5.あふれ出るカスタードクリーム
「良夫ったら、こんなところで寝たら風邪ひくでしょ」
ママに揺り起こされ、ぼくはソファーで目を覚ました。
「あれ、帰ってきたの?」
「なに寝ぼけてるの。ママは今日、ずっと家にいたじゃない」
「ただいま」とパパが玄関からやってくる。
「久しぶりに安寧堂のケーキ買って来たぞ」
わーっと妹が自分の部屋から走り出てくる。
「あたし、ミルフィーユ! あ、やっぱチョコもいいな」
「おいおい、ひとり1個だぞ」
「いいじゃない。どっちも半分こにすれば」
「半分こか。それもいいな、ママ?」
「ええ、なんだか懐かしいわね。でも4個あるんだから、4分こじゃない?」
「たしかに。家族みんなで4分こか! でも、シュークリームを4等分するのは難しいぞ。中のクリームがあふれてしまう」
「あら、いいじゃない。安寧堂のシュークリームは、あふれるぐらいたっぷり入っているカスタードクリームが売りなんだから」
「ねえ、早く食べようよ!」
これって……すべてうまく収まったってこと?
なんだかまだ眠くてそのままうとうとしていたら、零がとことこやってきて、
「お疲れ様」
と言って、ぼくの口にシュークリームを押しこんだ。
「何するんだよ」って言おうとしたら、カスタードクリームの優しい甘さが舌いっぱいに広がった。
よかった。ぼくの小さな世界は平和になったんだ。