1 僕と莉緒
「大輝はいいなあ、頭良くて!」
「そうかなあ?」
「そうだよ!私、大輝と同じ高校行けるかな?」
「うーん、今のままじゃ厳しいかもね?」
「でしょ?勉強は頑張ってるんだけどなー」
「……一緒に勉強する?僕のわかるところなら教えるよ?」
「本当?!お願いしてもいい?」
「いいよ。」
「良かったあ!大輝と同じ高校行きたいんだもん!」
「そ、そう?」
「そうだよ!今までずっと一緒だったんだから!」
「まあね。じゃあ頑張らないとね?」
「りょーかい!頑張ります!!」
中学三年生の夏、部活を引退していよいよ受験勉強に本腰を入れないといけない時期、僕と莉緒は学校の帰り道、そんな会話をしていた。
僕の名前は宮沢大輝。
中肉中背、勉強はまあまあ出来るが、目立たないタイプ。
趣味は特になし、強いてあげるとすれば、ゲームくらい。
そして、僕の隣を歩いているのが長沼莉緒。
同い年の小学校からの幼馴染だ。
莉緒は僕とは違い、活発な子で小さい頃は僕の手を引いて、外に連れ出すような子だった。
僕は率先して外に遊びに行くような子供ではなかったのに、莉緒はいつも僕の家に来て、家の中で遊ぶこともあったが、大体は外に僕を連れ出した。
何度か言った事がある。
「外で遊ぶのが好きな子が他にもいるでしょ?なんでいっつも僕を連れてくの?」
そうすると決まって、
「私が大輝と遊びたいから!!」
って返って来た。
「僕、家の中で遊ぶ方が良いな……。」
と、ちょっと困った感じで言うと、莉緒は笑いながら、
「いいからいいから!!お外、楽しいよ?!!」
と言って、僕の手を取る。
家は確かに近いが、他にも同級生で家の近い子は居た。
何故か僕といつも一緒にいる、莉緒。
小学校高学年にもなると、みんな、誰が好きとか、そういう話にもなる。
「大輝、いっつも莉緒と一緒にいるよな?莉緒の事好きなんじゃないの?!!」
「ち、ちがうよ!莉緒は友達だよ!!」
このくらいの年の男の子は、そういった冷やかしが大好きだ。
僕は冷やかされるのが嫌だった。
と、
「大輝!一緒に帰ろう?!」
「あ、り、莉緒?!」
今、ちょうど冷やかされていたところだったのに。
「ほーら、やっぱりな!!大輝、莉緒の事好きなんだろー?!
「ち、ちがうって!!」
「ふふっ、大輝、いいから帰るよ!」
「わ、わかったから、引っ張らないでよ、莉緒!」
「お似合いお似合い!!」
後ろから揶揄う声が聞こえる。
あー、もう、めんどくさいな。
そんな風に困った顔をしていると、
「別に言いたい様に言わせておけばいいんだよ?」
「だって、揶揄われるのはいい気分じゃないよ?」
「気にしない、気にしない!」
嬉しそうに微笑みながら、僕の手を引く莉緒。
揶揄われるのが嫌ではあったけど、相手が莉緒ならまあしょうがないか、とも思える。
長い付き合いだし、莉緒はまあ、その、可愛いし。
何故か小さい頃から、僕と一緒に居てくれるし。
他に仲の良い女の子の友達もいるけど、ダントツで僕と居る時間が一番多い、と思う。
そんな感じだったから、僕も自然と莉緒を女の子として意識するようになった。
冷やかされたりしてたから、余計に、かな。
莉緒も僕の事、嫌いじゃないはず。
そうだよね?だって、嫌いだったらこんなに一緒に居ないよね?
てことは、好き?なのかな?僕の事?
そんな感じで、ずっと莉緒とは一緒に居た。
だから、高校も一緒に行けたらと思い、勉強を教えるのもいいか、と思った。
それからは、二人で頑張った。
莉緒の成績も、徐々に上がっていった。
そして、努力の甲斐もあり、同じ高校に二人で合格した。
「やった!!合格!!受かってたよ、大輝!!」
「うん!頑張った甲斐があったよ!!」
「これで高校でも一緒だね!!」
「そうだね!僕も嬉しいよ、莉緒!」
本当に嬉しかったんだ。
莉緒は頑張った。
一緒に勉強し始めたときは、なかなか思うように成績が上がらずに、莉緒は心が折れそうになった。
「やっぱり大輝は頭が良いんだね、私には無理かも……」
「そんなことない!まだ始めたばっかりだから、直ぐには結果に出ないだけだよ!」
「そう……かな……」
「そうだよ!前までわからなかったところも、出来て来てるよ!」
「ほんと?」
「うん!絶対大丈夫!」
何とか元気づけて、ここまで来た。
「もしもし、お母さん?!受かってた!え?うん、ありがと。うん、うん、わかった、うん、じゃあね」
「喜んでた?」
「うん!それはもう!!あ、でね?大輝も今日ウチにおいでってお母さんが!」
「え?僕も?」
「大輝が勉強みてくれたおかげだから!お母さんごちそう用意してるって!」
「わかったよ、ウチにも連絡入れとくよ」
そう、嬉しかった。
この時は本当に。
今は?
さあ、どうだろうね。




