コント 「赤いくつ」
ツッコミ役(以下ツ)が客を気にしながら困り顔でボケ役(以下ボ)を舞台上で待っている。二人とも漫才師の設定。
そこへボケ役がもっと困り顔で出てくる。しかも、つま先立ちで急いでやってくる。(クラシックバレエのいわゆる足五番、足を交差したままのつま先立ち)履いている靴はなぜか赤い。
※ ボケ役は最初から最後までほぼつま先立ちかつ、片足をあげたりジャンプの動作があります。本作はアンデルセン童話の赤いくつから想起したものです。
ツ「おいっ、お前遅刻やぞ。それになんでそないにつま先立ちやねん」
ボ「よくぞ聞いてくれました」
ツ「ふん」
ボ「あのな、さっきまで川におってな」
ツ「なんでまたそないなところに」
ボ「水きり遊びや、オレ、うまいねんで」(水きりのジェスチャー)
ツ「ふん」
ボ「夢中で遊んでたら、くつを落としてな」
ツ「ふん?」
ボ「なんかアマビエみたいなのが出て来てな」
ツ「えっ」
ボ「金色のくつと、銀色のくつと、どっち落としたのかと聞いてきてな」
ツ「お前、遅刻の言い訳もっと上手にできんか、いくらなんでも冗談やろ」
ボ「オレもな、冗談やろ思た…ほんで、冗談で、アマビエに赤いくつやあ、と言うたらな」
ツ「言うたんか」
ボ「言うた。ほんで、気が付いたら赤いくつを履いて、かかとを下ろされへんようになってん、どないしよ」
(ツは、しゃがんで、ボの赤いくつを見る。ボは懸命に足を下ろそうとするがずっとつま先立ちのまま)
ボ「とりあえず、このまま走ってきてん」(つま先立ちのまま走る動作)
ツ「アマビエはどないなった」
ボ「どっか行ってもた。なんでもええから助けてくれ」
(ツはまだ半信半疑で両手でボのひじをつかみ下ろそうとするが、できない。くるっと二人でフォークダンスのような回転になる)
ツ「つまりお前はアマビエに嘘ついてからかったから、こないなってもたんやな」
ボ「なんでもええから助けてくれ」
(ツは今度は両手でボの肩を下に押すがつま先立ちのまま、ボの両手が広がる)
ツ「え、なんやお前この手は」
ボ「いや、自動的にこないなる」
(ツ、腕をあちこち抑えるたびに、ボの腕が優雅にしなる。そのうち、足も上がりだす。ツは眉を寄せ腕組みしながら、盆踊りのようなバレエを眺めている。踊っている間もボはツにすがりつくようなまなざしだ)
ツ「わかった。お前、バレエの赤いくつや。それや」
ボ「なんや、それ。オレ、バレエなんかしたことないで」(そういいつつ踊っている)
ツ「アンデルセン童話の赤いくつの話を知らんのか。はいてる限り永遠に踊るやつ、そら、今も足が動いてら」
ボ「ほんまや、でも、オレ踊ろうとしてないでぇ」(泣きそうになっている)
ツ「アマビエにうそついたからや、な、せやろ」
ボ「おう」
ツ「アマビエを探して謝るしかない。それか、このまま踊って暮らすか」
ボ「いややぁ」(同時に激しくジャンプする)「いややぁぁ~」
ツ「ほな、みなさんこういうわけで漫才中止ですわ」
ボ「いややああ」(そのまま激しく踊る)
ツ「お、結構うまいやん。そのままどっかのバレエ団行って雇ってもらえ」
ボ「おれ、漫才やりたいねん。お前も爪先立って踊ってくれやああ」
ツ「なんで話がこないなるねん」(といいつつ、ツもつま先立ちになる)
ボ「お、おれより、うまいやんけ」(お互いの肩をつかみあいながら、ぐるぐる回る、ほっと一気に二人同時のキメポーズをする)
ツ「しかし、このままではあかん。なんとかして元に戻してもらわな」
ボ(観客に向かって恥も外聞もなく絶叫)「お客様の中にアマビエはいてはりませんか、どっかに隠れてませんかあ、お隣の人の顔、よう見てください~アマビエではないですかあ」
ツ(気遣う)「お前…」
(二人とも大きく羽ばたく動作をしながら客席に向かう)
ボ(必死に叫ぶ)「うそついてすんませんでしたあ、ぼくのくつは黒くて、はげちょろで、底が抜けたくつですう。リサイクルショップで三百円で買いましたあ。赤いくつではありませんでしたあ、うそついて、ごめんなさいよおおおお」
ツはボの泣き叫ぶセリフを聞いているが、いきなりボが、かかとを下ろす。
ツ、ボ共に「あっ下りた、下りたやんか」
ツ「わけわからんけど、許してもらえたんやろ」
(抱き合って喜ぶ)
ボ「アマビエさまあ、おおきにい、ありがとおおお」
ツ「ま、よかったがな。それにしてもまあ」
ボ(赤いくつをぬぐ、しかしくつしたのままでまたつま先立ち)「あ、思い出した」
ツ「なんや」
ボ「ぼくのかかとな、両方ともネズミにかじられて今痛いねん」
ツ「川で?」
ボ「うん」
ツ「水きりとくつを落としたこととアマビエはどうなった」
ボ「わからん」
ツ「作り話か、夢オチか、お前、心配してたのに怒るで。赤いくつもどこで拾ったんや」
ボ「川で水きりしていてな、くつを流してしもてな、甘海老が川の上で跳ねていてな」
ツ「は? アマビエでなくて甘海老?」
ボ「ほいでな、甘海老がこない言うねん。あなたのくつは…」
ツ「もうええ、やめろ」
ボ(つま先立ちしながら退場)「ぼくのかかと、ネズミに」
ツ(怒りながら追いかける、退場)「やめろっちゅうねん」
●●● おしまい ●●●




