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6 会議とお菓子

カメリア側です


 シュティの言い放ったことに、スコルピオン、シャンヤン、カメリアは唖然とした。その中でも、カメリアはお先真っ暗さに、吐き気さえしていた。自分たちが全く知らない事件に、巻き込まれつつあるのを感じた。


「シュティ、お前。よりによって」


 スコルピオンが唸りながら、カメリアをチラッと見た。その様子に、シュティもしまったと目を開く。間違いなく、D級のカメリアが耳にして良いことではない。


「とりあえず、会議室に行くぞ。カメリア!」


「は、はい!」


「お前も、知ってしまったんだ。ついて来い」


 カメリアとしては、そんな事してる暇ではない。藤の元に行きたかった。

 裏で何が起きているかは、さて置き、監視カメラが作動してなかったのは嬉しい事だ。今のうちに、人間界に降りたいと考えるカメリアは、動かなかった。

 それを見て、スコルピオンが鋭い叱咤の声を出した。


「カメリア!」


「スコルピオン様、誰にも喋りません。それに、僕如きが会議に出るなんて駄目です」


「大丈夫だよ、カメリア。それに、下手人がいるとしたら危ない。俺たちについておいで」


「ーーー。ーーーー、はい」


 逆らえない。シュティの言うことは正しい上に、スコルピオンの命令も絶対だ。

 焦る気持ちを抑え、カメリアは付いていくことしか出来なかった。

 

 多くの部屋の一つだが、建物の中でも最上階にある部屋。その部屋の前で立ち止まると、スコルピオンはシャンヤンを振り返った。


「シャンヤン、誰も入らないように見張ってろ。聞き耳立てようものなら、相応の罰を」


「了解しました」


 躊躇いもなく、スコルピオンは扉を開けた。彼としては珍しい態度であり、苛立ちを感じるものであった。

 会議室。中には3人、すでに集まっていた。2人は会議の常連だが、もう1人は技術部の人間として呼ばれたのだろう。それにしても、特級と古参組がいないということは、何か用事があるのか。

 机は端に集められ、皆立って話し合いをしていた。


「ボ、ボク、分かんないよ。だっ、だって、見つけた時にはコーパ君だって、や、や、や、やられてたし」


 追い詰められているのは肩幅も大きく、大柄な男だ。だが、声は小さく、何より顔を布で隠している。オリオン派所属の研究員の一人、イプトゥだ。

 スコルピオンは、イプトゥ以外に問いかけた。


「監視室の奴らが()()()と聞いたぞ。監視室の護衛はコーパだっただろう。無事なのか?」


「ギリギリ砕けてないぜ。イプトゥが見つけた時には、意識はなかったが大丈夫だろ」


「伝達ミスだね。俺は砕けたと聞いたよ。……、心臓に悪い」


 シュティは申し訳なさそうに、顔を歪めた。男は、彼の肩を叩いて慰めた。


「ま、慌てる気持ちは分かる。なんでこんな時にって話だよ」


「(オリオン様。派閥のトップ3人が揃ってる。当たり前か)」


 スコルピオンの疑問に返答、さらに間違えたシュティを慰めたのはオリオンだ。黒のロングジャケットを着ずに腰に巻いており、筋肉質な身体がシャツの下からよく分かる。目の端の笑い皺が特徴的な男である。

 〈オリオン派〉は、個性的な天才かバカか分からぬ派閥だ。一癖ある部下を抑えるためか、本人の戦闘能力も恐ろしいらしい。


「して、その生者の姿は分からんのか?」


 次いで声を出したのが、ボティスだ。明るいピンクの短髪を指先で弄り、周りを睨みつけている。背が低いのは関係なしの威圧が、周りを襲っている。〈ボティス派〉は、三つの中で最も多い。最大派閥だ。自由さを謳っているが、オリオン派の奔放さには呆れている。

 厳しさ順で言ったら、スコルピオン派、次にボティス派、最後にオリオン派になる。


 イプトゥは何か言いたげだった。


「き、機械も、えと、……オリオン様」


「監視カメラの機器も、全部壊れてたんだとよ。生者の正体は不明だ。さーて、ボティス。スコルピオン。爺さん婆さんがいない中で、どうする?」


「解決しなければならない問題は二つある」


 オリオンの問いかけに、スコルピオンは人差し指と中指を立てた。


 一つ、紛れ込んだ生者の問題。

 二つ、監視室襲撃の問題。


「オリオン。生者を見つける機械、出来てるのか?」


「バイソンが奇声を上げながら作ってるが、遅くなりそうだ」


 カメリアは心の中で、そっと息を吐いた。藤の見つかる可能性が減ったのは喜ばしい。だが、喜びがあったのは少しの間だけだった。

 シュティが口を開いた。


「その問題、分かれていると思うかい?」


「シュティ、どういう意味だ?」


「汝、もしや生者を招いた奴が、監視室を襲ったの言いたいのか?」


「その通りだ。ボティス」


 唖然。

 思考の停止。

 カメリアは間違いなく、息を止めた。


 全く違う。全く違うのだ!そんな事はしてない!!

 そんなカメリアの思いは届く訳なく、一同は考え込むような表情をした。快活でよく笑い飛ばすオリオンでさえ、眉間にシワを寄せている。

 その時、オリオンと目があった。目が開き、よちよち歩きをする赤ちゃんを見つけた様な顔をした。


「カメリアじゃないか!元気にしてたか?おいおい、スコルピオン。この子をなんで連れてきた」


「話を聞かれた。周りに言われては困る」


「この子は、お前の言い付けを破る奴じゃないだろうに。ほら、カメリアが不安そうな顔つきになってる。ガム、いるか?」


「オ、オリオン様。大丈夫です」


「ガムなんて、こんな時に食べれるか。アホオリオン。ほれ、干菓子(ひがし)をやろう」


「ボティス、おめぇ、なんて古臭いのを」


「汝、我になんか言ったか?」


 固まるカメリアを前に、二人は睨み合いながら、ガムと干菓子が渡される。


「あー、今持ってないな。ごめんね。カメリア」


 申し訳なさそうに頭を掻く、シュティ。


 はっきり言って、何が良いか以前に、この場で食べることが無理なのだ。スコルピオンの目があるところで、飲み食いなんて出来ない。何も口に含んでない今でさえ、唾がない。

 現にスコルピオンの目線が当たって、痛い。


「カメリア」


「っは、はい!!」


「食べないのか?」


「!!!?」


 今日初めて、カメリアはスコルピオンの顔をまともに見たのだった。

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