「あら、」
珍しい。お客様ね。
「いらっしゃい」
目の前の少女が言う。
フードを被っていてよく見えないが、真珠のような白い肌に、吸い込まれるような美しい黒髪をしていることは分かった。それと同時に、少女からは人ならざるもののような不気味さを感じた。
少女から目線を離し、辺りを見回す。
どうやら密室。6畳くらいだろうか。全体的に薄暗く、窓はないようだ。壁は本棚のようになっていて、色褪せた、かつては色彩豊かだったのだろう背表紙が壁を彩っている。
そんな狭い空間に紫色のぼんやりとした光が満ちていたが、光源は分からなかった。
ここはどこ……?
「ここは、そうね……私の部屋よ。」
そうなんだ。何も分からないままではあるが、その事実は私の胸のどこにも引っかかることなく、ストンと落ちた。
暫く無音の空間が続き、私はふと気が付いた。
かつて無いほどに自分の心が安定し、落ち着いている。
こんな状況なのに落ち着いていて良いのかと思うと同時に、どこか心地よくて、まあいいかと考えるのをやめた。
ところで、目の前の少女は誰なのだろうか。
「私のことより、まずは自分のことを気にしたら?」
私?
私は……あれ……?
「ほら、だから言ったのに。名前が思い出せないんでしょう、私が付けてあげる。ここではあなたはUよ。いいわね?」
分かった。私は、U。
「それでいいわ。それじゃあ私の番ね。私はIよ。」
I……さん?
「呼び捨てでいいわよ。私とあなたの仲じゃない。」
I。
「うん、良いじゃない、U。
……って、もうこんな時間? U、今日はひとまずお別れよ。」
何故?まだ私は話したいこともあるし、あなたは私にとってとても重要な存在……な気がする……。
「あなたをずっとここに留めている訳にはいかないもの。それじゃあね、U。また会いましょう。」
少しづつ体が重くなっていく。
Iの方を見ると、もう既に私に興味は無いらしく、本棚の本の1つを手に取っていた。
Iの存在に名残惜しさを感じつつ、襲ってくる睡魔に負け、私は意識を手放した。
連載が始まったばかりですが、私の用事が暫く忙しくなってしまうので、約2日に1回ほどのペースでの投稿を考えております。
ペース変更の際は再度連絡を致しますので、何も考えずに楽しんでいただけると幸いです。