽しかったね!」
「おう!莉緒って歌上手いんだな!!」
「そう?あんまりカラオケとか行かないからわかんないよ」
「いや、上手いって!お世辞抜きで!」
「ありがと!また誘ってよ!」
「おっと、マジで?じゃあさ!今日駅前のカフェ行かねえ?」
「駅前のカフェ?どんなの?」
「いや、昨日一緒にカラオケ行った女子いたじゃん?その子が言ってたんだよ!」
「そうなの?」
「そう!ケーキが美味いんだって!俺、甘党なんだけど、一人じゃ行けねえし。」
「ふふっ。甘党なんだ?」
「いや、そうなんだよ、頼むよ!一人じゃ恥ずかしいんだよ!」
「オッケー!昨日の子達も一緒でもいい?」
「オーケーオーケー、じゃあ莉緒が声かけといてよ!」
「了解!」
「あ、隣に居るヤツ、誰?」
「え?あ、同じ中学の子だよ」
「へえ、そうなんだ」
「あ、は、はじめまして、僕みやz」
「あ!だったらさ!昨日カラオケ行ったやつらでカフェ行こうぜ!」
「そうだね!そうしよっか!」
「いやあ、嬉しいぜ!こんなに早くみんなと仲良くなれて!」
「そうね、みんないい人っぽいね!」
「だよな!これから一年楽しくなりそうだよな!」
「ふふっ。そうだね!」
会話にも入れず、僕は俯くしかなかった。
凄いな、莉緒は。
何で僕はこんなに情けないんだ。
結局教室までこの状態は続いた。
そして教室に入ってからも、莉緒は友達に囲まれて楽しそうだった。
今までの僕と莉緒は何だったんだろう。
莉緒は無理して僕の傍に居たんだろうか。
いや、そんなワケない。
もしそうだったら、同じ高校に行こうなんて思わないはずだ。
なら、何で急に?
僕以外の人たちと?
高校入学して間もないから?
しばらくすれば、莉緒は僕の傍に戻ってくる?
わからない。
俯く僕は決して明るい表情ではないはずだ。
だけど。
僕と目が合った莉緒は、やっぱり嬉しそうに笑っていた。