VRMMOのNPCってなんであんなに…
「どうした? 新人くん。
道具屋でぼったくりにでも遭ったか?」
今日はクランの新人育成のため、少し遠出をすることになっている。準備のためにNPCが運営する道具屋へ寄ったのだが、どうもそのあたりから新人くんの様子がおかしい。
「ぼったくりに遭わないことは、先輩が一番わかってるでしょ」
「まぁな」
「先輩、どうしてオフラインのゲームのNPCにはあんなに個性豊かなAIが搭載されているのに、オンラインのNPCは機械的な対応しかしないのか、知っていますか?」
「知ってるよ」
「なぜですか?」
「ワールドワンダープロジェクトって知ってるか?」
「知ってますよ。今のVRゲームの礎を築いた国際的なプロジェクトですよね」
ワールドワンダープロジェクトとは、世界中の学者たちが集まり、VR上にもうひとつの世界を創造するという壮大な計画だった。
「さすがに知ってるか。そのプロジェクトがどうなったかも知ってるか?」
「実証実験が終わって、サーバーを停止したんじゃないですか?」
「……表向きはな」
「表向き?」
「プロジェクトの最終段階では、一般から抽選で選ばれたテストプレイヤーのログインが始まった。だが、そこからプロジェクトが中止されるまでは、あっという間だった」
「何があったんですか?」
プロジェクトで作られた世界は、まさに"異世界"と呼ぶにふさわしいものだった。
基礎となる物理法則や魔法の概念を設定し、数百年分の時間をシミュレーションした結果、その世界には独自の文化や流通網が確立されていた。
そこへ"異分子"であるテストプレイヤーたちが投入されたことで、世界は大きく揺らいだ。
プレイヤーとしての性能を存分に発揮した彼らは、例えるなら"不死の軍団"。
高効率で成長し、昼夜問わずモンスターを狩り続けては市場に素材を流し、需要を上回る供給を生み出して経済を混乱させた。
それまで狩猟を生業としていた住人たちは職を失い、プレイヤーと住人の間には瞬く間に深い溝が生まれていった。
そして——決定的な事件が起こる。
プレイヤーによる住人の殺害。
あるプレイヤーが、ただ快楽のためだけに街中で少女の首をはねた。
その事件をきっかけに、住人たちはプレイヤー排除へと動き出した。
全てのプレイヤーが敵対視され、仲間を失い、逃げ惑うプレイヤーの中には深いトラウマを負った者もいたという。
多くの犠牲を払いながら、住人たちはプレイヤーを排除することに成功。
その時点で、プロジェクトの中止が決定されたのだった。
この事件を教訓に、不特定多数が接続するオンラインVRゲームにおいて、高性能AIを持つNPCの導入は禁止された。
その結果、現在のVRMMOのNPCは、昔のような定型文しか話さない存在に"退化"したのだ。
「……ざっとまとめると、こんなところだ」
「そんなことがあったんですね……。どうして先輩は、そのことを知っているんですか?」
「……俺も、テストプレイヤーだったんだよ」
「あ……」
「あれは、地獄のような光景だった。
そんなことになっているとは知らずにログインしたら、昨日まで仲良く話していた住人に、鬼のような形相で刃物を向けられた。
何もわからないまま逃げ出し、街に出ると、そこら中で悲鳴が響いていた。
目の前では、住人がプレイヤーに馬乗りになり、何度も何度もナイフを突き立てていた……」
「先輩! 落ち着いてください!
わかりました、もういいです。……それ以上は、聞きたくないです」
「……すまん。話しすぎたな」
「いえ……」
「まぁ、そんなわけだから。
商売の駆け引きを楽しみたかったら、プレイヤーの店を利用するんだな」
「……わかりました」
——彼には言わなかったが、プロジェクトのサーバーは今も稼働している。
あのプロジェクトに関わった多くの人間が、「サーバーを停止することは、すべての住人を殺すことと同じ」と考え、その決断を下せなかったのだ。
今でも、あの世界には彼らが"生きている"。
お読みいただきありがとうございました。
久しぶりに書いてみました。
VRモノのNPCについてちょっと考えていたら思いついたので会話形式で書いてみました。
自分でもVRモノを書いたときにNPCを人間らしく書いてますが、そこが一番ファンタジー要素な気がしています。
生成AIにて主題歌を作ってみました。
よかったら聞いてみてください。
ランキングタグでリンクを張ってみたけど怒られないかな