願望たるや 01
「そうね」
ソファに座って女はゆっくりとした口調で言った。流暢な態度に隣にいる少女は不満を募らせ、隣に座り早く説明しろと繰り返す。
「私達の事を説明するには長い話をしなくちゃいけない」
女はそう言いながら、腕組みをし壁に寄りかかる男を一度見る。
彼は相変わらず眉間に皺を寄せたまま考え事をしているようだった。彼から話す気は、コミニュケーションをとるつもりは毛頭ないらしい。
それでもいいと女はゆっくりと語り始めた。
「どこから話をしましょうか。お父さんがティオグに護衛を頼んだの。あれは……」
☆ ★ ★
西の方角にある寂れた港。
「あの娘を護衛すればいいんだな?」
ティオグは前金を受け取りながら男に言った。視線の先にはまだ十代半ばの少女いる。彼女は悲しみに暮れる母親と別れの挨拶をしている。
「あぁ。娘を……リュカをくれぐれも娘を頼む」
どこかくたびれた父親はそう言って、ティオグの手を掴んだ。その力は思った以上に強く、いかに娘を心配しているのかが分かる。
「再確認したい。彼女の――……リュカの精神が不安定になると魔法が暴走するんだな?」
ティオグが尋ねると先程まで泣き出しそうな父親の表情は一瞬にして固まった。彼は掴んでいる手にさらに力を込めて頷いた。
「あぁ。泣き止むまで制御出来ない。魔導師の元で修行すると決まったが……。その魔導師は己から来いと手紙を寄越した」
父親はそう言って何度も読み返した手紙を彼に渡した。
ティオグは一瞬その紙を見て嫌な顔をした。その表情を見た父親は彼が文盲だという事を思い出し、申し訳なさそうに手紙をたたみ直し、彼に渡した。
「魔導師は未来を視た。護衛だけではない、時刻も、乗る船も指定した。困難になると思うが、それでも得るものは大きい。そう言っていた」
「期待に応えられるよう努力する」
ティオグはそう言ってこちらに近寄ってくる少女に会釈した。