第5話 悪ノリはほどほどに
お久しぶりです
さて、動力源不足で作成を諦めた武器はいくつかあるんだが⋯⋯今後の事を考えるとここらで小盾当たりを作って置いた方がいいだろう。
ついでに回転するようにすれば丸鋸になって一石二鳥だな! えっ、骸骨車輪? 何の話か分からないな。
拠点(?)に戻り、加工をしようと思ったらログイン制限のアラートが鳴った。時計を見れば、日付が変わって半時間。一回寝るか。
「ログアウトっと⋯⋯」
現実に戻り、ヘッドギアを外してそのまま寝る。直前まで頭を動かしていたからか中々寝付けないが、目を閉じてじっとしていたら朝になっていた。どことなく寝起き特有の気だるさがあるため、きちんと睡眠が取れたのだろう。疲れが取れているかは別として。
朝飯どうすっかなぁ⋯⋯。冷蔵庫を見るが、そこには賞味期限ギリギリのヨーグルトといつ買ったか覚えていないミルクジャムがあるのみ。食パンがまだあるのが救いだろうか。流石にヨーグルトとミルクジャムは合わないだろうしな⋯⋯。
食パンをトースターに入れ、ヨーグルトはパックのままスプーンを突っ込む。フロストシュガーあったっけ⋯⋯? 蜂蜜しかねえからこれでいいや。
焼けたトーストにミルクジャムを塗って食べる。今日の朝食は乳製品多めだな。
栄養バランスのために青汁を飲み、数分休憩してから軽い運動。シャワーを浴びてログイン。
接続画面を経由した後、再び廃工場に降り立った。
「寝る前の俺は多分疲れてたんだろうな⋯⋯」
何が言いたいのかと言えば、せっかく動力源が手に入ったのに、わざわざ俺が一人で戦う必要なんてあるのか? だ。
より正確に言うなら、ただ変形するだけの武器って何も面白くなくないか? せっかく基板が手に入ったなら、もっと面白いもん作りたくないか? 普通の武器作ったって常識の範疇じゃないか?
「スゥー⋯⋯狂気的進化をよお! 常識の範疇でよお! 行えるなんてよオ! んな事ぁあるわけねぇよなあ!? このゲーム的にありえねぇ!! そん常識俺がぶっ壊してやるぜ!!」
ついでだからトビウオも改造すっか!
物理学? 機械工学? んなもん前提だろうが。この種族と開始地点で生きてく上ではただの前提。重要なのは魔力という素敵エネルギーと、永久機関という素敵装置の二つを活かす机上の空論。それをこのゲームで実現すればいい。
まず手始めにトビウオを自動化。これ自体は俺が自力で動かしてた分を組み替えるだけでいい。次に自律式のロボットにすることと、その後の拡張性を持たせること。
変形機構を付けると変形部が脆弱化するという問題があるが、オリハルコンの強度があればクリア出来る程度の問題だ。移動方法は安定性を鑑みて無限軌道ことキャタピラ大先輩。
あとはマザーボードの設定を⋯⋯パーツ足りんのかな。俺、組み上げることは出来るけど、パーツ自体を作ったことはねえぞ。まあ、多分なんとかなるだろ。
とりあえず動作の設定を⋯⋯する為の装置がない。やっべぇ⋯⋯どうしようこのやるせない気持ち。自由度の高さが返って仇になってるじゃねえか。
「今どきマザボ無しで動いてる機械なんかねえよバーロー⋯⋯」
どうにかならないものかとダンゴムシのマザーボードを見る。
CPUらしきものやメモリチップらしきものがあり、現実でのコンピューターと大して変わらない印象を受ける。
プログラミングか⋯⋯スキルでどうにかならないもんかね。
ステータス画面を開く。
『名前:エクスマキナ
種族:オリハルコンドール
Lv:23
筋力:57
耐久:83
敏捷:32
魔攻:1
魔防:85
器用:54
SP:61
スキル:鑑定Lv3 HP自動回復Lv3 捕食 集合体 改造進化 自己改造 機械工作』
SPはステータスにしか使えねえしな⋯⋯スキルは行動で生える位しか知らんし。スキルの取得って行動以外でどうすればいいんだ?
