表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/65

8 黒の襲来

藤側です


 コーヒーも飲み終わり、これからどうしようかと考えていた。カメリアとの合流しやすい場所は、彼女の自室だ。しかし、そこに戻る為には1人にならないといけない。

 チラリと、オピクスを見る。


「(ちょっとお花を摘みに〜って、通じるのかな?)」


 彼と目があった。


「はぅ!あ、あのね、カメリアの」


「し!下がって、僕の後ろに」


 オピクスが席から立ち上がる。

 ざわりざわりと、食堂にいた面子も立ち上がり始めた。首を捻り、不思議そうな顔をしている子もいるが少ない。大半は、入り口の方を見つめて険しい顔をしている。1秒、静寂が辺りを立ち込める。


 閉められた扉と共に、破られた。


「っ!」


 吹き飛んでいった扉が受けた衝撃が辺りを叩く。叫び声を抑えて、思わず身を屈めた。

 風が止まり、薄らと開けた目に映るのは、1人の、


「(男?女?いや、それ以前に、何?)」


「あれは、なんだ?恐ろしい強さを感じけど、気配的に人間ではない?俺達とも、違う。こ、の気配は」


 オピクスは、答えを言う前に目を見張った。 

 入ってきたソレは、美しすぎる顔立ちをしていた。今まで見てきた美を消し飛ばすような、美しさだ。美の暴力とも言えよう。

 しかし、美しい顔に目が奪われる中で、見落としてはいけないのがあった。


「うんうん。どうすれば良いんだっけ?うーん。とりあえず、暴れれば良いのか」


 ソレは、片手に掴んでいた者を落とした。余りにも無造作に。ゴミでも捨てるように。

 乱雑に捨てられたその人は、藤にも見覚えがあった。輝かしい金髪が血に染まっていた。


「リーラさ、ん」


 オピクスが漏らした声の通り、その人物はリーラであった。

 そして、ソレは彼の声を聞き漏らさなかった。意識がないように見えるリーラを掴むと、物を扱うように振り上げた。


「知り合いか?ほら、受け取れ」


「っ、やめろ!!」


 彼の叫びも虚しく、リーラの身体が、宙に浮かびこちらに向かって飛んでくる。まるでゴールにシュートされたボールだ。軽々しく飛ぶリーラを、オピクスは済んでのところで受け止めた。


 リーラの身体は、夥しい傷があった。その全てから血が滴り落ちている。オピクスからリーラを受け取った藤の手を伝い、血が床に落ちた。床に彼女の血溜まりが出来ていく。

 日常なら見ない血の量に、身体の震えが止まらなかった。


「大丈夫。魂に対しては切り刻んでないし、死にはしないさ。まぁ、痛いだろうけど」


「お前、何者だ」


「ん?分からないか?いや、分かりたくないのか。似たような気配を知ってるだろう?」


 藤の直感だが、オピクスは答えに辿り付いている気がした。ただ、それを認めたくないのではないのか。唇を噛み締めている。

 リーラの傷から、溢れ出る血をどうすべきか分からず、一番大きな傷を手で押さえつける。腹にある傷だ。内臓が見えていて、痛々しい。


「藤、リーラさんを抱えられるか?」


「しっかり抱えられないかも。後で、リーラさんに謝る」


「きっと許してくれるよ」


 傷から手を離し、上半身を抱え込む。力はある方なのだ。藤にとって一番近くの壁を睨み付ける。あそこまで走らなければならない。


「行けっ!!」


 怒号と共に、壁に向かってダッシュした。そして、食堂の片隅に避難する。

 たどり着いた後、後ろを振り向くと、ソレに殴りかかってるのはオピクスだけではなかった。食堂にいた全員が、敵に向かって殺到する。


「やっぱり、人間じゃない」


 場違いだが確信を得た。オピクスを含め、戦いを見てそう思う。人であの身体能力はおかしい。

 彼はいつの間にか、手に持つ鞭で応戦していた。周りもいつの間にか、剣やら槍、弓を持っている。身のこなしを見ても、映画の中に入ったような気分だ。

 身体能力については敵にも同じことが言える。同時に突き出された槍と剣を、易々と回避する。弓矢を手で弾く姿にゾッとした。

 だが、あの人数が相手だ。きっと勝てると信じて、戦う彼らを見た。


「ぅ、う、ゲホッ」


「リーラさん!」


 呻く声に下を向くと、リーラが少し目を開けていた。ぼんやりとした瞳が藤を写し、焦点があった。口から血を吐き出して、起きあがろうとするが彼女は、藤の服を掴みながら崩れ落ちる。


「だ、めよ。藤ちゃ、ん、逃げなさい」


「今リンチの刑執行中ですよ。それより、喋っちゃだめ。どうしたら」


「勝て、ないの。アレは」


「そーそー、勝てないだよね。この程度じゃ」


 声がした。


「不意を突かれなきゃ、お前たちも良い勝負出来たと思うよ?ま、仕事中だ。急がないと」


 声が後ろからした。


「あ、やっと、こっち見た。お前も戦うか?」


 震えながら目を見開く藤の前に、ソレは堂々と立っていた。

 目を離したのはたった数秒だっのに。数秒で、食堂にいた戦士は崩れ落ちている。全員、血を吐き倒れているのが、藤の目に映った。


「その子から、離れろ」


 血を吐き、血を垂らし、立ち上がる姿が一つ。その血の量からして、立てるのが不思議なくらいだ。優しい表情からは想像も出来ない表情で、殺気を込めてオピクスは言葉を吐いた。


 敵はオピクスに気にせず、手のひらを広げた。黒い光が集まり、一本の槍を形作った。その先を藤に突き立てるつもりなのだ。震える藤には、見つめることしか出来なく、目蓋さえ下ろせなかった。


 槍が振り下ろされる。同時に、オピクスが大振りに鞭を振るった。


「『コル・セルペンティス』!!」


「恨むなら、天を恨めよ」


 どこか狂ったような声が耳に届き、黒の光が視界を塗りつぶした。


 そうして


「は?」





 最後の力で放った技が目の前の敵に入ったのが分かった。

 敵は鞭によって裂かれた腕を気に留めず、粉塵の先を見つめていた。それは先ほど、攻撃を放った場所で、彼女がいる場所だった。


「藤っ!!」


 迫り上がってきた血と共に、叫んだ。返事はなく煙により姿も見えず、オピクスの胸中は荒れていく。


 ーーーやっと、やっと、カメリアのことを相談できる誰かに、会えたのに。

 ーーーこれで、カメリアと元に戻れると思ったのに。


「聞いてないんだけどなぁ」


 敵の声が耳を打ち、オピクスは現実を注視した。粉塵が消え、そこには、


「ゲホッゲホッ。な、に?」


 全く無傷の藤がいた。


読んでくださり、ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