大丈夫
1、2時間程経っただろうか。私は目を覚ました。
あの景色を見てからというものの、以前に比べて欠けていた私の一部がほんの少しだけ戻ったような気分だった。
今は珍しくIが居ないようだ。することもないので、再びあの扉を開いてみることにする。
Iは居ない。でも、もう怖くない。だって、Iが教えてくれたから。
自分の体よりも一回り小さな扉を開く。今日はどんな景色が見られるのだろう。
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目に映るのは、前回とは少し違う場所。どうやら小学校の門のようだ。
「大丈夫、私はずっと一緒に居るよ。」
「ぅぅ、ありがとう。」
ほんの少しの幸せと、多くの絶望を感じる。私と同じ景色を見ている少女―優輝―と、一緒に居る泣いている少女―舞華―は互いに互いを1番信頼し、またどちらも他に友人は居ないようだ。
……失った、の方が正しいだろうか。
今回はドアを開けた瞬間に、優輝の記憶が少しだけ流れてきた。
この2人は、虐められてしまったらしい。
2人以外のクラスメイトからの暴言、嫌がらせなど。
教師や親に気付かれない程度のものが多いようだ。
その原因がどちらにあったのか、どちらともなのか、それは分からない。
傍から見れば2人は悲劇の少女達で、この出来事はバッドエンドだ。
しかし、その空間の中だけで見れば、それは。
それは、2人の友情の一片。
2人の友情が決して揺らがないことを示すための、ただ一つのイベントに過ぎない。
私はそれを見て、また何かが満たされる感覚がした。きっと、この友情と近しいものが私にもあったのだろう。
私はドアを閉じ、壁の本棚のうちから1冊の本をとり、開いてみた。
本を読むことに意味は無い。だが、今はあの友情の余韻を楽しむ時間を作りたかったのだ。