ヘルプ⋯⋯なになに? 人から教わる、本等から学び取る、他者から与えられる、行動により取得する、種族が変わった時に増えることがある。
種族変化と行動取得以外ここじゃ使えねえな?
ワンチャン捕食で何とかならないかな⋯⋯?
「『捕食』」
『魔力基板×1が追加されました』
プログラミングの項目は⋯⋯ありますねぇ!
やるやん捕食! お前がナンバーワンだ! やっぱ捕食なんだよなぁ!
「プログラミングは⋯⋯なるほど、結構簡略化されてんだな。ブロックパズル形式だから、わざわざ専用の言語を覚えなくて良いのは楽」
ざっと見た感じ、実際に使われてるプログラムをパズル化したものだと思われる。書き方的に多分プラプラかそれに近い言語か? 実際のプログラムをパズル化してゲーム内で使えるとかここの運営やっぱりイカれてるわ(褒め言葉)。
プログラミングができるならこっちのもんよ。多分単位はミリだろうし、数字はこれくらいでいいだろ。実際に測った訳じゃねえし、そこは手探りのトライアンドエラーしか無い。
「⋯⋯ふぅ、よし。とりあえずエラー無しっと。保存もコピーもヨシ! 簡易的なキャリブレーションとAIを組んでみたが、動いてくれるかな?」
トビウオにマザーボードを取り付け、マシンコアと接続する。マシンコアの方も起動させれば⋯⋯よし、後は外装をつけるだけ⋯⋯む?
外装をつけたらシステムメッセージが飛んできた。
『テイム成功!
名前:〈未設定〉
種族:オリハルコン自律バリスタ
Lv:1
筋力:30
耐久:50
敏捷:20
魔攻:1
魔防:70
器用:30
スキル:弩弓術Lv1 MP自動回復Lv1 改造進化 雷弱点』
テイム扱いなのか⋯⋯。
「名前はもちろんFF-ガー・レガレクス⋯⋯だと長いな。トビウオだと可哀想か⋯⋯レクスにしよ」
未設定となっている部分をタップし、キーボードで入力する。
『名前:〈レクス(FF-ガー・レガレクス)〉
種族:自律式オリハルコンバリスタ
Lv:1
筋力:30
耐久:70
敏捷:20
魔攻:1
魔防:70
器用:30
スキル:弩弓術Lv1 MP自動回復Lv1 改造進化 雷弱点』
うーん、俺が始めた頃とは桁違いの強さだ。魔攻以外最低でも20倍違う。耐久力の高さはオリハルコンだからだろうな。硬い後衛とかクソゲーかよ。雷弱点がどれほどの倍率か分からないとはいえ、それ以外はほぼ対応できるだろうし⋯⋯将来が楽しみだな。
それはそれとしてまた素手に逆戻りしたな。ダンゴムシを倒すのはレクスでいいとして、何かしら賄いで武器作るか⋯⋯。
「でもなあ⋯⋯ただ武器作っても面白くないんだよなあ⋯⋯」
どうせ相手もオリハルコンだし、生半な威力じゃ弾かれるし⋯⋯斬撃より打撃の方が良いか? でもオリハルコンってそこそこ弾性あるんだよな⋯⋯。
やはり貫通⋯⋯刺突は正義だったか。遠距離はレクスで対応できるだろうし、近距離用に何か考えた方が良いだろうな。
剣道三倍段に倣って槍は⋯⋯ありっちゃありだが面白みに欠けるな。どうせ槍なら変形したり、鎧になったり、反動推進で飛んで行ったりしないと面白くない。
「見た目で圧かけられるようじゃないと面白くないよなあ⋯⋯圧? 圧力⋯⋯万力? そうだ、蟹にしよう!」
突然大声を出したからか、レクスが一瞬停止した。ごめん。
圧砕機とかいうあまりにも求めるものに合致した重機の構造をベースに、油圧機構をからくり機構で代替したものを作る。
今回は重さがあまり関係ないから、サイズは見栄え重視で良い。着脱出来る作りにして、両手で一対のセットにしよう。あと腰辺りで下げられるようにカラビナも作っておこう。
外装は蟹ということで、ハサミがデカい事に定評のあるシオマネキ⋯⋯いや、タスマニアンキングクラブことタスマニアオオガニ⋯⋯それとも甲殻類最強のハサミを持ったヤシガニの方がいいか? でもヤシガニってヤドカリの仲間なんだよな⋯⋯。
見栄え重視でタスマニアンキングクラブにしよう。レクス(ラテン語で王)にキング(英語で王)で語感もいい。
「タスマニアンキングクラブが武器かあ⋯⋯火星行ってゴキブリと戦うのもありかもしれねえな」
そんなわけでパパパっと組み上げて完成したのがこれだ。
『テイム成功!
名前:〈未設定〉
種族:自律式オリハルコン圧砕蟹
Lv:1
筋力:50
耐久:70
敏捷:10
魔攻:1
魔防:70
器用:30
スキル:戦鋏術Lv1 MP自動回復Lv1 改造進化 雷弱点』
⋯⋯なんで、自律式になってるんですかねぇ?
魔力基板使ってねえんすけど⋯⋯もうちょっとこう、脈絡というか⋯⋯あ、ダメ? ダメですか、そうですか。
おかしいなぁ⋯⋯。スキルにも関係しそうなものは無いんだけど⋯⋯体か? 蟹の見栄えと一つに纏められるという利便性を考えて体を作ったのが良くなかったのか?
謎は深まるばかりだが、とりあえず名前を考えないとだよな⋯⋯。今回は海鮮キメラじゃ無いから、タスマニアキングクラブしか名前にならん⋯⋯。
圧砕蟹でクラッシュクラブ? Crush CrabでCCとして、タスマニアは関係ないからオリハルコンかアトランティス⋯⋯そうだ、どうせ自律式になったんだしこいつもキメラにしよう(国家錬金術師並感)。
時速80kmのパンチ力を持つというモンハナシャコ、外見の都合上ボツになったヤシガニを混ぜ、それっぽい形に整形したらかーんせー。
名前はCC-キングオラトリア。略称はキング。足回りはヤシガニとシャコの良いとこ取りをしてみた。
『名前:〈キング(CC-キングオラトリア)〉
種族:自律式オリハルコン破壊蟹
Lv:1
筋力:75
耐久:70
敏捷:10
魔攻:1
魔防:70
器用:26
スキル:格闘術Lv1 戦鋏術Lv1 MP自動回復Lv1 改造進化 雷弱点』
強すぎる。俺が戦闘型の能力では無いとはいえ、筋力が既に俺の1.5倍近い⋯⋯。あと名前が圧砕蟹から破壊蟹に変わったな。外見は蟹より海老に近いが。
「とりあえず、君の名前はキングだ。レクス共々よろしく頼む」
鋏を挙げて返事をするキング。
鋏の切断力の検証をしてみよう。とりあえず直径5cmのオリハルコン棒は⋯⋯切れる。おかしい。
同じ金属なんだから簡単に切れるはずがないのに、なぜ切れる? これが戦鋏術の力か? これが切れるなら、現実に存在する物質はほとんど切断できるぞ。
落ち着け、まだ慌てる時じゃない⋯⋯打撃力を確かめるんだ。厚さ1cmのオリハルコン板、こいつをどれだけ変形させられるかで打撃力を測ろう。
合図をしたらパンチするように言い、レクスと二人(?)で距離をとる。格闘術なんてスキルがあるんだから、きっと尋常な威力ではあるまい。
「防壁よし、良いぞ!」
オリハルコンの防壁に隠れ、声と挙手で合図をすると、一秒もしないうちに轟音が響いた。正直、聞いた事のない音過ぎて擬音で表現できん。
金属と金属が高速でぶつかり合った音なのだが、レクスが的を撃ち抜いた時よりもさらに大きい。更に言うなら、対物ライフルで金属標的を撃った時の音より大きい。どれだけの威力があったのだろうか?
「キング、大丈⋯⋯うわぁ」
そこにあったのは、恐らく受け止めきれなかったのだろうと推測できる的の残骸。床に固定していたはずの支柱は折れ、板そのものは歪に変形し、変形に耐えきれず破損した欠片が壁や床に突き刺さっていた。
オリハルコンの金属片が、オリハルコンのはずの壁や床に⋯⋯だ。何が起きたらこんな結果になるんだ?
人に向けて放てば、肉片と骨片が撒き散らされることだろう。ただのパンチでこれって⋯⋯。
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